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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「私が”わたし”を取り戻すまで」

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第14話「自分は何者か」

 レティシアは稽古場にいた。


 外の空気は冴えている。

 そのおかげで、先ほどの衝撃が少し和らいだ。


 いま、第一騎士団の剣の訓練を見つめている。


 入隊したばかりのルシアンとノエルが剣を振る。

 二人はガレスの弟子である。

(私も同じ、ガレス先生の弟子なのに)

(私は入れなかった)


 理由は分かってる。

 ───公爵令嬢だから。


(もう殿下の婚約者候補じゃない私)

 レティシアは下を向く。

(騎士にもなれない私...)


 その時、エレオノールが休憩にやって来た。

「レティシア!父上が褒めてたよ、あなたの優秀さを」


 エレオノールに褒められたが素直に喜べない。

「ありがとう」

 ひとまず笑顔を作ってみせた。


「少し話してもいい?」

 エレオノールが真面目な顔をする。


「ええ」

 つられて真面目な顔になる。


「これから、本格的に過激派組織の討伐へ向かうことになりそうなんだ」


 ───盗賊団が、武装組織との関わりをついに吐いた。いま、アジトの捜索を第二騎士団が行っていると。突き止めたら次は第一騎士団が討伐へ向かうことになるそうだ。


「で、その前に父上と帝都へ行ってくるよ」

 エレオノールは言いにくそうに話した。


「うん、その......状況の報告に、ね」


(あぁ、殿下に会われるのね)

 羨ましくなった。

 そんな気持ちを悟られないように。

 また笑顔を作ってみせる。

「そうなのね。気をつけて......」


「ありがとう......」

 遠慮がちに返事をするエレオノール。


(隠しても無駄だわ。エレオノールは優しいから、私の気持ちなんて全部分かってるんだわ)

 エレオノールの優しさに気持ちがほころぶ。

「あなたは、伯爵令嬢でありながら第一騎士団の隊長よね。あなたって不思議な人よね」

 つい、素直な気持ちを口にした。


「褒めてる...の?」

 急に自分の事を言われ、エレオノールは驚く。


(なんて素直な人)

(この人は、令嬢でありながら、自分の人生を自分の意思で決めて進もうとしている...)

(それは私には無い、強さ───憧れ)


「褒めてる。あと、羨ましくて」

 今度は素直な笑顔をエレオノールに向ける。


「私の事、羨ましいだって!?」

 エレオノールは、思ってもみなかったことを言われて驚いた。


 レティシアは少し視線を落とす。


 稽古場ではルシアンとノエルが剣を振っている。


 自分には許されなかった場所だった。


 レティシアにとってエレオノールは......。

 ───剣を握れる。

 いや、それ以上に

 ───自分の意思で進む道を決められる。

 それが何よりも、羨ましい。


 エレオノールは少し混乱した。

(意味がわからない)

(レティシアこそ、みんなが羨ましがるほどの人なのに)

「あなたこそ、私は羨ましいけど」


「どこが?」


「だって優しくて強くて、責任感もあって素敵な人じゃない!」

 立ち上がって力説するエレオノール。


 目を丸くするレティシア。

(なんだか照れくさいわ)

 顔に自然と笑みが浮かぶ。

「礼儀作法や学力は褒められても、内面を褒められることなかったから嬉しいわ」


「驚いた。あなたって人は」

 クスリと笑うエレオノール。

「自分のことはあまり見えてないんだね」


 そう言ってエレオノールは訓練へ戻って行った。




『自分のことはあまり見えてないんだね』


 部屋へ戻ったレティシア。

 エレオノールの言葉が頭から消えない。


(どうやったら自分のことが見えるのかしら)


 鏡を見つめてみる。

 ───銀色の髪、薄紫色の瞳

 ───公爵令嬢の私

「あなたは、だれ?」

 見慣れた顔がこちらを見つめ返すだけだった。


 ───この数日後、領主とエレオノールは帝都へ旅立って行った。





 ───ヴァレリア辺境の非統制領域


 雪の降る中、レオニスは歩いていた。

 ここは、昔は数千人が暮らす鉱山の町だった。


 鉱山で大落盤事故が起きた。

 そのせいで数百人もの人が亡くなった。

 復旧要請は出された。

 しかし利益が出ないため閉山となった。

 住民たちの多くはこの町から出ていった。


 放棄された町に流行病が襲う。

 町は完全に消滅された。

 今は崩れた家々、閉ざされた坑道があるだけ。

 そこに、行き場のない人間たちが集まる。



 レオニスは雪を踏み歩く。

 やがて、ある朽ちた教会へ入る。


「首領!」

 レオニスの姿を見て、数十名の男たちが一斉に頭を下げる。


 レオニスは朽ちた祭壇の前に立つ。

 そして男たちを見下ろし、短く言った。

「報告を」


「絹商人を襲わせていた盗賊団がついに捉えられました」

 部隊の男が前へ出る。


「そうか。口を割ったとて、ここには辿り着けるまい」

 報告に頷き、応える。


「近く、領主と娘が帝都へ向かうそうです」

 今度は別の部下が前へ出る。


「騎士隊長である娘か」

 しばらく思案するレオニス。


 今にも崩れそうな協会の屋根に降る雪。

 雪の音に、男たちの興奮を抑えた息が混じる。


「これは好機......しかけるとするか」

 レオニスの言葉に大きな雄叫びを上げる集団。

 ここにいるのはは血気盛んな男たち。

 貴族への───国への恨みが力に変わる。


「忘れるな!」

 レオニスが男たちを見すえ、叫ぶ。


「見捨てられた者たちを!」

 誰かが応える。


「忘れるな!」

 またレオニスが叫ぶ。

 今度は拳を突き上げる。


「奪われた者たちを!うおおおお!!」

 皆が拳を上げて応え、それが雄叫びになる。


 レオニスは満足そうにニヤリと笑った。


 そして何も言わず、朽ちた教会を後にした。











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