第31話「ルシアンへの報告」
レティシアが落ち着くのを待って、二人はルシアンの部屋へ向かった。
部屋の前に着き、夫人はひかえめにコンコン、とノックした。
返事はない。
「ルシアン、私よ。あなたにお客様が来てくださったわ」
やはり返事はない。
「入りますよ」
そう言って夫人はドアを開けた。
部屋の中にはカーテンが風に揺られ――
――その向こう側にルシアンが窓の外を向いて立っている。
(これは...本当にルシアンなの?)
カーテン越しの背中が以前より一回りほど細く小さく見える。
(信じられない……)
ルシアンは窓の外を向いたままで、レティシアの訪問に気が付いていないように見えた。
「ルシアン...わたしよ。レティシアよ」
おそるおそる声をかける。
―――ピクリ
ルシアンの背中は反応する。
レティシアは息をのむ。
ルシアンがゆっくりと――振り返る。
(ああ…ルシアン……!)
随分と痩せて、髪と髭が伸びきったまま。
目には光がなく、いつも口元に浮かんでいたにこやかな微笑みはどこにもない。
一瞬だけ目元が動いた気がした。
だが、それが何だったのかレティシアには分からなかった。
ルシアンはゆっくり瞬きをして、首を横に振った。
夫人がレティシアの肩に手を置く。
「申し訳ございません、レティシア様。退室をお願いしてよろしいでしょうか…」
夫人の顔を見る。夫人は小さく頷き、懇願するような眼差しを向けていた。
(だめだったのね、…仕方がないことだわ)
「はい。承知しました...」
すぐにレティシアは部屋を出ようとした。
ふと振り向き、静かに声をかける。
「私…」
夫人の顔を見る。
夫人は、手でレティシアを制し、ルシアンの反応を見る。
ルシアンは反応を示さない。
夫人は手を下げ、レティシアに”どうぞ”と目配せする。
レティシアは頷き、ゆっくりとルシアンを見ながら話す。
「私、ガレス先生に付いて、……ヴァレリア辺境領地へ行くわ」
ルシアンは向こうを向いているが、その肩がピクリと動いた。
「自分でも分からないけど、…なんだかそうしたくなって」
反応がないルシアン。
(話すぎたかしら)
不安になる。
夫人を見ると、”大丈夫”とばかりに笑顔で頷いてくれた。
「じゃあねルシアン、お大事にしてね」
そう言って静かに部屋を出た。
───パタン。
扉が閉まる。
ルシアンは動かない。
しばらく、そのまま立っていた。
やがて視線がゆっくりと落ちる。
「……行く、のか」
ルシアンの指先が、ピクリと動いた。




