第19話「幼なじみの重い剣」
キィン!!
甲高い金属音が闘技場に響き、どよめく観客。
ルシアンの剣が大きく逸れた。
観客席からどよめきが上がる。
「嘘だろ!?」
「大きい方が押されたぞ!」
「小さい覆面の方が強ぇじゃねぇか!」
レティシアは追撃した。
間髪入れず踏み込み、剣を振り下ろす。
キィン!
受けられた。
(遅いわ!)
いつものルシアンより明らかに反応が遅かった。
(油断したわね...)
レティシアは横薙ぎに払う。
(手加減は...無用よ!)
再び金属音が響く。
二歩、三歩。
ルシアンが後退した。
わぁぁぁ!
観客席の熱気が一気に高まる。
飛び入りの無名同士。
そのはずなのに、誰も目を離せない。
無駄がなく、研ぎ澄まされ訓練されてきた剣だった。
歓声に包まれる闘技場の中で、二人はお互いの呼吸だけを聞き、読む。
ルシアンは一度大きく距離を取った。
ふぅ、と小さく息を吐く。
黒い瞳がまっすぐレティシアを捉えた。
その瞬間、レティシアの背筋にぞくりとしたものが走る。
(あ)
レティシアはゴクリとつばを飲む。
(この瞳、......知ってる。)
幼い頃から何度も見てきた。
(この目になったルシアンは本気だわ)
ルシアンが剣を構え直す。
その口元が、ほんの少しだけ上がった気がした。
レティシアは思わず目を見開く。
(今……笑った?)
レティシアの胸が高揚した。
(負けたくない!)
「望むところよ......っ!」
闘技場の歓声が遠のく。
観客の声も、司会の叫びも消える。
レティシアの世界には、 目の前のルシアンしかいない。
ルシアンが動く。
(速い!)
でも「見えない速さ」じゃない。
レティシアが剣を合わせる。
キィン!
衝撃。
(重い......っ!)
今までの数倍重い。
(くっ……!)
押し返される。
ルシアンは力任せに振っているわけではない。
最も効率よく、 最も防ぎにくい場所へ剣を運んでいる。
レティシアは笑う。
(怖い、けれど楽しい)
幼い頃、泥だらけになりながら木剣を振った日々を思った。
負けて泣いた日、初めて勝って飛び跳ねた日。
すべてが一瞬で蘇る。
キィン!
キィンッ!
キィンッッッ!
金属音が響くたび、観客席は熱狂する。
そしてルシアンが右足を踏み込む。
(ルシアンはいつも右足の踏み込みが甘いのよ!)
レティシアがルシアンの動きを見破ったと思った次の瞬間。
ルシアンはタイミングをずらし左足で踏み込んできた。
(なっ......!?)
カラン――
レティシアの剣が宙を舞った。
気付いた時には、 ルシアンの剣先がレティシアの細い喉元に突き付けられていた。
───静寂、そして。
わあああああああ!!
闘技場が揺れるほどの歓声が上がる。
だが、レティシアには聞こえていなかった。
聞こえるのは荒くなった自分の呼吸だけだった。
目の前には、剣を突き付けたままのルシアン。
(......負けた)
その事実が、ゆっくりと胸に落ちていく。
(悔しい......)
レティシアは起き上がる。
(悔しいのに、なにかしら。この気持ちは)
レティシアの口元は笑っていた。




