第25話「皇帝クラウディウスの承認」
翌日、アルフォンスは自らの決定について、皇帝と、レティシアの父であるヴィクトル、ならびに兄であるアレクシスへ説明を行っていた。
宰相であるエドモンも同席していた。
重苦しい空気が室内を満たしている。
「レティシア嬢を婚約候補から外した件につきまして─」
ヴィクトルは黙って聞く。
「理由は先日の舞踏会での─」
アレクシスの目が一瞬、細くなる。
「─エヴラール公爵家の嫡男の問題が発端です」
その瞬間、クラウディウス皇帝の眉がわずかに動いた。
ヴィクトルはその表情をちらと一瞥した。
「執事の報告によると、エヴラール公爵家は嫡男の存在を公にせず、次男を後継者として扱っていた可能性があります─」
「─さらに嫡男への暗殺未遂も疑われます」
「エヴラール大公閣下の関与は不明ですが、彼女は─」
突如、同席していた宰相が口を挟む。
「その件とレティシア嬢との婚約破棄の件、どのようなご関係が?」
アルフォンスは頷き、淀みなく答えようとつとめた。
「彼女...レティシア嬢は、その嫡男であるルシアン・エヴラールと─」
「──失礼!」
アレクシスがアルフォンスの言葉を遮った。
「殿下のお言葉を遮る無礼、どうかご容赦ください。ただ一点、誤解がございます」
アレクシスは膝をおりクラウディウスに拝する。
「ルシアン・エヴラール殿の名が出ましたが」
顔を上げ話し始めるアレクシス。
一同がアレクシスを見る。
「妹はルシアン殿にダンスを申し込まれただけです。それ以上の関係があるとは存じておりません」
アルフォンスは目を細める。
「その後、ルシアン殿とエヴラール公爵家の次男の揉め事に、たまたま遭遇したまでです」
アレクシスを見るアルフォンス。
「その現場は私が確認しております」
アレクシスは再び下を向いた。
クラウディウスは頷いた。
「うむ...。エヴラール公爵家の後継者問題か」
アルフォンスは改めて説明する。
「はい。彼女はその場に居合わせながら、政治的混乱に対し、状況が正確に把握できていなかった」
ちらりとヴィクトルを見る。
ヴィクトルは目を閉じている。
「これにより皇后としての資質に欠けると判断しました」
その声はどこまでも冷たく響いた。
「それだけか」
クラウディウスは問う。
「十分かと存じます」
アルフォンスがきっぱりと言葉を放つ。
アレクシスは一瞬だけ口を開きかけたが、すぐに閉じた。
───沈黙。
アレクシスは膝を着き、クラウディウスに礼を配している。
ヴィクトルは鋭く皇帝を見つめている。
「ヴィクトル、そなたの意見はあるか」
一同がヴィクトルの返事を待つ。
ヴィクトルは返事をしない。
まるで、この場の結論から意図的に距離を取っているかのように。
空気が一段と重くなる。
そして───
「陛下のご判断に従います」
ヴィクトルが感情を乗せずに発言した。
クラウディウスは一拍、言葉を止めて、一度だけ視線をアルフォンスへ向ける。
そして───
「……よかろう。アルフォンス、そなたの判断を認めよう」
クラウディウスはレティシアの婚約者候補からの除名を受け入れた。
【主要登場人物です】
■ レティシア・ヴァレンティーヌ
この物語の主人公。絹糸のような淡い銀髪で紫水晶を思わせる大きな瞳をもつ公爵令嬢。未来の皇后候補として厳しく育てられ全てに秀でた“完璧令嬢”として知られていた。
■ アルフォンス・ルーヴェル
ルーヴェル帝国の第一皇子で、次代の皇帝として期待される存在。金髪でアイスグレーの瞳をもつ端正な顔立ちをしている。
■ ルシアン・エヴラール
隣国であり友好国であるラヴィエール公国のエブラール公爵家嫡男。レティシアの幼なじみ。軽薄そうで何を考えているかわからない。黒髪の危険な色気があり女性からもてる。レティシアの本性を知る数少ない人物。
【ルーヴェル帝国 関係者】
■クラウディウス皇帝
ルーヴェル帝国を長年統治している偉大な皇帝。理性的で威厳があり、民から敬愛されている。
【 ヴァレンティーヌ公爵家】
広大な領地を持つ帝国屈指の超名門公爵家であり、代々皇室騎士を輩出している武門の家系でもある。
■ ヴィクトル・ヴァレンティーヌ
ヴァレンティーヌ公爵家当主。厳格で威厳ある人物で皇室からの信頼も厚い。
■ アレクシス・ヴァレンティーヌ
3歳年上のレティシアの兄。ヴァレンティーヌ家の後継者。聡明で冷静。
■エドモン・フォン・エーレンベルク宰相
クラウディウス皇帝に仕える帝国宰相。帝国の法務・外交・貴族統制を一手に担う、国家中枢の実務責任者。




