第7話「幼き後継者 アルフォンス・ルーヴェル」①
カーテン越しに入ってくる朝の光が、日増しに明るくなってくる。
(もうすぐ夏か)
日が昇る時間が変わっても、アルフォンスは同じ時間に目が覚め、同じ手順で服を整える。
それが正しいことだと、もう疑わなくなっていた。
「本日のご予定を申し上げます」
幼いころからアルフォンスに従事している執事グレイスンの声は、いつもと変わらず静かで、揺れがない。
「午前は、元宮廷評議員のラウフェル子爵による『宮廷の仕組み』の講義がございます。続いて、王立財務院顧問イーゼン博士による『数術——基礎統計と財政概念』でございます」
ただの予定のはずなのに、ひとつひとつが妙な重さを持て、アルフォンスの耳に流れる落ちる。
「昼食後は、わたくしが『宮廷作法』の復習を担当いたします」
アルフォンスは上着のボタンを留めながら、それを聴いていた。
一拍置いて、グレイスンは静かに続けた。
「その後、ヴァレンティーヌ公爵令嬢との最後のお茶会がございます。これが、本日の最後のご予定となります」
グレイスンの声が止まり、沈黙が流れた。
アルフォンスは静かに
「わかった」
とだけ答えた。
グレイスンの横を過ぎ、扉に手をかける。
「最後のお茶会」という言葉だけが、少し遅れて頭の奥に沈んだ。
理由は分からないまま、それを確かめる前にアルフォンスは部屋を出た。
ラウフェル子爵による『宮廷の仕組み』の講義、王立財務院顧問イーゼン博士による『数術——基礎統計と財政概念』、昼食後にグレイスンの『宮廷作法』。1日の予定は滞りなく進められた。
アルフォンスは覚えがよかった。一度学んだことは必ずその日のうちに復習をして、納得できない所は質問をして全てを理解するようにつとめていた。
まだ10歳になったばかりの皇太子。
しかし自分に課せられた役割を理解し、正しくあろうと常に自分に言い聞かせていた。
自分のしたいことよりも、やらねばならないことを。
それがアルフォンスの指針となっていた。
未来はもう決まっている。
伏線化された未来。
皇帝になること。
そこに自分はたどり着かなければならない。
何をしたいか、という問いはあまり意味を持たなかった。
代わりに、何をすべきかが先に並ぶ。
それをひとつずつ片付けていくと、一日が終わる。
アルフォンスはレティシアの待つ中庭へ向かった。




