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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました  作者: 春月もこ
第3部「見たことのない景色」

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第2話「辺境生活の始まり」

 エレオノールの手は、驚くほど迷いがなかった。


 握られた瞬間、思わずレティシアは一瞬だけ息を詰めた。


(なんて力強い握手なの...)


 ───エレオノール・ド・ヴァレリア嬢。

 アルフォンス皇太子殿下の婚約者候補のひとり。

 レティシアは婚約者候補として参加した舞踏会で彼女の姿を見た。


「お話するのは初めてですね、エレオノール嬢」


 首を振るエレオノール。


「私のことはどうぞエレオノールとお呼びください」


(なんて自信に満ち溢れたまっすぐな瞳...)


「分かりました、エレオノール。よろしくお願いいたします」


「こちらこそよろしくお願いします」


 次にエレオノールはノエルに挨拶をし──


「私に付いてきてください」


 ─踵を返し、颯爽と歩き出した。


「父上はまだ南部街道の視察から戻っておりません。不在の間は私が領内のことを預かっています。何かあれば遠慮なくお申し付けください」


 屋敷の中をしばらく行き、東側の離れに案内された。


「お二人の部屋は隣同士になります」


 部屋は、まるで必要なものだけが揃えられたような、なんとも無機質な部屋だった。


「お嬢様、お待ちしていました」


 すでに先に到着していたマリアが部屋を整えていた。


「マリア、ありがとう」


 マリアの笑顔が妙に安心する。


「整備はされてるけど、余計なものがないって感じだよね」


 ノエルが部屋を見回し感想を漏らす。


 レティシアは窓の外へ目を向けた。


 遠くから訓練の号令が聞こえる。


 ここでは軍務が日常なのだ。


 帝都では当たり前だったものがなく、代わりに別の当たり前が存在している。


 同じ国でありながら、まるで違う世界のようだった。


(私はまだ、この場所のことを何も知らない......)


 静かに息を吐く。


 そして不思議なことに、“知らない”ということにむしろ――少しだけ、胸が高鳴った。


 エレオノールはレティシアのそんな様子をわずかに感じ取った。


 エレオノールは二人を部屋に案内すると、またしても颯爽と去っていった。


 ───────────────


(あの方がかの有名な“完璧令嬢”レティシア・ヴァレンティーヌ...)


 エレオノールは二人を案内したあと、稽古場へ向かっている。


(皇太子殿下に婚約者候補から外されたと聞いているけど...)


 歩きながらレティシアのことを思い出す。


(先の舞踏会で、殿下はファーストダンスの相手に彼女を選んだ)


 ふと立ち止まり、考える。


(完璧な彼女が。一体なぜ婚約者候補から外されたのだろう)


 レティシアが婚約者候補から外されたということを知った時は、かなり驚いた。


(彼女が婚約者候補の最有力じゃなかったの?)


(少なくとも、殿下は彼女を特別に見ていた...)


 エレオノールにはそう見えていた。


 エレオノールはしばらく考えいたが、首を振ってまた颯爽と歩き始めた。


(思ったより元気そうだった...)


 新しい環境に前向きに適応しようとしている───先ほどのそんなレティシアの姿を思い浮かべた。


(もっと落ち込んでいるものだと思っていた。彼女が元気そうでよかった)


 エレオノールは客間のある東館を出て、すぐ近くにある稽古場へ向かった。


 すでに兵士たちが訓練を始めていた。


「エレオノール隊長どの!」


 エレオノールの姿を見ると、副隊長のコーネルが敬礼をする。


「ご苦労、コーネル。遅くなったな。」


「問題ないです。......あの、隊長どの、...あの方は本日はいらっしゃらないのでしょうか」


 コーネルが落ち着かない様子で聞いてきた。


「ぷっ」


 エレオノールは訓練の準備をしながらそれを聞く。


「今日いらっしゃると思う」


「本当ですか!?」


 その時───。


 稽古場の空気が一瞬で変わった。


 全員が、その男の登場に息を呑む。


 ───元皇室騎士団長。


 ガレス・オルディン。


 辺境でなお最強と謳われる男だった。


 エレオノールの目が輝いた。


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