第8話「不器用な歓迎」
ガレスは二人を見つけて近づいてきた。
「お前……」
ルシアンは立ち上がる。
ガレスを見て、懐かしさと申し訳なさがこみ上げてくる。
見つめ合う師匠と弟子。
幼かった自分に、剣を教えてくれた先生。
強さとはなにか。
また、弱さとはなにか。
勝つ喜び、負けることの悔しさを教わった。
見捨てずにいてくれた、数少ない大人。
「ただいま、先生」
にっこりと笑うルシアン。
ガレスはその笑顔にため息をつき、くるりと振り返った。
「体がなまっているはずだ。後で稽古場へ来い」
そう言って去っていった。
二人は顔を見合わせて、笑った。
「あれって嬉しいのよ、あなたのこと心配してたから。ああ見えて」
「やっぱそうだよね、ああ、こんなに笑ったの久しぶりだ」
レティシアはルシアンの笑顔を見てまたうれしくなる。
(こんなルシアンにまた会えるなんて……)
(私の話はまたにしよう...)
二人はしばらく笑った後、ガレスの待つ稽古場へ向かった。
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アルフォンスは国政会議に出席していた。
会議では領地経営や治安維持についての討議がなされている。
「では次――ヴァレリア領内で起きている絹の行商が襲われる件につきまして―――」
”ヴァレリア領”と聞いたとき、アルフォンスの指先がピクリと動く。
レティシアの父、ヴィクトルが立ち上がる。
「私の方からご説明申し上げます」
議会の出席者ひとりひとりの顔を見ながら話してゆく。
「先日、ある盗賊団が実行犯として逮捕されました。ヴァレリア領からラヴィエール公国に通じるルートを行く絹行商を狙っていた盗賊団です。被害はかなりのものでした。」
宰相のエドモンの羽根ペンが止まる。
「かなりとはどれ程だ」
皇帝クラウディウスが上座から問いかける。
「ラヴィエール公国向けの絹輸出量が三割減少しております。先日も抗議と改善要求が届きました」
「なんだと?」
クラウディウスが前のめりになり声をあげる。
「皇帝直属特務騎士隊長ガレス・オルディンの報告によれば、ここ三年の間に同じ規模の被害があるようです」
静かに報告書を読み上げるヴィクトル。
「それは...外交問題に直結する事案ではないか。なぜ今まで報告がなかったのか」
首を横に振り、眉をひそめるクラウディウス。
議会がざわめく。
「どうなってるんだ」「そんなことが発覚しないわけが無い」など声が上がる。
ヴィクトルが続ける。
「宰相府は把握していたのでは?」
一同が静まりエドモンを見る。
エドモンは宰相府の秘書とともに書類をいくつか確認していた。そして頷いたあと、その場に立った。
「報告は受けていた──ようです。ですが、その被害額までは示されておらず、通常の治安案件とされていました。ですが──」
エドモンは言葉を止める。
固唾を飲む議員たち。
「ですがこのように報告が上がったのは、今回、特務騎士隊長として配属されたガレス・オルディン隊長の大手柄と思われます。」
「おおっ...」「本当だ」などの声が一斉にあがる。
「この様な人材を配置された皇帝陛下に尊敬の意を称します」
次々に「その通りだ」「流石です」など大きな拍手や称賛の言葉が飛び交う。もはや報告に対する議論が続けられる雰囲気ではなかった。
宰相はすっと椅子に腰掛ける。
「なるほど」
ヴィクトルは静かに頷いた。
「では今後は宰相府を通さず、特務騎士隊から直接報告を受ける形にいたしましょう」
議場が静まる。
宰相の表情はにこやかに見える。
だが机に置かれた指先だけが、一定の間隔で机を叩いていた。
その様子を見ているヴィクトル──。
アルフォンスもまた、その光景を黙って見つめていた。




