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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「自分が決めた道」

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第2話「本物の戦い」

 指令室を飛び出すと、凍てつくような風。

 雪が頬に打ちつける。

 西の空には黒煙が立ち上る。

 遠くから怒号と金属のぶつかり合う音。


「急ぐぞ!」

 ルシアンが叫び、小隊がそれに応える。

 二十名ほどの小隊が雪を蹴り上げながら走る。

 レティシアとノエルもそれに続く。


 負傷者のうめき声。

 誰かの叫び声。

 訓練では聞いたことのない音ばかりだった。


 無意識に剣の柄を握り直す。

 ───怖い

(これが戦場......!)


 いつかのガレスの言葉が、頭に浮かぶ。

『命を狙ってくる敵は、死に物狂いで来る』

 背筋がぞくりとする。

 これは人と人が傷つけ合う、本物の戦いだ。


 一行は崩れた西の城壁を大きく迂回し、雪深い林へ入った。


 やがて先頭を行くルシアンが拳を上げる。

 隊列がぴたりと止まった。


 遠くから怒号が聞こえる。

 金属がぶつかり合う音。

 第三騎士団が、今も敵を引きつけているのだ。

 白い息を吐きながら、レティシアは剣の柄を握り直した。


 戦場は、もうすぐそこだった。







 武装した二人の男が、西の城壁をよじ登る。

 壁を超え降り立つと、迷いなく司令施設へ向かって駆け出した。

 目的地は、ただ一つ。


 この司令施設は全て古い石造りになっている。

 草の茂みに隠されるように、その入口がある。

 地下牢へ続く石段。

(───見つけたぞ)

 男たちは石段を駆け下りる。

 そしてやがて薄暗い地下牢にたどり着いた。

 西側へ兵士が集まっている。

(よし、ここは手薄だ)

 わずかに残されている牢番を気絶させ鍵を奪う。

 そして探している男を探す。

 ブラウンの髭の、男を。


「いたぞ」


 男たちは素早く鍵を開ける。

 男のうちの一人は見張りに立つ。

 一人がブラウン髭の男に駆け寄る。

「おい起きろ」

 ブラウン髭の男は横たわり、朦朧としている。

「……頼む、ここから出してくれ。もう知っていることは全部話した……」

 ブラウン髭の男はうつろに話す。

 どうやら自力では起き上がれないようだ。

「何を話した」

 問いかける声は無慈悲で冷たい。

「レオニスの...組織に頼まれてやったことだ。...何回も話したろう」

「それで?」

「...上に、もっと偉い奴がいる。レオニスでさえ……頭を下げてた。」

 目を閉じたまま応えるブラウン髭の男。

 その答えに舌打ちをしてさらに問いかける。

「...それが誰か、お前は分かっているのか?」

「だから知らねえって言ってるだろ!」

 懇願と苛立ちの混じった声を上げ、ようやくブラウン髭の男は顔をあげた。

「その赤毛。お、お前は───レオニスか?」

 ブラウン髭の男は目を見開いた。

 レオニス、と呼ばれた男はニヤリと笑った。

 灰青色の瞳が笑う目じりは年齢以上の皺が刻まれている。

 頭に巻いた麻布から、白髪交じりの赤胴色の頭髪がはみ出し、見えていた。

「しゃべってないだろうな」

 ブラウン髭の男の目に僅かに希望が宿る。

 組織のリーダー、レオニスが自分を迎えに来た。

(助かった...)

 諦め、捨てていたはずの希望。

 安堵が男を包み込む。

「しゃべってねえ。おい、ここから出してくれ」

「ああ兄弟、出してやるよ。ここから、な」

 レオニスはブラウン髭の男の肩を抱き抱えた。

 ───その時だった。


「それは困るな」

 低い声が、薄暗い地下牢に響いた。







 ルシアンの率いる小隊二十名は、指示された地点に到着した。

 円を書くようにして、ひっそりと陣を組む。

「我々は敵の後方から奇襲をかける。おそらく城壁の攻撃はおとりだ。時が来たら撤退する」


 誰かが問いかけた───

「では、本当の敵の狙いは?」


 一瞬の静寂。

 白い息を吐き、ルシアンは西の空へ目を向けた。

 立ち上る黒煙。 響き続ける怒号。

 それらを見据えたまま、静かに口を開く。


「本当の狙いは、地下牢だ」




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