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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「私が”わたし”を取り戻すまで」

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第12話「彼女が失ったものは」

 ──シュッ

 ───シュッ


『それってさ。レティ自身の願いだったの?』


 ルシアンの言葉を何度も思い出す。

 昨夜はあまり眠れなかった。

 朝早くから無心で剣を振る。


 ───シュッ


 皇太子の婚約者、やがては皇后へ。


(私の願い。私の目標......)


「おはよう!早起きだね」


 声がした。

 振り返ると剣を持ったエレオノールがいた。


「おはよう」


「......元気ないね」

 エレオノールが近くへ来る。

「昨日の、ガレス様の言葉のせい?」


「それもあるけど、ちょっとね」

 そっと剣を収める。


「ふぅん...」

(話したくないのかな......)

 剣を抜くエレオノール。

 ───シュッ

 ───シュッ


 剣が空を切る音が響く。

 エレオノールの見事な剣さばきを観る。

 彼女はたくさんの実戦経験がある。

 第一騎士団の隊長になるほどの実力や判断力がある。

 何も言わないが...

(いつもより厳しい横顔をしている気がする)


 ───シュッ


(彼女のような人にも、先生の言葉は胸に刺さったのかな......)


 ───シュッ


(それにしても綺麗...。)

(無駄のない剣さばき...)


 しばらく見とれていると、不意に言葉が飛び出した。

「やっぱり、聞いてくれる...?」


 レティシアの言葉に動きを止める。

「いいよ」

 剣を収め、レティシアの隣に座る。


(よし、打ち明けよう...!)

 決意するレティシア。

「私ね、アルフォンス殿下が好きだったの」

 ぱっと、勢いよくエレオノールに顔を近づける。


(え、まさかの恋話!?)

 エレオノールは後ろへのけぞった。

「えっと...そうだろうと思ってたけど」


「あなたも婚約者候補なのにこんな話してごめんなさい」

 前を向くレティシア。


「え?あ、いいよ全然。私は殿下のこと特に何にも......」

 エレオノールは顔の前で手を横に振る。


「そうなの!?あんなに素敵なお方なのに?」

 びっくりして再び身を乗り出す。


「うん。私の好みじゃないなぁ。皇后になる気もないし」

 ポリポリと頭を搔くエレオノール。


「...あなたの好みの人って?」

 目を輝かせながらさらに顔を近づける。


(ガレス様......は好みとはちょっと違うか)

 言ったものの特に思い当たる人がいない。


(黒髪で...)


(剣術が強くて──うん?)


 当てはまる人がいる事にはっと気が付き、

「ち、違うからね!」


 自分に否定したエレオノール。

 声が出てしまっていた。


「え?......誰?」

 レティシアのわくわくして嬉しそうな顔。

 顔をぐいぐいエレオノールに近づけてくる。


(顔が近い...!)

「なんでもない。えーと、続きをどうぞ」

 レティシアの肩を持ち、ぐいっと押す。


「う、うん」

 残念そうな顔のレティシア。

「でも、殿下に婚約者候補から外すって言われてしまって」

 体制を整え、前を向いて再び話し始める。


「え?直接言われたの?」

 今度はエレオノールが身を乗り出す。


「う、うん」

(顔が、近いわ...)

 レティシアが後ろにのけぞる。


「代理人とかではなくて?え、どこで?」

 さらに近づけてくるエレオノール。


「ご本人から。銀花祭へ行った時に...」

 エレオノールの両肩を持ち、ぐいっと押す。


 ついに立ち上がるエレオノール。

「ぎ、銀花祭へ!?」

「ふ、二人で私的に会ってたってこと?」


 勢いの良いエレオノールの質問に戸惑いながらも、答えるレティシア。

「ええ、幼い時は定期的にお茶会にも呼ばれていたけど...大人になってからは、たまにしかお会いできなくなって」


(え、待って......。それは『婚約者候補』じゃないよね。『婚約者』じゃないの!?)


 あまりの話に固まるエレオノール。


(もう皇后になることが決まっている人だと思われていたんだ)


 改めてレティシアを見る。


(そんな相手を候補から外したの?どうして?)


 ため息を着いて悲しそうな顔をしている。

 エレオノールは気がつく。


(そうか、彼女は好きな人に別れを告げられたんだ...)


 ──完璧令嬢と称された彼女が婚約者候補から外された。


 ───失くしたものは、皇后に続く道だけじゃなかった。


(それじゃあ彼女は恋も目標を失ったの?)


 ───そうだ。


(人生の道標そのものを失ったんだ)


「それは...辛かったね」


 どんな言葉が彼女の苦しみを和らげるのか、エレオノールには分からなかった。



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