第18話「覆面の剣士」
レティシアは、闘技場の西側の薄い通路に立っていた。
(ここで待ってろ、とガレス先生に言われたけど......。なぜかしら)
やがてレティシアは待たされている意味がわかった。
「お、お嬢様.....!」
「マ、マリア?」
「ハアッハアッ!こ、これを……」
(そういえば、マリアの姿が見えなかったわ)
どうやらガレスに命じられ、レティシアの正体を隠すための覆面を買いに行っていたらしい。
「ありがとう、マリア。」
レティシアは覆面を受け取った。
「辞退したとはいえ、どこかにノエルがいるはずだから。気をつけて」
マリアは頷いた。
「お嬢様、どうかお気をつけて......」
マリアは心配そうに、また走り去っていった。
その背を見送り、レティシアは覆面を付けた。
その覆面は、レティシアの顔の上半分を隠してくれるマスクだった。
(これで私だってバレないわ)
観客が、次の試合を待ちわび歓声を上げる。
レティシアは深呼吸した。
剣士は、西と東に別れて闘技場へ入場する。
ルシアンは、東側の控え室へ連れていかれた。
レティシアは、ふふ、と笑った。
(街娘の服装で、覆面をつけた私が、レティシア・ヴァレンティーヌだとは誰も気が付かないでしょうね)
胸の奥が熱くなる感覚があった。
(ケガだけはしないようにしなくちゃ)
いよいよ第2試合の開幕が告げらた。
観客の声援が益々大きくなった。
薄暗い廊下を抜けて、レティシアは闘技場の光の中へと向かって行った。
飛び入り参加の二名である事が伝えられている。
「二人とも訳があってで名前と所属は非公表!」
司会の男がそう言うと観客はざわついた。
「そんな試合、つまらねぇよ!」
「そんなヤツら出すんじゃねぇぞー!」
ざわめきの中、レティシアが闘技場に颯爽と現れた。
一瞬だけ観客は静まり返った。
つぎの瞬間。
どよっ......!
レティシアの登場に、観客席はどよめいた。
ルシアンも東側の入り口から闘技場に歩き入ってきていた。
ルシアンは、マスクをつけたレティシアをじっと見つめていた。
「おい、あの覆面の方、女じゃないか?」
「いや、覆面してるからよくわからんぞ」
「いや女だろ?」
「胸が平らだから男だろ」
「それにしても2人ともちっせぇな、大丈夫なのか?」
ざわめきが波のように広がる。
2人は審判の男の前で向き合った。
レティシアは少しだけ肩をすくめた。
マスク越しに観客席を見上げる。
無数の視線。
だが、不思議と怖くなかった。
(目の前にいるのはいつもの相手よ)
幼い頃から何度も戦ってきた。
───勝つこともあった。
───負けることもあった。
そう、ルシアンだったからだ。
お互いに剣を構える。
レティシアはすぅっと息を吸った。
──審判が、静かに手を上げる。
「始め!」
次の瞬間、レティシアは息を吐きながらルシアンに向かって足を踏み出した。
ルシアンの目が見開かれた。
キィン!!
甲高い金属音が闘技場に響く。
観客席がどよめいた。
「は?」
弾かれたのは。
───ルシアンの剣だった。




