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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第1部「決められた人生」

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第3話「完璧令嬢 レティシア・ヴァレンティーヌ」②

 元皇室教師のベアトリスによる厳しい礼儀作法の授業が始まった。

彼女は厳しく冷たい人物として恐れられていた。

彼女には「未来の皇后を守れる淑女に育てる」という強い使命感があった。


───笑う時は口元を隠し、走らない。

───大声を出さない。食事中に肘をつかない。


「レディは常に見られているものです」

 ベアトリスは失敗を許さなかった。


どんなことにもすぐに興味が移りやすいレティシア。

 何かをしている最中に、ほかの楽しげなことが視界に入るとすぐにそちらへ興味が移ってしまうことが何度もあった。


「今はお食事の時間です、立ち歩くなんてもってのほかでございます」

「歩いているときにはよそ見をしてはなりません」

「野うさぎの後を追いかけてゆくなんて、レディのすることではございません!」


 レティシアは自分の興味の移り変わりを自分では制することが難しかった。

レティシアいつも叱られていた。






「ベアトリス、お前はわが子に才が足りぬと申すのか?」

 ヴィクトルは執務室でセラフィーナとともに、ベアトリスから指導報告を受けていた。

 レティシアの父、ヴィクトル・ヴァレンティーヌ。

黒曜石のような黒髪を後ろへ流し、冷たい美貌を持つ男。


「申し上げにくいことですが、お嬢様は通常より厳しい教育が必要なお方かと存じます」


 ヴィクトルは右手で頭を押さえた。そして深いため息をつく。

 ヴィクトルの隣に座る母セラフィーナは、そのため息を聞いて眉間にしわを寄せた。

「あの子は覚えるのがゆっくりなだけですわ」

 セラフィーナはベアトリスに目配せをした。


 ベアトリスはうなづいた。

「はい。ですが、尽力して将来の皇后としてふさわしいお方に育て上げます!」


 ヴィクトルはじっと正面からベアトリスを見つめた。

 ベアトリスは長椅子から立ち上がり、右手を胸に当てて深くお辞儀をした。

「うむ」

 ヴィクトルは考えた。


(このままあの子を厳しい皇后教育に向かわせてよいのだろうか)


 にこにこ笑い、人懐っこく、不思議と人を惹きつける魅力のある、かわいいわが子である。

 少々落ち着きがないが、年頃には落ち着いてくるだろうとは思っていた。

 しかし、レティシアの将来はすでに決まっている。ヴァレンティーヌ家の公爵令嬢として生まれた時から。


いや、生まれる前からすでに───

アルフォンス第一皇子の筆頭婚約者として決められている。


 帝国で最も尊い淑女への厳しい教育。娘にそれが耐えられるのだろうか。


 隣からセラフィーナが控えめに言った。

「あなた、お迷いでございますね。ですが、心配には及びません。あの子の心はもう決まっているようです。」

「どういうことだ」

「あの子はアルフォンス皇子のことを好いています」

 セラフィーナの言葉にベアトリスもうなづいた。

 ヴァレンティーヌは目を見開き、乾いた笑い声をあげた。


「は、ははは。近頃の若いものは、ませたものだな」

 その言葉にセラフィーナとベアトリスは顔を見合わせ、上品に笑った。

「では、決まりでございますね」






 その頃レティシアは、自室の机に向かっていた。


『あるふぉんすおうじでんかへ』

 そこまで書いたところで、窓の外を飛んでいく小鳥が目に入った。

「あっ、とりさん……」

 レティシアは羽ペンを持ったまま窓辺へ駆け寄った。

 しばらく小鳥を目で追いかけていたが、はっとしたように机へ戻る。


 インクは少し乾きかけていた。

「たいへん!」


 あわてて続きを書こうとして、今度はインクを袖につけてしまっていた。






 両親とベアトリスとの話し合いのあと、レティシアの皇后教育はさらに厳しいものとなった。



【主要登場人物です】

■ レティシア・ヴァレンティーヌ

  この物語の主人公。絹糸のような淡い銀髪で紫色の大きな瞳をもつ公爵令嬢。

  未来の皇后候補として厳しく育てられ全てに秀でた“完璧令嬢”・・・だったが?


■ アルフォンス・ルーヴェル

  ルーヴェル帝国の第一皇子で、次代の皇帝として期待される存在。

  金髪でアイスグレーの瞳をもつ端正な顔立ちをしている。


■ ルシアン・エヴラール

  隣国であり友好国であるラヴィエール公国の小公爵。レティシアの幼なじみ。

  軽薄そうで何を考えているかわからない。黒髪の危険な色気があり女性からもてる。 

  レティシアの本性を知る数少ない人物。


【ルーヴェル帝国 関係者】

■クラウディウス皇帝

  ルーヴェル帝国を長年統治している偉大な皇帝。

  理性的で威厳があり、民から敬愛されている。


【 ヴァレンティーヌ公爵家】

 帝国屈指の名門公爵家であり、代々皇室騎士を輩出している武門の家系でもある。

 

■ ヴィクトル・ヴァレンティーヌ

  ヴァレンティーヌ公爵家当主。厳格で威厳ある人物で皇室からの信頼も厚い。


■ セラフィーナ・ヴァレンティーヌ

  ヴィクトルの妻であり知性と品格にあふれる公爵夫人。


■ アレクシス・ヴァレンティーヌ

  3歳年上のレティシアのでヴァレンティーヌ家の後継者。聡明で冷静。


■ ノエル・ヴァレンティーヌ

  1歳年下のレティシアの弟。剣術好きで明るい性格。


■ベアトリス・ローエン

  レティシアの教育係。

  帝国最高の淑女を育て上げることに強い誇りを持っている。


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