第21話「殿下と銀花祭へ」
皇宮西門へ向かう馬車の中で、もう何度も手紙を読み返している。
胸が落ち着かない。
(早く着かないかしら)
―――『差し支えなければ同行してほしい』
(どうして私を……?)
考えても答えは出ない。
―――『先日の夜会で君が見た件について、確認したいことがある。』
(きっとルシアンのことを聞かれるのだわ)
胸がざわつく。そんな不安と、嬉しさが交互にやってくる。
落ち着かない気持ちを紛らわせるように声を上げた。
「マリア!!この髪型は変ではないかしら!?」
突然、側にいるマリアに聞いた。
「三回目ですよ…お嬢様」
急な外出支度に全力を注ぎ、ぐったりとしているマリアだった。
それでも――
(お元気になられたようで、よかった)
マリアはそんなレテシィアを温かく見守ることにした。
馬車がゆっくりと止まった。
「来たか」
馬車から降りると、アルフォンスが立っていた。
グレイスンと護衛が少し後ろに控えている。
「……え?」
アルフォンスの服装は夜会のときのような華美な正装ではなかった。
祭りに合わせて格式を少し落とした装いだった。
夕暮れの光の中に立つ姿は、夜会よりもどこか年相応の青年らしく見えた。
レティシアは思わず息をのむ。
(なんて素敵な…)
レティシアもまた、祭りに合わせた装いだった。
胸元には小さな銀花の刺繍が散りばめられ、腰には細い銀のリボンが結ばれていた。
絹糸のような銀髪はゆるやかにまとめられ、紫水晶の瞳を縁取るように小さな真珠の飾りが揺れている。
アルフォンスはその姿を見て一瞬だけ言葉を失う。
そして静かに言った。
「よく似合っている」
その何気ない一言に、レティシアの心臓は大きく跳ねた。
(お嬢様!殿下が見惚れておられますよ!)
こっそり後ろでマリアがこぶしを握っていた。
「少し付き合え」
アルフォンスはそう言って、自らの馬車へ視線を向けた。
レティシアは慌てて後を追った。
「お嬢様、行ってらっしゃいませ!」
マリアは満面の笑みで後続の馬車へ向かった。
レティシアは頬の熱を隠すようにして馬車へ乗り込む。
馬車の扉が閉まる。向かいの席にはアルフォンスがいる。
胸が落ち着かない。すぐに馬車が動き出す。
規則正しい車輪の音だけが静かに響く。
(近いわ……)
先日の夜会とは違い、貴族たちの視線もない。
そこはただ二人きりの空間だった。
レティシアはきょろきょろと窓の外と膝の上とに視線を移していた。
(何を話せばいいのか分からないわ)
沈黙が長く感じられた。そのとき。
「体調はどうだ」
不意にアルフォンスが話しかける。
―――心臓が跳ねた。
「大丈夫です」
(落ち着いて、私。しっかりするのよ)
アルフォンスはそんな様子に気付いていないのか、それとも気付いていて触れないのか。
静かに窓の外へ視線を向けた。
「そうか」
短く返事をして、また沈黙が訪れた。
レティシアの胸の音だけが騒がしかった。
プリュメ街の西地区はすでに銀花祭の夜を楽しむ民たちで賑わっていた。
貴族しか入れない高いテラスに案内された。
「わぁ…なんて綺麗なの」
祭りを見下ろす二人。
大通りに白銀の花飾りがたくさん吊るされているのがよく見える。
それが風に揺れるたびキラキラとした光を返していた。
――――『夜になると、月の光を反射するんだ。帝都で一番綺麗な景色になるって言われてる』
いつか聞いたルシアンの声がよみがえる。
(ルシアンと見に来たのはもう何年前だったかしら)
楽しそうに笑っている人々。走り回る子どもたち。
屋台から煙が上がり、おいしそうな香りが広がる。
(あぁ、懐かしい)
祭りの光景に見とれていた。
アルフォンスが何か話そうと口を開きかけた、そのとき――
「お嬢様!焼きトウモロコシ買ってまいりました!」
「こちらは花蜜菓子です!」
「あと、どうしても気になったので串焼きも!」
両手いっぱいに屋台の食べ物を抱え、マリアが元気よく駆け寄ってきた。




