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第17話「急な出場」

投稿した後に大幅な修正させていただきました。すでにご拝読くださった方々、誠に申し訳ございません。よろしければ更新後のおはなしを再度お楽しみくださいませ……。(2026年5月30日1:50記)

「その枠、出よう」


 アルフォンスの言葉に、


「は?」


 ノエルはきょとんとする。


 アレクシスは察したように目を細めた。


「……アル、本気か?」


 闘技場の奥から、地鳴りのような歓声が響いていた。


 どうやら武闘会の第一試合が開始されたようだ。


 熱狂する観客。


「ヴァレンティーヌ家の名誉は、空席にはできない」


 アルフォンスは歓声のする方向を見つめたまま、薄く微笑んだ。


(少し、興味がわいた)







 第一試合はかなり白熱した戦いだった。


 剣士たちは制限時間いっぱいまで戦い、観客のボルテージはかなり高まっていた。


 レティシアとルシアンは西側の控室にいた。


 控室は小さな窓があるのみで、かなり薄暗かった。


 レティシアは街娘に扮していたが、隠しきれない美しさがあった。


 このため、控室にいる男たちはちらちらとレティシアの方を見ていた。


 レティシアはその視線に気がついていなかった。


 かわりに、ルシアンがレティシアに視線を送る男たちをにらみつけていた。


 にらみ合う剣士たち。


(すごくものものしい雰囲気ね……。)


 レティシアはその険悪な雰囲気だけは感じた。


 ふと見ると、家門の入ったマントを握りしめ祈るような剣士がいた。


(あの剣士は家門を背負ってきているんだわ)


 街の青年らしき屈強な体格の男もいた。


(この武闘会は、剣術が強い民にとっては名を上げるチャンスなんだわ)


 男たちとのにらみ合いに区切りをつけ、ルシアンが剣の仕上がりを確認し始めた。


 その表情からは余裕を感じさせた。


(さすがね、自信があるんだわ)


 ルシアンの登場は次の第二試合に組まれていた。


「すぐに出番ね、ルシアン」


 レティシアは小さくルシアンに声をかけた。


「先生も人が悪いよな、僕が来なかったらどうしてたんだろう」


「あのお姉さんたちのお店で、ずーっと串焼き食べてたかもしれないのにね」


 レティシアはいたずらそうに笑った。


(……だから、かわいすぎるんだって)


 その笑顔の可愛さに、ルシアンだけではなく控室にいた剣士たちも同じことを思った。


「誤解のないように言っとくけど……あのお姉さんたちは、」


 あわててルシアンがそう言いかけたとき。


 ルシアンのもとに、案内役の男がやってきた。


「そろそろ出番ですので、こちらに」


 ルシアンは立ち上がった。


「じゃあ、わたしは先生に言われた上の席で見てるね。」


 レティシアは観客席へ行こうと控室の出口に向かった。


 ――どしん!


 急に出口に大きな人影が現れた。


 突然のことで、レティシアはその大きな人にぶつかった。


「おい」


「あっ、ガレス先生、すみませんでした」


 ガレスは気にする様子もなく、レティシアを見下ろした。そして、


「今からお前も出るんだ」


 ぶっきらぼう言った。


 そしてガレスがレティシアに剣を差し出す。


「え……?」


 レティシアは固まった。


 その後ろから係員が走ってきた。


「実は、ヴァレンティーヌ家の次男さまが欠場となりまして」


 息を整えながら係員は話し始めた。


(ノエルが?)


 レティシアは驚いた。


(それはさぞお父様ががっかりなさるでしょうね……)


「急遽、オルディン元騎士団長さまに代わりの剣士の方を探していただいたのですが」


 係員はちらっとガレスを見る。


「ヴァレンティーヌ家から先ほど代理の剣士の方が登録がされまして」


 ガレスは表情ひとつ変えない。


「逆にひと枠おおくなってしまったのです」


 係員は、申し訳なさそうに弱弱しく言った。


 二人は頷く。


「なるほど」


 思いついたように、ルシアンが明るく提案した。


「あっ!それなら、僕が辞退したらいいんじゃ?」


「お前ら、二人が出たらいい」


 ガレスが静かに言い切った。


「えーっ!?」


 大きな声を出すレティシアとルシアン。


「はい、審査員長でおられます、オルディン元騎士団長さまのご決定により、次の第二試合は、お二方による対戦とさせていただきました」


 レティシアは振り返って、ルシアンと見つめあった。


 二人とも驚きのあまり目が丸く、口がぽかんと開いていた。


「……いや待て」


「……待って」


 二人は同時に、お互いを指差した。


「お前と!?」


「今から!?」


 ルシアンとレティシアが叫ぶのは同時だった。


 控室にいた剣士たちが、一斉にこちらを振り向いた。


【主要登場人物です】

■ レティシア・ヴァレンティーヌ

この物語の主人公。絹糸のような淡い銀髪で紫水晶を思わせる大きな瞳をもつ公爵令嬢。未来の皇后候補として厳しく育てられ全てに秀でた“完璧令嬢”として知られていた。


■ アルフォンス・ルーヴェル

ルーヴェル帝国の第一皇子で、次代の皇帝として期待される存在。

金髪でアイスグレーの瞳をもつ端正な顔立ちをしている。


■ ルシアン・エヴラール

隣国であり友好国であるラヴィエール公国の小公爵。レティシアの幼なじみ。

軽薄そうで何を考えているかわからない。黒髪の危険な色気があり女性からもてる。 

レティシアの本性を知る数少ない人物。


【ルーヴェル帝国 関係者】

■クラウディウス皇帝

ルーヴェル帝国を長年統治している偉大な皇帝。

理性的で威厳があり、民から敬愛されている。


【 ヴァレンティーヌ公爵家】

帝国屈指の名門公爵家であり、代々皇室騎士を輩出している武門の家系でもある。

 

■ ヴィクトル・ヴァレンティーヌ

ヴァレンティーヌ公爵家当主。厳格で威厳ある人物で皇室からの信頼も厚い。


■ セラフィーナ・ヴァレンティーヌ

ヴィクトルの妻であり知性と品格にあふれる公爵夫人。


■ アレクシス・ヴァレンティーヌ

3歳年上のレティシアのでヴァレンティーヌ家の後継者。聡明で冷静。


■ ノエル・ヴァレンティーヌ

1歳年下のレティシアの弟。剣術好きで明るい性格。


■ベアトリス・ローエン

レティシアの教育係。

帝国最高の淑女を育て上げることに強い誇りを持っている。


■ガレス・オルディン

かつて帝国騎士団を率いていた元騎士団長。熊のように大柄な体格と、頬に走る古傷のせいで恐れられることも多いが、その剣技は帝国内でも伝説的と語られている。


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