第19話「レテシィアの後悔」
レテシィアが部屋に閉じこもって三日ほどたった。
その間、マリアはもちろん、母、アレクシスやノエルが声をかけに来た。
それでもベッドの中から出る気にならなかった。
――コンコン
返事はしない。
また母か、マリアだろう。
布団を頭まで引き上げる。
部屋に入ってくる足音。そして―
「私だ」
思わぬ父の声に、布団の中からおそるおそる顔を出す。
「手紙が届いている。皇室からだ。読んで、返事をするように」
(皇室から…手紙?)
胸が一瞬どきりとする。
父は手紙を机の上に置くと、そのまま部屋を出ようとしてドアノブに手をかけた。
「お父様……」
父の背中に声をかけた。父は立ち止まる。振り向きはしない。
「…申し訳、ございません」
声が震える。父は振り向かない。しばらく、沈黙が流れる。
「…怯えた目で、私を見ていた」
背中を向けたまま、父は話し始めた。何の話か、はじめは分からなかった。
「エヴラール公爵家の嫡男は、命を狙われて一人の従騎士とともに屋敷から逃げ出した」
(ルシアンの話だわ…)
ゆっくりベッドから身を起こし、父の話を聞く。
「その従騎士は昔、元皇室騎士団長のガレスの部下でもあった」
父はドアノブから手を放し、こちらを向いた。そしてゆっくり歩いて、ソファに腰かけた。
「逃げ出した先の回廊で追いつかれた。その者は彼を守って命を落とした」
ハッと息を吞む。父は静かに話をつづけた。
「そして死ぬ前に“ガレス・ヴィクトールを頼れ”と言い残した」
レテシィアの手が震える。
「まだ6歳か7歳だった。小さい体で、ガレスを頼ってやってきたときは、泥と血だらけで震えていた」
(ルシアン…!)
幼いルシアンの心細さを思って涙がこぼれる。
「助けてやりたかったが、帝国の公爵として他国の大公の後継者問題に介入はできなかった」
父は声を落とした。
「内密に、セレスティア伯爵家に保護を頼んだ。彼は人の好い伯爵で、わが子のように育てると約束してくれた」
「帝国へ来てもなお狙われる命に、自分で身を守れるよう剣術を学ばせた」
「家族に捨てられたことが彼のつらい記憶になっているようだ」
―――ぼくは、いらない子なんだ
いつかルシアンに聞いた悲しい話を思い出す。
(出会ったときのルシアンは、いつも笑っていた)
ともに剣術の稽古に励んだ。
ときどき木登りをして。一緒に走り回って。
困ったように笑いながら、いつも私を助けてくれた。
(あの笑顔の裏に、そんな過去があったなんて)
(すでにつらい過去を背負っていたのね…)
レティシアは顔を覆った。
―――自分は何も知らなかった。
―――ルシアンが抱えていた痛みを何ひとつ。
涙は止まらなかった。
父は静かに部屋を出て行った。




