第21話「親友の仇」
「レオニス、これで全員か...?」
「ああ。集落の奴ら全員、集めたぜ」
ここは街はずれにある、朽ちた教会。
俺は朝早くから仲間たちを使って、集落に住む全ての奴らをここへ集めさせた。
こいつは、”支援者”からの使者だ。
帝都から定期的にやって来る。
こいつの命令は絶対だ。
今朝、こいつに、この集落の奴らを全員ここへ集めろ...と言われた。
「集めた」と言っても、それほどは多くない。
汚い仕事を請け負う奴ら、その連れ合い、家族、行き場のない奴らがこの集落にいるだけだ。
……ベルンやエミ母娘は別だ。あいつらだけは違う。俺の家族みたいなもんだ。
「それにしても、こんな朝早くから攻撃に来るなんて。年寄りどもは早起きだぜ。あんたらもよく今日がその日だって知ってたもんだな」
正直...本当に、何でもわかってやがる。
使者を名乗る男は前髪を目の下まで垂らし、いつも猫背で陰湿な雰囲気のある男だ。
気味の悪さは、ここにいる組織の奴らと何ら変わりない。
「今朝はやけにおしゃべりだな」
うす気味悪く、にやりと笑う。
「そんなことねえよ。……それで?これからどうすんだ」
「その前に、まだ来てないヤツらがいるだろう」
ぎくりとする。目ざとい奴だ。
「んなことねぇよ、これで全員じゃねぇか」
「ベルン、エミ、その母親、……そして、レティシア・ヴァレンティーヌ。こいつらがいねぇな」
「はぁ?誰だって?」
エミたちの名前が出て驚く。
あと、……なんだって?
「レティシア公爵令嬢だ」
何を言っているんだ、こいつやっぱり意味分かんねぇ。
公爵令嬢がこんなとこに、いるはずがない。
「適当なこと言ってるんじゃねえだろうな」
「口の利き方に気をつけろ、ガキ。俺は嘘はつかねぇ」
...どうだっていいだろ、そんなこと。
ああ面倒くさい。
「……すんません」
「いいぜ。褒美にいいこと教えてやろう」
また、にやりと気味悪く笑う。
「……?」
「エミをここへ呼びに行かせたベルンが裏切ったぜ」
「何⁉」
唐突に何を言い出すんだ。そんな訳ない。
「今朝の話だ。ベルンがエミの家に行ったら...残念ながらエミはすでに山に行った後だった」
ああ、あいつは時々薬草を採りに...朝早くから山へ行くことがある。
いや、なんでそんなことまで使者が知っている?
知る必要のないことまで知ってやがる。
「だからエミはここにいないんたろうよ。で、ベルンがなんだって?」
「ベルンはレティシアに”支援者”のことを聞かれたんだ」
俺の耳元で、薄気味悪く使者が囁く。
身体中の毛という毛が逆立つほど気持ち悪い。
「は?」
心臓がどくん、と鳴る。
なんでレティシアが”支援者”について聞く?
ベルンは言ったのか?
……いや、言うはずがない。
あいつは約束は守る奴だ。
「残念ながら、ベルンは言いかけたんだ。言ってはならない人の名を」
「まさか……まさかお前ら!」
使者の胸ぐらをつかむ。
ベルンが裏切るだと?
そんなはずはない!そんなはずはないんだ!
次の瞬間、右の頬に衝撃を受け体が吹き飛ぶ。
「俺に手を出すな、つってんだろ」
吹き飛んだ先で、さらにみぞおちに激痛―――胃が口から出るほどの衝撃が襲う。
目の前が一瞬だけ真っ暗になる。
くそ……こいつが強いのは知ってたのに。
「仕方ないだろう、何度も言い聞かせてあったよな、あの方の名前を言ったら―――」
「そんな、お前、ら…」
ゴホゴホ、とみぞおちから酸っぱいものが咳き上げる。
うまく声が出ない。酸っぱいからなのか、鼻水が絡むのか、目と鼻から何かが滴り落ちる。
「―――始末するぞ、と言ってあっただろう」
「ベルン!うそだ……ベルン‼」
あいつはそんなヘマはしない。
「残念だったな。仕方なかったんだ。命令だからな。苦しまないようにはしてやったぞ」
嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ!
俺は信じない。
あいつは物心つく前からの親友で。
家族で―――。
言葉が出ない俺に、使者がたたみかける。
「誰のせいだ?ベルンが亡き者になったのは。え?」
誰のせい……。
そんなのお前らのせいに決まってる。
だが、そんなことは言えない。
「レティシアが聞いたからじゃないか?だからベルンは…」
「……」
「さぁお前は今から、レティシアを始末しに行くんだ」
「……」
「親友の仇である、レティシア公爵令嬢を」
エミの顔が浮かぶ。レティシアを始末する?
そんなのできるわけない。
エミが傷つくし、俺のことも軽蔑するに決まってる。
「教会にいるやつらは、お前が無事に仕事を終えたら、生きてこの集落から逃がしてやるよ。全員、な」
「なんだって?」
「断ったら、そうだな。辺境軍に、全員がここにに隠れていると密告してやろう」
レティシアの命なんて、俺にはどうでもいい。
俺にとって大切なのは―――。
「そうだ、エミもここに来るだろう。もう間もなく。ほら」
そこへエミが駆けて来た。
レティシアもその後ろを走っている。
「レオニス‼」
息を切らせたエミが目の前に立つ。
「良かったなレオニス。好きな女の前で仇をとれるぞ」
そう言って使者は姿を消した。
どっかで見てやがるんだ。悪趣味な奴。
今の俺の顔は、どんな顔をしているのだろう。
エミが生きていてよかったと安心した顔か、それとも。
これから人の命を奪う自分をエミに見せなければならない、苦痛にゆがんだ顔か―――。




