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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「私が”わたし”を取り戻すまで」

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第17話「緊迫の執務室」

「皇帝陛下にお目にかかります。ヴァレリア辺境伯、帰還いたしました。」

 辺境伯は手を胸に当てて頭を下げる。

 皇帝は執務机から顔を上げた。


 帝都に到着したヴァレリア辺境伯は、さっそく皇帝に謁見を願い出ていた。


「……ヴァレリア辺境伯か。遠方よりご苦労だった」

 手に持っていた用紙を、積みあがった書類の山の一番上に置く。

「南部街道の視察から戻ったばかりで、すぐにこちらへ来たと聞いたが」

 穏やかな笑みを浮かべているが、辺境伯を見つめる目は鋭い。


「はい。早速ですが、皇帝陛下にご報告申し上げたい件がございます。」

「よほど急いでいるようだな……」

 皇帝はゆっくり立ち上がった。


「その顔を見るに、良い報せではなさそうだな」


 辺境伯を傍のソファに座るよう促し、自らも向かい側に腰かけた。

「先日、絹行商を狙っていた盗賊団の討伐に成功したと聞くが」


「はい。その件で」


 辺境伯は、盗賊団につながる過激派組織の存在を――

 さらに現在はその根城を捜索していることを伝えた。

「あとは領内の警備強化と、組織の根城を発見次第、討伐へ向かう所存です」


 黙って聞いていた皇帝は、小さくため息をつく。

「過激派組織か……やっかいだな」

 独り言のようにつぶやいた。


「はい、どれほどの規模の組織と成っているかはまだ……」

 辺境伯は声を潜め、前に座る皇帝に近づくように身を乗り出し、

「しかし背後にはおそらく…」

 辺境伯はそこで口を閉ざした。


 皇帝の眉がピクリと動く。


(もっとも伝えたいことはこれであったか)

 そっと目を閉じる皇帝。

(資金のない組織が、これほど長く活動できるはずがない……)

 ふうと息を吐きだす。そして、低く小さな声で唸るように言う。

「裏でつながっている貴族がいるということか」


 辺境伯がゆっくり頷く。

 「目星はついているか」

 「いいえ、まだです」

 「そうか……」

 再び目を閉じ、人差し指をトントンとテーブルに打ち付ける。


 皇帝が出す指の音だけが執務室に流れる。

 辺境伯は目を閉じている皇帝をじっと見据える。


 やがて、しばらくの後に皇帝が静かに口を開いた。

「……分かった。必要であれば帝都からも兵を出そう。何かわかればすぐに報告を」


 ゆっくり頭を下げる辺境伯。

「承知しました」


 皇帝は頷き、辺境伯を見つめて低い声で問いかける。

「ほかには?」


 問われて、辺境伯は息を止めた。

 頭を下げたまま辺境伯は少しの間、考える。

(出納帳の件は……まだ話せぬ)


 ―――コンコン。


 沈黙を破るようにノックの音が響く。

「謁見中だ」

 皇帝が静かに応える。


「私です。エドモンです」

 ドアの向こうから宰相の声が聞こえる。


「宰相か」

 皇帝は辺境伯を見る。

 ゆっくりと頭を上げる辺境伯。

 宰相がドア越しに続ける。

「ヴァレリア辺境伯がご到着とお聞きしました。私も同席願いたく存じます」


 辺境伯は静かに頷いた。

 それを確認し皇帝は、

「入れ」

 と命じた。


「失礼いたします、陛下」

 宰相が一礼し、部屋に入りドアを閉めた。


「ヴァレリア辺境伯、ご無沙汰しております」

「ご無沙汰しております、宰相閣下」


 宰相はヴァレリア辺境伯の険しい表情を見て、わずかに眉をひそめた。


 皇帝に座るよう促され、辺境伯の隣に座ると、

「何やら大事なお話だったようですな」

 すぐに問いかけた。


「ああ。盗賊団の件について報告を受けていた。」


 宰相が顔だけで辺境伯を見る。

 辺境伯は一瞬だけ考え、皇帝に向かい頭を下げた。

「……私からのご報告は以上にございます」


 皇帝は何も言わなかった。

 ただ、辺境伯をじっと見つめていた。

 まるで何かを確認するように。


 少しの間、三者に沈黙が流れる。

 宰相はどこを見るともなくテーブルを見つめている。

 この横顔を辺境伯は目の端で見る。


「そうか。長旅で疲れておろう。今日はゆっくり休むがよい」

 と、皇帝は大きく頷き明るい声で退席を許した。


 その言葉により、空気の流れが変わる。


「御心遣い、感謝いたします」

 辺境伯は席を立ち、一礼をした。

 部屋を出ようとしたとき、一瞬だけ宰相に視線を投げる。


 宰相は視線を落としたまま、ゆっくりと乾いた唇を湿らせた。

 その指先だけが、わずかに膝を打っていた。


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