第22話「決断の夜」
護衛が確認した後、無事に焼きとうもろこしを食べる。
「…!おいしい」
アツアツで香ばしい焼きとうもろこしに、思わず顔がほころぶ。
アルフォンスもかじりつく。
(殿下がとうもろこしにかじりつくなんて。そんなお姿を拝見できるなんて!)
じっと見つめていると、目が合う。
「おいしいな」
言葉にならず、何度もうなづく。
「銀花祭は来たことがあるか」
(…ありますわ、殿下)
と言えず返事に困る。
―――ルシアンとお忍びで来た。焼きとうもろこしを食べた。
─屋台を見て回りました。
─迷子にもなりかけました。
─武闘会にも出ました。
(なんて言えないわ)
「……遠くから見たことはございます」
嘘ではない。
「そうか」
(お嬢様、めちゃくちゃ満喫してましたよね)
と、マリアは心の中で思っていた。
マリアが買ってきてくれた屋台のものはすっかり食べ終えた。
辺りはすっかり暗くなり、祭りの灯りはいっそう輝きを増している。
きらきらと輝く銀花の飾りに見とれていた。
突然、アルフォンスが話しかけた。
「君が部屋に籠もっていると聞いた」
アルフォンスを見る。
アイスグレーの瞳が祭りの灯りを映して揺れている。
(心配してくださったの……?)
「ご心配をおかけしました」
アルフォンスの瞳の揺れが止まる。
「確認事項だ」
(...聞かれる!)
心臓がまた早くなる。
今度は、緊張を伴った早さ。
「君は何を見た...いや、そうじゃない」
アルフォンスの声も強ばって聞こえる。
「君に問う。ルシアン・エヴラールとはどういう関係か」
祭りの喧騒が遠のき、辺りが静まったように感じる。
(ルシアンとの、関係...)
遠くで兄弟連れの姿が見えた。
アーネストとルシアンを思い出す。
胸が重くなる。
ルシアンの錯乱した姿が脳裏に浮かぶ。
(ルシアン...)
レティシアは、胸の重さに何も答えられない。
「ルシアンとは...」
言葉につまる。
沈黙が落ちた。
───アルフォンスは目を伏せた。
(先日の夜会でも、今も)
(彼女の心はルシアンへ向いているように見える)
(そしてあの場で起きていたことにも気付いていなかった)
アルフォンスは判断する材料を集める。
『他国の公爵家の後継者問題の渦中にいたという状況に気がついていなかったレティシア』
『皇后とは帝国の中枢に立つ存在で、情だけでは選べない』
───(わたし、何か言わなきゃ、何か...)
息がうまく吸えなくなるレティシア。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
マリアの声が遠くから聞こえる。
アルフォンスは静かに目を閉じた。
そして。
「レティシア・ヴァレンティーヌ公爵令嬢」
その声音は、帝国の皇子の声だった。
「そなたを婚約者候補から外すこととする」




