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第13話「知らなかったルシアンの顔」

「ねぇ、好きな人、いるんでしょう?ルシアン」


 祭りの喧騒の中、レティシアはしつこくルシアンに食い下がっていた。


「その人、どんな人なの?ねぇー」


 ルシアンは視線を逸らしたまま、早足になる。


 後ろから追いかけるレティシア。


 それぞれの屋台から香ばしい香りと祭りを楽しむ人々の笑い声が混ざる通りで、レティシアの声だけがやけに近い。


「だからいないって言ってるだろ」


 歩きながら振り向いてぶっきらぼうに答えるルシアン。


「でもさっき動揺してたわよね?」


「してない!」


 即答だった。


 レティシアは少し目を細める。


(……今の、ちょっと怪しい)


「ねぇ、やっぱりいるんじゃない?」


「いないって言ってるだろ!」


 ルシアンの声が少しだけ上ずった。


 その瞬間だった。


「あれ?ルシアンじゃない?」


 遠くから、弾むような女性の声が飛んできた。


「本当だー!」


 次の瞬間、近くの屋台から数人の女性たちが顔を出した。


 年上の女性もいれば、同年代くらいの娘もいる。


「おーい、ルシアン!」


「こっちこっちー!」


 手を振る声は、どこか明るくて軽い。


 ルシアンはレティシアに目で合図して、娘たちの屋台へ向かった。


「ほんとだ、来てたんだー」


「ちゃんと食べてるー?」


 うれしそうにはしゃぐ声が重なり、気づけばルシアンは娘たちに囲まれていた。


「姉さんたち、ここだったの?通り過ぎるところだったぜ」


(ルシアン、すごく嬉しそうだわ)


 一人の娘がレティシアに気づいた。


「あれ、そっち誰?」


 ルシアンが口を開くより先に、レティシアが軽く会釈した。


「はじめまして」


「へぇ……また違う女の子連れちゃって」


 ブロンドの長い髪の娘がレティシアを値踏みするように見つめる。


「別にそういうんじゃない」


 即答だった。ルシアンの笑顔は少し固まった。


「照れてるー。かわいいねールシアンくん!」


「だから違うって言ってるだろ」


「えー、でも一緒に歩いてるじゃん」


 軽い笑いが起きる。


 そのやり取りを見ながら、レティシアは小さく目を瞬いた。


(……ずいぶん馴染んでいるのね)


 二人は屋台の前の小さなテーブル席に案内された。


「じゃあゆっくりしていきなよ」


 軽やかに笑う娘が、自然にそう言った。


 元気そうな娘が屋台の奥からおいしそうな串焼きを持ってきた。


「あとで甘いの持ってきてあげるわね」


「お前、またルシアンに勝手にサービスするなよ!」


 年上らしき女性がすかさず突っ込む。


 わいわいとした空気のまま、会話は流れていく。


 そのあとも通りすがりの村娘や、他の屋台の娘たち、何人もの娘たちがルシアンを見つけては声をかけていった。


 その輪の中心にいるルシアンは、ただ“そこにいるのが当たり前”のような扱いだった。

【主要登場人物です】

■ レティシア・ヴァレンティーヌ

この物語の主人公。絹糸のような淡い銀髪で紫水晶を思わせる大きな瞳をもつ公爵令嬢。未来の皇后候補として厳しく育てられ全てに秀でた“完璧令嬢”として知られていた。


■ アルフォンス・ルーヴェル

ルーヴェル帝国の第一皇子で、次代の皇帝として期待される存在。

金髪でアイスグレーの瞳をもつ端正な顔立ちをしている。


■ ルシアン・エヴラール

隣国であり友好国であるラヴィエール公国の小公爵。レティシアの幼なじみ。

軽薄そうで何を考えているかわからない。黒髪の危険な色気があり女性からもてる。 

レティシアの本性を知る数少ない人物。


【ルーヴェル帝国 関係者】

■クラウディウス皇帝

ルーヴェル帝国を長年統治している偉大な皇帝。

理性的で威厳があり、民から敬愛されている。


【 ヴァレンティーヌ公爵家】

帝国屈指の名門公爵家であり、代々皇室騎士を輩出している武門の家系でもある。

 

■ ヴィクトル・ヴァレンティーヌ

ヴァレンティーヌ公爵家当主。厳格で威厳ある人物で皇室からの信頼も厚い。


■ セラフィーナ・ヴァレンティーヌ

ヴィクトルの妻であり知性と品格にあふれる公爵夫人。


■ アレクシス・ヴァレンティーヌ

3歳年上のレティシアのでヴァレンティーヌ家の後継者。聡明で冷静。


■ ノエル・ヴァレンティーヌ

1歳年下のレティシアの弟。剣術好きで明るい性格。


■ベアトリス・ローエン

レティシアの教育係。

帝国最高の淑女を育て上げることに強い誇りを持っている。


■ガレス・オルディン

かつて帝国騎士団を率いていた元騎士団長。熊のように大柄な体格と、頬に走る古傷のせいで恐れられることも多いが、その剣技は帝国内でも伝説的と語られている。


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