第15話「閉ざされた心」
ルシアンは幼少期を過ごしたセレスティア伯爵家へと内密に預けられた。
セレスティア伯爵家は、伯爵家といえど、いわば没落貴族の部類に入り、社交界での影響力もほとんどない家門だった。
しかし当主は人の好さがにじみ出るような人物で、行き場を失ったルシアンを静かに受け入れた。
表向きは“養育”という形であったが、その裏にはエヴラール公爵家の事情に対する黙認もあった。
「ルシアン、なぜこんなことに…」
アレクシスの指示を受けた使用人によってルシアンが運ばれてきたとき、セレスティア伯爵は心を痛めて涙を流した。
ルシアンの精神状態はかなり悪かった。
目は、開いてはいた。
しかしその瞳には何も映っていないかのように光を失っていた。
指先は軽く握り込まれたまま力が入って、爪がわずかに掌に食い込んでいた。
呼吸は浅く早く、一定ではなかった。
「アレクシス様にお話を伺ったところ、おそらく幼少期のトラウマが関係していると思われます」
医師は長期的な心理的外傷によるものと考えた。
看病の責任者はセレスティア伯爵夫人が名乗り出た。
伯爵夫人は、傷ついてやって来た幼い頃のルシアンをわが子同然に育てた情に深い人物であった。
「数年前からここを出て行ってからたまに手紙をくれていたけど、どこでどうやって生きているのかと…心配していたのですよ」
反応のないルシアンに語りかける伯爵夫人。
その言葉だけが、この部屋の中で静かにそして優しく残っていた。




