第11話「テラスでの再会」
テラスは、夜に切り取られた静かな空間だった。
舞踏会の光だけが淡く届き、外の庭園は黒い影のように沈んでいる。
遠くではまだ楽団の旋律が流れている。
まるで、別の世界に一枚だけ薄い膜を隔てているようだった。
レティシアは小さく息を吐いた。
「……少し落ち着くわね」
その言葉に、ルシアンは微笑む。
「こうやって夜空を見てると、稽古の帰り道を思い出すな」
「本当ね、よくこうして二人で夜空を見上げたわね」
夜風が、テラスの静けさをわずかに揺らす。
ただただ静かな時間が二人の間をなぞっていた。そのときだった。
「――失礼」
低く、抑えた声が聞こえた。それは、テラスの入口、その影の部分から響いてきた声だった。
レティシアとルシアンは同時に振り向いた。そこには薄暗がりの中に、一人の青年が立っていた。
背筋の伸びた立ち姿で、まだ少年の面影をわずかに残しながらも、貴族としての気配をまとっている。
だがその瞳だけは、まっすぐすぎるほどに揺れていた。
(誰かに似ている…)
青年の緊張した顔に、胸がざわついた。
「……やはり、ここにいらっしゃいましたか」
その視線は、レティシアではなくまっすぐに――ルシアンへと向いている。
ルシアンの呼吸が、一瞬だけ止まった。
「……ルシアン、様」
ルシアンを見ると、表情がこわばっているようだった。
(何…?誰なのかしら)
胸のざわつきが大きくなる。
「ルシアン、お知り合い?」
ルシアンは答えない。
視線だけが、ゆっくりと青年の顔を見つめていた。
【主要登場人物です】
■ レティシア・ヴァレンティーヌ
この物語の主人公。絹糸のような淡い銀髪で紫水晶を思わせる大きな瞳をもつ公爵令嬢。未来の皇后候補として厳しく育てられ全てに秀でた“完璧令嬢”として知られていた。
■ アルフォンス・ルーヴェル
ルーヴェル帝国の第一皇子で、次代の皇帝として期待される存在。金髪でアイスグレーの瞳をもつ端正な顔立ちをしている。
■ ルシアン・エヴラール
隣国であり友好国であるラヴィエール公国のエブラール公爵家嫡男。レティシアの幼なじみ。軽薄そうで何を考えているかわからない。黒髪の危険な色気があり女性からもてる。レティシアの本性を知る数少ない人物。
【ルーヴェル帝国 関係者】
■クラウディウス皇帝
ルーヴェル帝国を長年統治している偉大な皇帝。理性的で威厳があり、民から敬愛されている。
【 ヴァレンティーヌ公爵家】
広大な領地を持つ帝国屈指の超名門公爵家であり、代々皇室騎士を輩出している武門の家系でもある。




