第9話「懐かしい幼なじみ」
振り向くとそこには懐かしい顔があった。
幼い頃、たくさんの同じ時間を過ごした友の顔。
「ルシアン!」
嬉しそうにその名を呼ぶ。
変わらない琥珀色の瞳が優しく応える。
「レティ、見違えたよ」
「それは私のセリフだわ。こんなに立派になって...」
幼い頃にそうしていたように、ルシアンの肩に両手を置きそうになり、止めた。
見られていることを忘れてはいけない。
(ここは社交界よ......)
その様子を見て、ルシアンは苦笑いをした。
「レティシア嬢、社交界デビューおめでとうございます」
ルシアンは丁寧なお辞儀で挨拶をした。
お返しにカーテシーで礼をして微笑む。
ルシアンは右手を差し出す。
「僕と踊ってくれるかい」
迷わず、その手を取った。
楽団がテンポの早い曲を奏でる。
舞踏会場の中心ではアルフォンスとイザベルが踊っている。
二人は少し離れたところで踊り始めた。
「ヴァレンティーヌ公爵令嬢の今度のお相手はどなたでしょう?」
「なんと見目麗しいお二人ですこと」
貴族たちが注目した。
レティシアはもちろん──相手の青年もまた黒髪に琥珀色の瞳、整った顔立ちをしており貴族令嬢たちは目を奪われた。
「ルシアン、あなた本当に大人になったわ」
ふっと微笑む。
至近距離で笑顔を見たルシアンは思わず目をそらす。
「...こっちのセリフだよ」
(あら?ルシアンの耳が赤いわ)
(ルシアンも緊張しているのかしら)
ルシアンの気持ちが全くわからないレティシアだった。
アルフォンスはイザベルと踊りながら、そんな二人の様子を見ていた。
アルフォンスは視線を逸らした。
イザベルが何か話している。
アレクシスは相槌を打つ。
だが半分も頭に入ってこない。
気付けば視線は再び黒髪の青年へ向いていた。
(レティシアの相手の男...あれは誰だ)
どこかで見た覚えがある。
しかし思い出せない。
記憶の奥に引っかかる。
イザベルとのダンスが終わり、丁寧に礼をして席に戻る。
(誰だ...気になる)
グレイスンを席に呼ぶ。
(...そうだ)
(心を乱したのは“わからない”ということにだ)
「グレイスン、あの男を調べろ」
小声で命じた。
【主要登場人物です】
■ レティシア・ヴァレンティーヌ
この物語の主人公。絹糸のような淡い銀髪で紫水晶を思わせる大きな瞳をもつ公爵令嬢。未来の皇后候補として厳しく育てられ全てに秀でた“完璧令嬢”として知られていた。
■ アルフォンス・ルーヴェル
ルーヴェル帝国の第一皇子で、次代の皇帝として期待される存在。金髪でアイスグレーの瞳をもつ端正な顔立ちをしている。
■ ルシアン・エヴラール
隣国であり友好国であるラヴィエール公国のエブラール公爵家嫡男。レティシアの幼なじみ。軽薄そうで何を考えているかわからない。黒髪の危険な色気があり女性からもてる。レティシアの本性を知る数少ない人物。
【ルーヴェル帝国 関係者】
■クラウディウス皇帝
ルーヴェル帝国を長年統治している偉大な皇帝。理性的で威厳があり、民から敬愛されている。
【 ヴァレンティーヌ公爵家】
広大な領地を持つ帝国屈指の超名門公爵家であり、代々皇室騎士を輩出している武門の家系でもある。
■ ヴィクトル・ヴァレンティーヌ
ヴァレンティーヌ公爵家当主。厳格で威厳ある人物で皇室からの信頼も厚い。
■ セラフィーナ・ヴァレンティーヌ
ヴィクトルの妻であり知性と品格にあふれる公爵夫人。
■ アレクシス・ヴァレンティーヌ
3歳年上のレティシアの兄。ヴァレンティーヌ家の後継者。聡明で冷静。
■ ノエル・ヴァレンティーヌ
1歳年下のレティシアの弟。剣術好きで明るい性格。
【アルフォンスの婚約者候補】
■イザベル・ド・モンフォール侯爵令嬢。
金髪碧眼の華やかな美人。社交界の華。
■カミーユ・ド・ラ・ロシュフォール公爵令嬢
黒髪で切れ長の瞳。知的で冷静で政務や外交に精通している。レティシアの最大のライバル候補。
■エレオノール・ド・ヴァレリア辺境伯令嬢
赤銅色の髪で背が高い。武門の名家出身。馬術や軍略にも詳しい。
【ラヴィエール公国】
■ アーネスト・エヴラール
エヴラール公爵家の嫡男でルシアンの弟。誠実で率直な性格。幼少期より兄の存在を家門内で禁忌として扱われ、兄のことは何も知らない。このため兄に対しては「確かめたい」という強い衝動を抱いている。




