第4話「向かう先は」
レティシアがヴァレリア辺境領地へ向かってから、ふた月ほど経過した頃。
アルフォンスは、婚約者候補の一人、カミーユ・ド・ラ・ロシュフォール公爵令嬢と皇宮の中庭でお茶を楽しんでいた。
カミーユは黒髪で、切れ長の瞳が知性を感じさせる令嬢である。
彼女は特に政務や外交に精通しているため、会話をしていても、彼女の聡明さや判断力には驚くことが多かった。
「最近の絹の貿易の物流ルートですが…」
カミーユの話の内容は、主に政務に関することばかりである。
「穀物の生産者の貧困率が5年前の1.5倍という見立てがありまして…」
(これでは執務と変わらないな)
アルフォンスは少しうんざりしていた。
”面会”という名の執務が終わり、アルフォンスは廊下を歩いていた。
(なんだか最近は婚約者候補との面会が多いな)
ここ最近は、連日のように婚約者候補とお茶や食事会の時間が設けられていた。
(原因は分かっているが…)
最有力候補であったレティシアを婚約者候補から外した。このことで、――おそらくグレイスンが婚約者選定を急かしたいのだろう――と察していた。
(しかし、疲れる)
どの令嬢も礼儀作法は美しく、博識で社交界の知識もある。
(皇太子妃を迎えることも、皇太子の避けては通れない義務―――)
ふと、窓の外を見ると群れを成した鳥が空を渡ってゆくのが目に入った。
南の方角に向かうのか――
「逆の方角だな」
つぶやいて、驚く。
(何と逆だというのか)
北に何が――誰が―――。
アルフォンスはある娘の顔を思い出して、首を振った。
―――――――――――――――――――
北へ向かう一つの馬車があった。
日に日に寒さが増し、雪がちらつき始めていた。
(雪を見るのは久しぶりだ)
そう思ったとき、急に大きな馬の嘶きとともに馬車が止まった。
「これ以上は行けません」
御者が窓の外から話しかける。
(仕方ない、ここからは準軍事領域であるヴァレリア辺境領―――
――それも、ここは先月、武装集団同士の衝突が起きた地域だ)
「いいよ、ここで降りるよ。行けるところまででいい、という約束だったからね」
そう言って馬車から降りる。
「…でも旦那、何だってこんな危険地帯に行くんです?」
御者はおっかなそうに聞いた。
「そうだなぁ…」
突風が吹き、男の黒髪が風になびく。
「会いたい人が、そこにいるからだよ」
雪が強くなる。
ルシアンは歩き出す。
ヴァレリア辺境領の城壁はすぐ側に見えていた。




