第29話「弟子入り交渉」
ガレスに会い、剣を振った翌日。
いつも通りの朝。同じ部屋。同じ光。
しかし、何かが違っていた。
(目の前が明るく見えるわ)
深呼吸をする。
(よし)
決意したレティシアはヴィクトルの執務室を訪れた。
執務室にはヴィクトルとアレクシスがいた。
「今朝は元気そうに見えるな」
優しく声をかけてくれるアレクシス。
父と兄の顔を見て、ほっと安心する。
(…うまくお願いできるかしら……)
ヴィクトルはレティシアにソファへ座るよう促した。
ソファで向かい合う父と娘。
レティシアはまっすぐにヴィクトルを見つめた。
(緊張するわ…)
一息吸った後、ガレスに弟子入りしたいと伝えた。
「それは本気か?」
「はい……本気です」
ヴィクトルを見つめるレティシア。
ヴィクトルはため息をつく。
「ガレスは了承したのか」
思わぬ問いに言葉が詰まる。
「え?」
「もう、直接頼んだのだろう?ガレスに」
にやりと笑うヴィクトル。
「知っておられたのですか……?」
目を丸くするレティシアに、ヴィクトルは小さく頷く。
「八つの頃からの師匠だろう」
「ぷっ」
横から堪えきれない笑いが漏れる。
アレクシスだった。
「お兄様まで……!?」
顔が一気に熱くなる。
「まさか、……ずっとご存じだったのですか?」
「当然だ」
ヴィクトルはあっさりと言った。
「隠れていたつもりか?」
二人は顔を見合わせ、同時に小さく笑った。
「お前の弟――ノエルは知らぬはずだ」
レティシアは真っ赤になって俯く。
「……ということは、お母様もご存じなのですね」
「当たり前だ」
淡々とした返事だった。
そして一度だけ、静かに頷く。
「ルシアンとの友情のことも、な」
その言葉に、レティシアの胸がわずかに揺れる。
(全部……知っておられたのね)
ヴィクトルはレティシアの顔を見つめ、どこか納得したように小さく息を吐いた。
そしてヴィクトルは執務室の机に向かった。
「しかし問題がある。ガレスはこの冬から、実はノエルとともに辺境へ行くことになっている」
ヴィクトルは難しい顔に戻っていた。アレクシスも考え込んで、言いにくそうに話した。
「ヴァレリア辺境伯の領地だ」
(婚約者候補のエレオノール・ド・ヴァレリア辺境伯令嬢の領地……)
胸がチクリとする。
「ヴァレリア辺境領といえば、小規模な武装集団の活動が活発化している地域ですね」
冷静を装い、話す。
「そうだ。単なる盗賊ではない。組織的な動きがある可能性が高い」
ヴィクトルが悩ましそうに話す。
「それで、当家門が調査を拝命したのだ」
アレクシスがレティシアに優しく話す。
「この様な状況だから、いま弟子入りするのは難しいと思うよ」
「承知しました。…教えてくださり、ありがとうございます。……少し、思案したいと思います」
即座に答え、丁寧に一礼し部屋を出た。
執務室に残された二人は顔を見合わせた。
「思案……するのか?」
ヴィクトルが小さく呟く。
「さて、何をでしょう」
アレクシスも苦笑を浮かべた。




