第15話「アルフォンスの後悔」
また、窓の外を見ていた。
気がついて書類に目を移す。
チラリと机の端を見る。
減るばかりか、たまってゆく書類。
アルフォンスはため息をく。
気持ちが落ち着かない。
何度も同じところを見ている。
(...何度目だ?)
なぜか集中できない。
(そうだ。昨夜も眠れなかったな)
視線がまた、自然に窓へ向く。
そして思い出す。
───銀花祭
彼女に。
婚約者候補から外すと告げたあのとき。
涙に揺れる薄紫色の瞳。
短くため息をつく。
(認めよう)
気づけば、銀色の髪を探している。
(馬鹿げている)
首を振る。
(皇宮にいるはずもない)
それでも、視線だけが勝手に窓へ向かう。
(そして、探してしまう。彼女の面影を)
───でも、何処にもいない。
そして、失った事実を実感する。
(ああ、これが“喪失感”なのか)
何をしていてもすべてが虚しく。
食べるものも味がしない。
───こんな自分は初めてだ。
(私は冷静な皇帝にならなければいけないのに)
また思い出す、紫色の───
胸がチクリと痛む。
(...そうか)
(これが“後悔”か)
天井を仰ぎ見る。
そして、目を閉じる。
こうしていれば彼女の面影に会える気がする。
───コンコン
ノックの音。
「何だ」
目を閉じたまま、憂鬱そうな返事をする。
この時間に誰かと約束した覚えは無い。
(グレイスンが差し入れでも持ってきたか)
その時、ドアの外から声が聞こえた。
「僕だ。アレクシスだ」
驚き、目を開ける。
アレクシスとは、あの日───
レティシアと婚約破棄が承認された日。
それから顔を合わせることがなかった。
「入ってもいいかい?」
アレクシスの静かな声が聞こえた。
少し息が浅くなる。
「ああ、もちろん」
ぎこちない気持ちで、招き入れた。




