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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「私が”わたし”を取り戻すまで」

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第16話「消えた税収」

 アレクシスは険しい顔をしている。

 少し、青白いようにも見える。

 手には何か書類を持っている。

「どうしたんだ?」


「約束もないのに突然申し訳ございません」

 アレクシスが中に入り、静かにドアを閉めた。

「父上から、殿下だけに伝えるようにとの命令で参りました」


(”殿下”……か)

 アレクシスに今まで”殿下”と呼ばれることはなかった。

 よそよそしい態度にアルフォンスは唇を固く結び、着席を促した。

 アレクシスは慣れた足取りでソファに座る。


 以前はこうしてよくアルフォンスを訪ねていた。

 気の置けない友として。だが今日は……。


 アレクシスは一息つき、

「ヴァレリア領で―――」

 と話し始める。

 一瞬、レティシアの顔が脳裏をよぎり胸がわずかに躍る。

 しかし、アレクシスの深刻な声にその高鳴りは胸騒ぎへと変わった。


 アレクシスは小声で慎重に話す。

「宰相府へ提出された出納表に手が加えられた可能性がある、と報告があったんだ」


(なんだって?)

 あまりに唐突な内容に驚いて言葉が出ない。

(そんなことがあり得るのか?)


 アルフォンスの様子を確認してアレクシスは頷く。

「信じられないだろう。しかしこれは本当だ。ガレス・オルディン隊長からの報告だ」

 手に持っていた書類をアルフォンスに渡した。


 その書類には───

 何者かが宰相府管理の出納表を改ざんし、ヴァレリア領の絹税の減少を隠していたと報告が記されていた。

(まさか───そんな)

 あまりのことに書類を持つ手が震える。


 アレクシスが眉間に皺を寄せ小声で続ける。

「誰がやったかは、分かりません。だから話せる相手は殿下しかいないという判断で、参りました」


「それは―――」

 言いかけてはっと息をのむ。

(”やっていない”と確信した相手にしか話さないということか......)


 信頼されていることの安堵。

 しかし次に脳裏に浮かんだのは───

「父上も疑われていると?」

 緊張がみぞおちへと沈んでいく。


 アレクシスはゆっくり首を振る。

「それはないと思う。そうする理由がありません」


 それを聞いて安堵するが、肩の力は入ったままだ。胸がざわつき、心臓が早く打つ。

「それにより利益を得るものが疑わしいということか。それなら父上に話して───」

「本当にそれが良いと思われますか?」


 アレクシスの目がこちらを見ている。

 厳しい目つきで。

 優しい口調だが、考えを試されている。

 目を逸らせない薄紫色の目。

 その目と同じ人を知っている───。

「アルフォンス殿下は、皇帝陛下にこの事を報告するのが良いと思われますか?」

 アレクシスは、改めて言い直した。


 はっとする。

(しっかりしろ。考えるんだ)

 二人の間に沈黙が落ちる。


 やがて考えが、たどり着く。

「宰相府管理の出納表は厳しく管理されている。通常は改ざんなど不可能だ」

 考えを整理するかのように、目を閉じて独り言のようにつぶやく。


 アレクシスはその言葉に、頷く。

(ということは……)

 ある考えにたどり着く。

 パッと目を開けて、今度はアレクシスを見据えて話す。

「宰相がその不正に気が付かないというのは不自然だ」


「そうです。しかし、証拠がない」

 アレクシスはまた頷く。

 その口元がほんのわずかに緩む。


「そうだな。宰相は父上の側近だ。証拠もなく宰相を疑うことはできない」

「そういうことです」

「であれば、調べるべきは……」

 思考の糸がつながっていく感覚になる。

「そうすることで利益を得るもの、となるか」


 アルフォンスの言葉を聞き、アレクシスが立ち上がる。

「さすがだね」

 スッと右手を差し出した。

「父上と僕も、同じ意見だよ」

 そして少しだけ表情を和らげた。

「アル」

 その呼び名に、アルフォンスは目を見開いた。

 ―――そう呼ばれるのはいつぶりだろうか。

 ゆっくりと立ち上がり、差し出された右手を強く握り返した。

 目の前にいる友の顔をしっかりと見つめる。


「皇帝陛下には内密で捜査を行おう。これは……」

 薄紫色の瞳が鋭く光る。

 アレクシスの右手にわずかに力が込められる。


「ああ、宰相の罪を暴くことになるかも知れない」

 アルフォンスは、その手を静かに、しかし確かに握り返した。




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