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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「自分が決めた道」

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第5話「ヴァレリア領からの緊急報告」

 ───帝都にあるヴァレリア辺境伯家の別邸。

 その門の前には、出立のための馬車が二台並んでいた。一台はヴァレリア辺境伯家のもの。そしてもう一台は、見送りに訪れた皇室の馬車である。

 今日、辺境伯が帝都を立つと聞き、アルフォンスは自ら別邸を訪れていた。


「それでは殿下、失礼いたしますぞ」

 ヴァレリア辺境伯がそう言って馬車へ乗り込む。

「ああ。また会おう。道中、気を付けて」

 アルフォンスが穏やかに頷くと、辺境伯も力強く頷き返した。


 そして今度は、エレオノールが一歩前へ出る。

「短い間でしたが楽しい滞在でした」

 そう言って優しく微笑み、右手を差し出した。


 アルフォンスはその手をそっと握ると、

「先日は取り乱したな」

 と少し小声で言った。


 あのとき―――

『隠していたのか、本当の自分を』

 エレオノールの前で感情をあらわにしたとき。

 レティシアは幼い頃から皇后候補として、本当の自分を隠して生きてきた。

 それを見て見ぬふりをしてきたのは、自分だ。

 そして、追い詰めた。

 傷つけた。 ……ひどく───


「あれから彼女のことを何度も考えている」

 その声は弱々しかった。


 その言葉に少し驚き、エレオノールは目を見開く。そして優しい笑顔を見せ、頷いた。

「ぜひ彼女と……再び向き合ってください」

 そして、まっすぐアルフォンスを見つめ、右手に力を込めた。

「状況が落ち着きましたら、ぜひ領地にお越しください」


「ああ、ぜひ」

 アルフォンスも微笑む。

 ―――その時。


「旦那様! ヴァレリア領より早馬です!」

 従者が門を駆け抜けてきた。


 辺境伯は馬車から飛び降り、急いで封書を受け取る。そして封蝋を見るなり顔色を変えた。

「……軍の緊急印だ。」

 エレオノールの顔も強張る。

「父上?」


 辺境伯は顔を上げた。

「殿下、エレオノール。直ちに皇宮へ向かう」

「何があったのですか」

「……分からん。だが、これはきっとただ事ではない」


(一体、何が───?)

 アルフォンスは馬車を急がせ、込み上げる不安を何度も打ち消した。





 皇宮の会議室に関係者が集められた。


 この場には皇帝、皇太子。

 2大公爵家であるヴィクトル・ヴァレンティーヌ公爵とロシュフォール公爵。

 ヴァレリア辺境伯とエレオノール。

 そして宰相が立ち会う。


 緊迫した空気の中、皇帝は机上の報告書を手に取った。そして読み上げる。


「……ヴァレリア領境界領域にて、過激派組織による襲撃が発生」


 辺境伯とエレオノールが思わず立ち上がる。

「何と……!?」


 その報告に緊迫しざわめく一同。


(何だって?襲撃……!?)

 アルフォンスの心臓が跳ねる。


「組織は西の城壁を爆撃、地下牢に捕獲中の盗賊団の頭を殺害」

 皇帝の声が静かに響く。

「襲撃はその日のうちに、鎮圧」

 鎮圧という言葉に、その場の空気が僅かに緩む。


 しかし―――

「負傷者三十二名、死亡者九名。関連して雪崩に巻き込まれ行方不明者二名、うち一名は、……!」

 そこで、皇帝は読み上げる声が止まる。


 生唾をごくりと飲み、皇帝はヴィクトル・ヴァレンティーヌ公爵を見つめる。

 ヴィクトルは目を見開き、次の言葉を待つ。


「レティシア・ヴァレンティーヌ嬢……」


 一瞬の静寂。


 そして、

「……今、なんと」

 ヴィクトルの声が低く落ちる。


「……レティシア・ヴァレンティーヌ嬢が行方不明」

 皇帝は一度言葉を切った。

「もう一人については、記載がない」


「まさか……公爵令嬢が行方不明だと……」

 ロシュフォール公爵が息をのむ。


(レティシアが行方不明?)

 アルフォンスは固まった。

 意味が分からない。

 なぜ雪崩に巻き込まれる?

 行方不明?

 視界から、すっと色が消えていった。

(……レティシア・ヴァレンティーヌ嬢)

 その言葉だけが、頭の中で反響していた。


「陛下、発言をお許しください。我々は直ちにヴァレリア領へ帰郷したく存じます!」

 勢いよく立ち上がる辺境伯とエレオノール。

 その目からは、怒りと焦燥が滲み出ている。


「許そう。追って経過を報告せよ」

 短く答える皇帝。

「は!」

 席を立ち、出口へと歩き出そうとする辺境伯とエレオノール。一刻も早く領地へ向かいたいという気持ちがはやる。

 だがその前に...。

 辺境伯は、上座へ向かう。


 ヴィクトルはゆっくりと座り直していた。

 その表情は恐ろしく硬い。


「ヴァレンティーヌ公爵殿、我々が必ずレティシア嬢を探し出します」

 辺境伯はヴィクトルに近づき、声をかけた。

 ヴィクトルは辺境伯を見つめ、目だけで頷いた。


 そして、ヴィクトルの視線がふと宰相へ向く。

  宰相は静かに座ったまま、何一つ表情を変えていなかった。


 重苦しい沈黙が会議室を包む。


 辺境伯とエレオノールが会議室を出ようとした時だった。


「……陛下」

 その沈黙を破ったのは、アルフォンスだった。


「私もヴァレリア領へ同行させてください」

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