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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「自分が決めた道」

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第9話「推理モノ好きなエミ」

「え…?……なぜそう思うの……?」

 逆に、レティシアが問いかける。


「だって、あなたが顔に巻いていた麻布、ラヴィエール公国の民芸品だもの」

「顔に巻いていた……?」

 それを聞いて、断片的にぽつぽつと記憶が思い出されてくる。

(たしかに顔を隠すために麻布を巻いていた。でも、あれは......)

(そう、西の城壁が攻撃された時にルシアンに渡された布。あの時たしかルシアンと剣術の訓練をしていて、それから……)


 レティシアの記憶の中に、ルシアンに強く抱き寄せられた記憶がよみがえってくる。


(……あれ?ちょっと待って……!)


 ―――『ずっと前から君のことが好きなんだ』

(やだ!なんてこと!)

 ルシアンから好きだと言われた。そのときのことを思い出す。恥ずかしくなり、頬がみるみる赤くなる。

(ルシアンの気持ち……)


 生まれて初めて受けた告白。しかも、相手は幼なじみのルシアンからだった。なのにその直後に襲撃があって……すっかり忘れていた。

(なんて無神経な自分なの)


 そして、最も大切なことをようやく思い出した。

(そうだ!ルシアンは!?無事なの!?)


 どうして忘れていたのか、目の前のことばかりに意識が行ってしまう自分に呆れる。

 しかし、ルシアンが無事かどうか、その答えを聞くのが怖い。

(ルシアンが...もし助けられていなかったら...もう生きていなかったらどうしよう……)

「あの…」

 おそるおそる、聞いてみる。

「もう一人いなかったかしら。えっと、名前はルシアンという男性なの……」


 レティシアからその名前を聞いて、エミはきらきらと目を輝かせた。

「ルシアン…?そう、やっぱり!」

 レティシアの手を握り嬉しそうにうんうん、と頷く。

「あなた、ルシアン・エヴラールと駆け落ちしてきたんでしょ!?」


 あまりに唐突な言葉に、レティシアは驚いて目が丸くなる。

「ええ?……え、ええっ⁉」

(どういう推測でそうなるの……)

 母親は暖炉の薪をくべながら肩を震わせていた。後ろ姿からしか見えないが、どうやら笑っているようだった。

(話が見えないけど、こちらの素性は隠した方がよさそうだわ。ルシアンが生きている手がかりを知れそうだし、まずエミの話を聞いてみよう)

 駆け落ちと思われたことがなぜなのか分からないが、誤解を解く前にひととおり話を聞くことにした。

「ルシアンの行方を知っているのですか?」

「うん、大丈夫、彼は生きてるよ」

(ああ、良かった...)

 生きていると聞いて、レティシアは安堵する。

 ではどこにいるのだろうか、それを聞こうとしたとき、エミが饒舌に話し始める。


「私の推理を聞いてくれる?駆け落ちしたって話よ。まずは、さっきも言ったけどあなたのその麻布はラヴィエール公国のものでしょ」

 エミは得意げに人差し指を立てて、話し出した。エミはこういった推理をするのが好きなようだ...。

「たしかに……」

(そうなのね、たしかにルシアンの麻布、これは幼い頃からルシアンがずっと持ってるものだわ)

 西の城壁が攻撃された時、口を覆うようにとルシアンから渡されたものだ。あれがラヴィエール公国の民芸品だったとは知らなかった。ルシアンは自分の祖国のものを大切に持っていたのか……。そう思うと、幼い頃から一緒にいたのに、彼の祖国への思いを聞いたことがない自分の無神経さに、また情けなくなるレティシアだった。


「次に、あなたはそんな剣士のような恰好をしているけど、綺麗な容姿から推測するに、……実は貴族の令嬢じゃない?」

(貴族令嬢…それは合ってるわ)

 身なりに関わらず、身分を当てられてレティシアはどきりとする。”綺麗”というところは謙遜したいレティシアだったが、口をはさむのはやめて話の続きを聞くことにする。エミは推理を続ける。


「そして、あなたが時々うなされて”ルシアン”って言ってたけど、ここらで”ルシアン”って言ったら、もう何年も行方不明の公国の公爵家嫡男、超有名な悲劇のルシアン・エヴラールしかいないでしょ!」

「え、ええ⁉」

 それを聞いて驚くことが二つもあった。


(ルシアンの名前を言って、うなされていた⁉……殿下の夢を見ていたのに?)

(いやいや、それよりも、ルシアンってそんなに有名人なの⁉)

 エミの話の展開が早すぎて、レティシアの心の中は忙しい。何をどういえばよいのかさっぱり分からなくなる。

 レティシアが否定しないものだから、エミは「やっぱり」と言わんばかりに何度もうなずいた。


「大丈夫だよ、分かってる。誰にも見つからないようにやってきたんでしょ。普通に国境を超えると見つかっちゃうから、公国に通じるあのグランベルの廃坑道を通って......!」


(なんですって?グランベルの廃坑道は、公国に通じているの?)

 エミの話が衝撃的すぎて、思わず口に出そうになる。しかし下手なことを言ってエミが口を閉ざすといけないので、我慢した。そしてレティシア

は、ただ目を大きく見開くばかりだった。


 ───そして、エミは少し表情を曇らせた。


「残念だったね。ルシアン・エヴラールは...」

 ―――ドクン。

(ルシアンは……?)


「連れ戻されてしまったよ。...公国に」

「…………え」


 その一言しか出なかった。


 ルシアンが、公国へ。

 その言葉だけが、何度も頭の中で反響していた。


 

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