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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「私が”わたし”を取り戻すまで」

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第3部 最終話「俺はずっと前から…」

 今朝の空は薄曇りで、いまにも雪が降りそうだ。


 訓練の相手に、とノエルを誘いに行った。

 しかし朝に弱い弟は起きてくれなかった。

(でも、この時間ならルシアンがいるはず)

 迷わずレティシアは稽古場へ向かった。


 稽古場で、一人で剣を振るルシアンが見えた。

「おはよう!ルシアーン!!」

 大きな声で呼びかけた。


 名前を呼ばれ振り向くルシアン。

 レティシアを見るとにっこりした。

「おはよレティ。今朝はずいぶん早いね」


 ルシアンのもとへ駆けてゆく。

「剣を振りたくて仕方なかったの!さ、勝負よ!」

 走りながらルシアンに向かって剣を抜く。

「わ、ちょっと、待てって―――」

 ――――キン!

 慌てて構えるルシアン。

「今日の私はひと味違うからね!」

「なんだよそれ、うあっ」

 ――――ガキン!


 二人の剣がぶつかり合う鋭い音が、冬の朝の静けさを破る。

 レティシアは剣に集中していた。

 これまでは―――

 現実から逃げるための剣だった。

 考えたくないことがあるとき。

 自分のすべきことから目を背けたいとき。

 剣を振っている間だけは、全部忘れられた。


 ―――でも今は違う。

(私は剣が好きなんだ)


 ―――ガキン!


 勢いよく振り下ろしたレティシアの剣を受けるルシアン。

 二人の剣と剣が噛み合い、互いの顔が近づく。

 ルシアンの琥珀色の瞳がレティシアを捉える―――

「何かあった?」

 ルシアンが剣を持つ手に力を込めながら聞く。


 レティシアも力を抜かず、答える。

「分かるの?さすが親友。やっぱりルシアンには何でもお見通しね」


「親友……?」

 ルシアンの目が一瞬だけ、わずかに揺らいだ。


「そっか」

 ルシアンが剣を滑らせるように合わせ、刃を逸らした。

 力を逃されたレティシアは横へ半歩ずれた。

 ルシアンは、剣を持つ手をそのまま下げた。

「ルシアン?」


 そしてくるりと向きを変え、背を向けた。

「レティは僕のこと親友だと思ってんの?」


(ルシアン、怒ってる?)

 ルシアンの顔はレティシアからは見えない。

 でも、声はいつもと違って少し低い。


 目をぱちぱちさせる。

「そうだよ」

(親友だと思っていたのは私だけ?)


「僕は……」

 ルシアンはまた向きを変えこちらを向く。

「……いや、俺は」

 琥珀色の瞳がまっすぐに見つめてくる。


(どうしたのルシアン、なんだかとても真剣で…)

 何も言わずに見つめ返す。

「違うの?」


「違う」

 一歩、もう一歩とレティシアに近づく。

「君のことをそんな風に思ったこと一度もない」

 二人の白い息がふわりと空へ溶けていく。


 ルシアンはそっとレテシィアを抱きしめた。


 温かかった。

 剣を握る大きな手も、胸に触れる鼓動も。

 レティシアは、なぜか動けなかった。

(ルシアンの匂い……)

 初めて知る近さに、息の仕方さえ分からない。


 稽古場から音が消えたようだった。


「俺は君のことが……」

 その言葉に、レティシアに予感が走る。

 ルシアンの胸から、速い、大きな鼓動が響く。


「ずっと前から君のことが好きなんだ」

 レティシアを優しく抱きしめながら、ルシアンは告げる。

 レティシアは目を見開いた。


―――ドクン、ドクン

 自分の鼓動なのか、ルシアンの鼓動なのか分からない。

 胸の音だけが、やけに大きく響いている。


「ルシアン、私は―――」

 そう、言いかけたときだった。




 ―――ドォォォォン!


 世界が割れたかと思うほどの轟音だった。

 次の瞬間には、ルシアンに強く抱き寄せられていた。


 辺り一面に白い煙が広がった。


「口を覆うんだ!」

 ルシアンは稽古の汗を拭くための麻布をレティシアへ押しつけた。

 自分は袖口で鼻と口を覆う。


 次の瞬間

 ――――うぉぉぉぉ!


 男たちの雄叫びが冬空を切り裂く。


 ―――ドオォォォン‼ 


 (まさか、もう始まったの……?)

 心臓が早鐘のように打つ。


 ルシアンは強張った声で言った。

「襲撃だ。おそらく、奴ら―――過激派組織だ」


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