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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「私が”わたし”を取り戻すまで」

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第7話「自分を守ってくれる優しい殻」

レティシアは、ノエルとルシアンとともに司令塔内の食堂にいた。


ノエルが猪肉と野菜の煮込みシチューをルシアンに渡す。

「ルシアン、なんか痩せたね」


ルシアンはそれを受け取り、おいしそうに食べている。

「そうか?もうすっかり元気だけどね」


レティシアは蜂蜜入りホットミルクを飲みながら、その会話を聞いている。


「もう、落ち着いた?」

ふいにルシアンがレティシアに聞く。


「ええ、ごめんなさい、取り乱して」


その答えを聞いてにっこりと笑う。


シチューを食べながら二人のやりとりを眺めるノエル。

「まったく、姉上がガレス師匠の弟子でさ、8つの頃から剣術を教わってたってこともびっくりしたけどさ」

ノエルは匙でレティシアとルシアンを交互に差す。

「二人がその頃からの友達だったってこともびっくりだよ」


ルシアンは笑顔を装い、黒パンを口に入れる。


レティシアはふっと笑っただけで無言でホットミルクを飲んでいる。


ノエルはその様子を見て少し考え――シチューを急いで食べ終えた。そして、

「僕、行くところあるの思い出したから、行くね!」

と急に立ち上がり、食堂を出て行った。


「あっ、ノエル…」

レティシアは呼びかけるがノエルはさっさと行ってしまった。


食堂に残される二人。


周りでは隊員たちがわいわいと食事を楽しんでいる。


(どうやって話を切り出したらいいのかしら…)

レティシアが悩んでいると、


「元気だった?」

とルシアンが笑顔で問いかけた。


(あぁ、この笑顔。久しぶりだわ)

「そうね、ここの環境にもずいぶん慣れたわ」


「そっか。僕はここへは来たばかりだから、色々教えてよ」

ルシアンがまた黒パンを口に入れた。


(この感じ、懐かしいわ)

温かい気持ちになる。それは、蜂蜜入りホットミルクのおかげではなかった。


ルシアンに、ここへ来てからのことを話した。

「はじめは守られた場所で、ガレス先生の調査のまとめとか、情報管理の安全な場所にいたの」


ルシアンは頷いて話を聞いている。

「でも、なんか体を動かさないと落ち着かなくて。それで今回、初めて討伐隊に入れてもらったの」


「そうだったんだね」


「あなたは?」

レティシアは慎重に問いかけ、ルシアンの反応をみた。

「今日までどうしてたの?……なぜここへ?」


「……」


二人の間に沈黙が流れる。

周りの隊員の楽しそうな笑い声だけが、二人の間を通り抜けていく。

やがて食べ終わった隊員たちが出ていき、周りは急に静かになった。

―――ルシアンは話し始めた。


「立ち直っているのかどうかは分からないよ」


その言葉を聞いて、はっとする。

(それは、私も同じだわ)


「立ち直っているか分からない……そう、なのね」


「うん。…”弟”を見た時、昔の記憶が断片的にやってきて」

ルシアンは空になった皿を見た。

「その時に感じた恐怖――僕は死ぬんだ、痛い、僕は怖い!――って気持ちが急に噴き出した」


「そして自分が殺されかけたって事実に、押しつぶされそうになった」

指先で木のスプーンを回す。


「あの時、必死で逃げた地下回廊の中に…まだ逃げられずにいる気持ちになって」


レティシアは頷く。ただだまって静かに聞いている。


「そしたら僕を守ってくれる”殻”が生まれたんだ」

ルシアンは何かを覆うように両手を丸め、殻を作った。


「その中にいると安全だよっていう僕と、だめだその中では永遠に逃げ回らないといけないぞ、っていう僕が喧嘩してた」

そしてレティシアを見て笑う。


「僕さ、君みたいに真っ直ぐじゃないから」


レティシアはすぐに首を振る。

「そんなことないわ」


「ありがと。でも本当だよ」

ルシアンも首を振った。


「伯爵夫人が毎日、届けてくれる食事がおいしくてさ」

優しい顔になるルシアン。


「外に出たいって気持ちが自然と出てきた。その頃に君がここへ行くからって言いに来てくれたから」


そしてレティシアを見る。

「僕の中で決着がついたんだ」


次の瞬間、フッと笑った。

「どっちでもいいじゃん、て」


「どっちでもいい?」

レティシアは首を傾げる。


ルシアンは笑った。

「うん。どっちでもいい。そりゃ小さい頃に殺されかけたなんて記憶は失くせないよ。僕は、怖かったってこと、忘れられないし。これからも思い出して苦しくなると思う」


「でも、忘れる必要なんてどこにもないし、忘れようと無理に閉じ込めることもできないだろ」

と、ぽつりと言う。そして、笑う。


「だから、いいじゃん、どっちだって。自分がどうすればいいのかなんて分かんないけど、別にそれでもいいじゃん、て思えたんだ」


「そう、なのね」

レティシアは頷くことしかできない。

でもそれが自分にできる最大限の返事だと思った。


少し沈黙が落ちる。

(私はまだ、ルシアンのようには思えない。私はまだ―――)


「ルシアン、あなたは強いわ。私とは違う」


「君は―――」


そう言いかけた時、ガレスが食堂へ入って来た。



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