第10話「夜は嫌い」
(夜は嫌い……)
辺境の地ヴァレリアの北の山々は、すでに雪山に姿を変えていた。
レティシアがバルコニーに出ると、雪がちらついていた。
ガレスに言われた言葉を思い返す。
(ここは命をかけて戦う場所だって、本当の意味で分かってなかった)
ルシアンに言った言葉だったが、自分の甘さも叱られた気がして、気持ちが落ち込んでいた。
(気持ちがぐちゃぐちゃ...)
バルコニーから外を見渡す。
ほとんど山々で、街も明かりは少なく、ぽつぽつとある程度。
(ここに夜景がなくてよかった。思い出さずにすむから)
街の明かりを眺めながら思う。
夜になると思い出す人がいる。
金色でさらさらと風になびく髪。
アイスグレーの瞳。
優しく微笑んでくれる顔。
レティシアはじわっと目頭が熱くなる。
(もう、振り返らないって決めたのに。なぜ思い出してしまうの)
手で涙をぬぐった。
その行動が自分でおかしくなる。
(完璧令嬢が手で涙をぬぐうなんて……叱られるわ)
そう思ってまたおかしくなる。
「もう叱られることも、ないのに」
空を見上げる。そこにはたくさんの星があった。
「きれい……」
(ずっと見ていよう。なんだか悩みがちっぽけに見えるから……)
「お嬢様、もうお体が冷えてしまいますよ」
しばらく星を見ていたら、マリアがバルコニーへ出てきた。
「寒い……」
レティシアの体は冷え切ってしまっていた。
マリアが毛布をかけて、優しく中へ促す。
「ほら、早く中へお入りくださいませ。香草茶を準備してあります。……あと」
「あと?」
二人は部屋の中へ入る。
「お客様です」
マリアが手を指すほうを見ると、そこに立っているのはルシアンだった。
―――――――――――――――――――――
(夜は嫌いだ)
帝都の夜は賑やかだ。皇宮から外を見ると、色とりどりの夜景が見える。
アルフォンスがバルコニーに出ると、夜風は冷たく、冬の到来を告げていた。
(この夜景を見ると心が痛くなる。でもなぜか、見たくなる)
夜になると思い出す人がいる。
銀色で絹のようにさらさらと風になびく髪。
薄紫色の瞳。
優しく愛らしく微笑むその顔。
胸の奥が締め付けられるような痛みを覚える。
(振り返らないと決めた。だがなぜ思い出してしまうのか)
アルフォンスはため息をつく。
その息が白く儚く消える。
(今夜もおそらく眠れない)
冬の夜は、長く寂しい。




