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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました  作者: 春月もこ
第3部「見たことのない景色」

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第1話「準軍事領域─ヴァレリア辺境地」

 レティシアたちを乗せた馬車は、五日ほど走り目的地に到着した。


 ヴァレリア辺境領───山間に広がる軍事と行政が一体化した準軍事領域。


 領内は安定地域・境界領域・非統制領域の三層に分かれ、山岳部ほど軍の影が濃い。


 冬になれば雪に覆われるという、準戦時状態の地域である。


 レティシアはノエルとともに、安定地域である領都のヴァレリア政庁区、辺境伯の屋敷に案内された。


 境界領域にある司令施設に拠点を置くことになるガレスと異なり、レティシアとノエルはこの屋敷に住まうことになった。


 ここは屋敷というよりは、訓練施設と司令塔を兼ねた“機能する建物”だった。


 馬車が到着し扉が開いた瞬間――


 レティシアは、まず音のなさに気づく。


(静か…)


 帝都の屋敷ならあるはずのものがない。


 ―侍女の足音

 ―掃除の気配

 ―使用人たちの控えめな会話

 ―物音のざわめき


 代わりに聞こえるものは、風の通る音、木の軋む音、そしてどこからか聞こえる金属音。


「姉上、帝都と全然“空気”が違うね」


 ノエルが耳打ちする。


「本当ね」


 返事をしながらあたりを見渡す。


 はずれたままの椅子に、少し欠けた床板、あれは修理途中の壁だ。直される気配すらない。


 その時、カツ、カツ、とはっきりした足音が近づいてきた。


 音のない館の中で、この音はかなり異質なものと思えた。


 レティシアが振り向くより先に、声をかけられる。


「レティシア様」


 振り返ると階段の上に軽装の剣士がいた。


 赤銅色の髪、すっと伸びた背筋、きりりとした目元──。


 その目線はまっすぐレティシアへ向かっている。


「姉上、お知り合い?」


 (どなたかしら...どこかでお会いしたことがあるような──)


 剣士は軽やかに階段を降り、あっという間に二人の目の前に来た。


(この方は...!)


 レティシアは思い出した。


 そして、カーテシーをとり丁寧にご挨拶をする。


「お話をするのは初めてですわね、エレオノール・ド・ヴァ──」


 するとレティシアの挨拶を切るようにエレオノールが右手を差し出す。


「それは帝都の作法です。ここでは必要ありません」


 レティシアがそれを取ると、しっかりと握手を交わした。


 そしてニヤリと笑った。


「ここでの挨拶はこうですレティシア」


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