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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「自分が決めた道」

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第10話「駆け落ち疑惑」

「連れ戻されてしまったよ。...公国に」

 エミの言葉に、レティシアは固まった。エミはそんなレティシアを見て、小さく頷く。


「あそこで雪崩があってね、すぐに、公国側の村人たちも廃坑道に被害がないか見に来たんだ」

(やっぱり……廃坑道は公国とつながっているのね)

 皇后教育で学んだことが頭をよぎる。


 ―――国境を越えるには正式な関所を通らなければならない。

 ―――それ以外は違法とされている。

(そんな場所が、今も残っているなんて……)


「皆で雪崩に巻き込まれた人がいないか探してたら、谷の入り口で彼を―――ルシアン・エヴラールを見つけたんだ」

 雪に埋もれたルシアンの姿が目に浮かび、レティシアは全身から血の気が引いた。あらためて、一歩間違えればもう生きてはいなかったような厳しい状況だったのだと思う。 


「急いで介抱していたら、公国の人たちが胸のペンダントを見つけたらしくて。なんか一気におお騒ぎになったんだ」

(もしかして、ルシアンのお母さまの形見のペンダント……?)

 それは、おそらく幼い頃からルシアンが何よりも大切にしていたものだと思った。昔、ルシアンが「亡き母の家門の紋章なんだ」と、大切そうに見せてくれたことを思い出す。


「私には何が何だかさっぱり分かんなかったけど、あの人たちは『若様だ』『見つけた』って言って、たくさん人を呼んですぐ公国へ連れて行ったよ」

 レティシアはあまりのことに言葉が出ない。

(ルシアンが……公国へ連れ戻された……そんな)

 胸が締めつけられる。幼い頃に公国に捨てられたも同然のルシアンが、こんな形で公国へ戻ることになってしまった。ルシアンが目を覚ましたら何を思うのだろう、と胸が痛くなる。


「でもね」

 思いつめた表情で何も言わないレティシアを見つめるエミ。

(ショックのあまり言葉が出ないんだ…)


「彼、うわごとのように何度も『レティシア……』って呼んでたよ」

 慰めるように声をかけるエミ。その言葉にレティシアは目を見開く。

(ルシアンが……私を)

「だから、きっと近くにもう一人いるんだって探したんだ。そしたら、谷底であなたを見つけた」


 雪崩の中でも、自分のことを気にかけてくれていた。

(ルシアンが私を呼んでくれなかったら、私は助からなかった)

 ルシアンの思いに、胸の奥が熱くなる。


「でもみんな、ルシアン・エヴラールを連れてあっという間に行っちゃって。離れ離れになってしまったね」

 レティシアは静かに目を伏せて、首を振った。

「助けてもらっただけで、もうじゅうぶんです」

 最後の方は、感謝の気持ちがあふれて涙声になる。また涙が溢れてくる。

 ―――こんなにも、自分が他の人に助けられるなんて。こんな気持ちをどう表現すればいいの。

 エミはただただ、レティシアの涙を拭いて傍にいてくれる。

(なんて優しい人……)

 そして―――ルシアンは生きていた。

「ルシアンが生きていてくれたら、それで……」

 気持ちを言葉にするとまた涙が一緒にこぼれ落ちる。

 彼は生きている。それだけで安心できる。それだけで十分嬉しい。でも―――

 嬉しさだけではない。

(公国へ連れていかれてしまった……)


 動けない今の自分にはとうてい抱えきれない事実が。どうしようもない現状が。

 レティシアに重くのしかかるのを感じた。


 ―――その時

 ドンドン!

 ―――ドアをたたく音がした。

「エミ、エミ!」


 ドアの外から男の人の声がする。

「あ、ベルンかな。あなたを運んでくれた人だよ」

 エミが、彼を中に入れていいか、というような表情でレティシアを見る。


 レティシアはお礼がしたいと思い、うんうんと頷く。頷くたびに痛みが襲うが、そうは言っていられない。生きてここに居られるのは少なくともエミとエミの母、ベルンという男性のおかげなのだ。


 それを見てエミは頷き返す。そしてドアの外に向かって、

「いいよ、入って」

 と答えた。


 ドアが開き、二人の男が入ってきた。レティシアは少し緊張し、指先に力が入る。

「大丈夫かい?目を覚ましたって聞いたから……」

 ベルンと思われる黒髪の大きな人が一人、遠慮がちに声をかけてくれる。表情も口調も、体格に見合わず優しそうな男性だった。その雰囲気に体の力が少し抜ける。そして笑顔で答える。

「はい、ありがとうございました。おかげで助かりました」

 レティシアは寝たままではお辞儀ができず、目を閉じ何度も頷くようにして懸命に感謝を伝える。

「助かってよかった、新雪の雪崩で雪が軽くて幸いだったね」

「はい、本当に。あなた方のおかげです。ありがとうございました」


 そう言って、目を開いて後ろにいる男の姿を見た。


 ――ドクン。


 レティシアの心臓が大きく脈打った。

(この人は……)

 ―――ドクン、ドクン


「あ、レオニスも来てくれたんだね」

「雪崩に巻き込まれた恋人同士ってやつを見物にな」

「言い方!」

「あ、レティシア、こっちはレオニスだよ」

「俺はレオニスだ」


 全身が強張るレティシア。

 ――赤胴色の髪。

 ――鋭い目。

 ―――雪の中で見た、あの男。


 西の城壁を襲撃した過激派組織にいた男。

 雪に爆弾を投じて雪崩を起こし自分とルシアンを雪崩に巻き込んだ男。


 その男が今、目の前に立っている。

 レティシアは息をのんだ。


(この人は……!)


 ようやくレティシアは、自分が過激派組織の根城にいるのだと悟った。




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