第10話「社交界に現れたエヴラール」
アルフォンスが示す男を見てグレイスンが気がつく。
「殿下、あの方こそがお探しのエヴラール公爵家の嫡男、ルシアン・エヴラール様です」
レティシアはにこやかに踊っている。
「ルシアン・エヴラール……」
ルシアンと思われる男はレティシアを見て微笑んでいる。
「はい」
アルフォンスの鼓動が早まった。
「あの銀花祭の武闘会で会った黒髪の騎士…」
「はい」
三年間、探していた男がすぐそこにいる。
「まさか」
(ついに見つけた…!)
「グレイスン」
音楽が終わり、拍手とともに二人はダンスを終えた。
「はい」
「ルシアン・エヴラールを俺の前に連れてこい」
(今度こそ、覆面の騎士の正体を聞いてやる)
アルフォンスはそう言い残して次なるダンスの相手――エレノオール令嬢のもとへ向かった。
ダンスが終わると、レティシアは少し休憩をしたくなった。
「私、少し疲れてしまって。テラスで休憩してもいいかしら」
「いいよ。僕も行こう」
二人は会場の中二階にあるテラスへと向かった。
会場で貴族たちはルシアンについて噂をしていた。
「ヴァレンティーヌ嬢と踊っていた方は、エヴラール公爵家のご嫡男だそうだ」
それを耳にして、ひとりの青年が足を止めた。
アーネスト・エヴラールだった。
「……ご嫡男?」
「失礼します、いま、あの男性はエヴラール公爵家のご嫡男だとおっしゃいましたか?」
アーネストは噂話をしている貴族男性に問いかける。
「そうだ。ルシアン・エヴラール殿だよ」
その名前を聞いた瞬間、アーネストの胸が大きく脈打った。
―――ルシアン・エヴラール。
幼い頃から何度か耳にした名前。
だが公爵家では決して口にしてはいけない名前だった。
(兄上……?)
「ああ、さっきご令嬢たちが噂をしていたよ」
アーネストは信じられないという様子で聞き返した。
「その方が……ルシアン・エヴラール様なのですか」
「そうだよ、幼少期から帝国の貴族に預けられている、訳ありの令息さ」
(まさか、本当に…?)
貴族たちは噂話に興じていたが、アーネストの耳にはもう何も聞こえない。
(会ってみたい……兄上に!)
アーネストは、気が付くと足が動いていた。
【主要登場人物です】
■ レティシア・ヴァレンティーヌ
この物語の主人公。絹糸のような淡い銀髪で紫水晶を思わせる大きな瞳をもつ公爵令嬢。未来の皇后候補として厳しく育てられ全てに秀でた“完璧令嬢”として知られていた。
■ アルフォンス・ルーヴェル
ルーヴェル帝国の第一皇子で、次代の皇帝として期待される存在。金髪でアイスグレーの瞳をもつ端正な顔立ちをしている。
■ ルシアン・エヴラール
隣国であり友好国であるラヴィエール公国のエブラール公爵家嫡男。レティシアの幼なじみ。軽薄そうで何を考えているかわからない。黒髪の危険な色気があり女性からもてる。レティシアの本性を知る数少ない人物。
【ルーヴェル帝国 関係者】
■クラウディウス皇帝
ルーヴェル帝国を長年統治している偉大な皇帝。理性的で威厳があり、民から敬愛されている。
【 ヴァレンティーヌ公爵家】
広大な領地を持つ帝国屈指の超名門公爵家であり、代々皇室騎士を輩出している武門の家系でもある。
■ ヴィクトル・ヴァレンティーヌ
ヴァレンティーヌ公爵家当主。厳格で威厳ある人物で皇室からの信頼も厚い。
■ セラフィーナ・ヴァレンティーヌ
ヴィクトルの妻であり知性と品格にあふれる公爵夫人。
■ アレクシス・ヴァレンティーヌ
3歳年上のレティシアの兄。ヴァレンティーヌ家の後継者。聡明で冷静。
■ ノエル・ヴァレンティーヌ
1歳年下のレティシアの弟。剣術好きで明るい性格。
【アルフォンスの婚約者候補】
■イザベル・ド・モンフォール侯爵令嬢。
金髪碧眼の華やかな美人。社交界の華。
■カミーユ・ド・ラ・ロシュフォール公爵令嬢
黒髪で切れ長の瞳。知的で冷静で政務や外交に精通している。レティシアの最大のライバル候補。
■エレオノール・ド・ヴァレリア辺境伯令嬢
赤銅色の髪で背が高い。武門の名家出身。馬術や軍略にも詳しい。
【ラヴィエール公国】
■ アーネスト・エヴラール
エヴラール公爵家の嫡男でルシアンの弟。誠実で率直な性格。幼少期より兄の存在を家門内で禁忌として扱われ、兄のことは何も知らない。このため兄に対しては「確かめたい」という強い衝動を抱いている。




