第17話「グレイスンによる報告」
休憩室の扉が閉まる。
アルフォンスは椅子にも座らず、グレイスンに向き合い即座に問いただす。
「報告しろ」
低い声が響き、グレイスンは一礼する。
「申し訳ございません、殿下」
グレイスンの青ざめた顔色はまだ戻っていない。その顔を見て眉をひそめる。
(グレイスンがここまで動揺するとは)
「何があった」
「ルシアン・エヴラール様が、錯乱されました」
思いもよらぬ報告だった。
「錯乱...だと?どういうことだ」
グレイスンは一瞬だけ言葉を選んだ。そして、続けた。
「テラスにて、ある青年がルシアン様へ接触いたしました」
「青年?」
「おそらく、エヴラール公爵家の次男様かと」
「ああ、彼も招待されていたな。それで?」
テラスから現れた見たことのない青年を思い出す。
「その青年がルシアン様を“兄上”と呼んだのです」
おそらくあの青年がエヴラール公爵家の次男であろう。
「するとルシアン様が激しく動揺されました。そして...正気を失ったように」
グレイスンの目からわずかに同情の色が浮かんでいた。
「そのあとアレクシス様が介入されました」
(意外ではない、彼もテラスから出てきたから、その場にいたことは容易に察せられる)
「それで?」
(しかしアレクシスが表立って介入するとは……)
「これは“封印されていた個人情報の漏出”で、殿下には“他国案件”として報告を、と」
(的確な介入だ)
断片的だったピースがつながる。
―――幼い頃から帝国へあずけられたエヴラール公爵家の嫡男
(公爵家内部で何かがあった……)
彼は“黒騎士”と噂されていた。しかし行方不明となりその存在は曖昧なものとなっていた。
―――彼を“兄上”と呼ぶ弟と、錯乱に陥った兄
エヴラール公爵家は嫡男の存在を隠していたのかもしれない。
(最悪の場合、継承争いか)
―――公爵家による嫡男暗殺未遂事件
(おそらく今もまだ、彼の命が…)
―――長男の死をもって、正式に次男を嫡男にしようという恐るべき企み
まさに、他国案件――政治的要素を大いに含む問題であった。
そこで、一つの懸念が脳裏をよぎった。
「ヴァレンティーヌ嬢はどこまで」
「一緒におられましたので、おそらく全て」
(なんということだ)
―――他国公爵家の嫡男であり
―――存在を消された人物であり
―――皇室も把握していなかった問題を
「確認しなければならない」
静かに言った。
「ヴァレンティーヌ嬢が、あの場で何を見ていたのかを」
アルフォンスの声からグレイスンは感じ取る。
(殿下が本当に気にしているのは)
“何を見たか”ではなく――
“何を感じたか”なのだと。
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タイトルにある「婚約破棄」まで、ようやく少しずつ近づいてきました。
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