第1話「覆面剣士の復活」
―――ドオォォォン‼
三度目の爆音が響いた。
「西の城壁だ!」
誰かの叫び声が聞こえる。
雪を載せた木々がびりびりと震え枝の雪がばさりと落ちる。
「レティ、屋敷へ戻れ」
ルシアンはレティシアを引き離し、真剣な眼差しで言う。
屋根に積もった雪が一斉に崩れ落ちた。
「……嫌よ」
全力で首を振るレティシア。
「は?」
そこへ兵士が伝令にやってくる。
「ルシアン小隊長殿、緊急招集です!」
「了解、すぐに向かう」
返事を聞くや否や、兵士は慌ただしく駆け去っていった。
「私も行く!」
レティシアは剣を握り、すぐに駆け出す。
あわてて後ろを追いかけるルシアン。
「だめだ、君は屋敷へ!」
ルシアンは屋敷の方を指し、真剣な表情で訴える。
「私も戦える!」
レティシアは少しだけ振り返り、叫んだ。
止まるそぶりなど微塵もない。
ルシアンは走りを早め、レティシアに並ぶ。
「だめだって‼危険すぎる!」
「いいえ!」
横に並んで走るルシアンに大声で訴える。
「領主とエレオノールが帝都にいる今、少しでも戦える者が必要なはずよ!」
そこへ再び――
―――ドオォォォン!
轟音が響く。続いてガラガラ、と激しい音が続く。
「西の城壁が完全に崩れたぞ!」
「敵が来るぞ!」
兵士たちが叫ぶ。
二人は指令室へと続く階段を駆け上る。
「ほんとダメだって!師匠が許可しない!」
ルシアンが今度はさらに強く叫び、言う。
レティシアもつられて大声になる。
「誰の許可が要るのよ!」
レティシアはぴたりと足を止め、きっとルシアンを見上げた。
「私がそう決めたのよ!」
ルシアンはハッとする。
「私はもう、誰かに決められるだけなのは嫌」
そして、ルシアンから渡された麻布で口元を隠し、外套のフードで銀髪をすっぽりと隠した。
「これでいいわ」
覆面の下で、その薄紫色の目だけがきらりと輝く。
「これで私って分からないでしょ!さ、行きましょう!」
その姿に、ルシアンは一瞬だけ目を見張った。
再び走り出していくレティシア。
(覆面レティの復活か……!)
───そして心の中で思った。
(いや、絶対バレるだろ……)
指令室は騒然としていた。
多くの兵士が出たり入ったりしている。
突然のことに兵士たちは慌て、バタバタと動きが激しい。そんな中、ガレスだけは妙に落ち着いて見えた。
現在は第三騎士団が応戦していると伝えられた。
二人を見ると、ガレスは片方の口角を少し上げた。
そして近寄るなり、
「ルシアン、そいつは誰だ」
と聞かれる。レティシアに緊張が走る。
(やっぱバレてる)
ルシアンの答えがしどろもどろになる。
「えっと、さっきそこで初めて会いました!入隊希望者です!」
ガレスが目を細め、見つめる。
「……そうか。怪我すんなよ」
とだけ言って幹部兵士たちのもとへ戻っていった。
「バレなかったね」
とほっとするレティシア。
その言葉に驚くルシアン。
「いや、あれはバレてるだろ...」
二人が言い合いしていると、ノエルが伝令をルシアンに伝えに来た。
「ルシアン小隊長、君と僕が外から回り込んで、第三騎士団と協力して挟み撃ちにする作戦だって」
ふとノエルが覆面レティシアに気が付く。
「あれ?この人は?」
(バレるぞ…)
(バレるかしら…)
二人は覚悟を決めた。しかし───
「見ない顔だね。新人?よろしく。僕はノエル」
「は、はい。よろしくお願いします」
握手を求められ、応じるレティシア。
(バレてない…)
(うそでしょ、ノエル、貴方のお姉さんよ)
そしてにっこりと言う。
「人手が足りないから、きみも来てよ!なんか…強そうだし」
レティシアの耳元で必死に訴えるルシアン。
「だめだって…!」
ルシアンの懇願をよそに、ノエルに向かってレティシアは返事をする。
「了解しました!」
ルシアンは思わず苦笑した。
───ああ、この無鉄砲な感じ。
(昔のレティだ)
懐かしさが胸をよぎる。そして同時に悟った。(もう、彼女は止まらない)
(ならもう、自分にできることは一つだけだ)
───絶対に守る。
ルシアンは小さく息を吐いた。
「……分かったよ」




