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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「自分が決めた道」

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第21話「親友の仇」

「レオニス、これで全員か...?」

「ああ。集落の奴ら全員、集めたぜ」

 ここは街はずれにある、朽ちた教会。

 俺は朝早くから仲間たちを使って、集落に住む全ての奴らをここへ集めさせた。


 こいつは、”支援者”からの使者だ。

 帝都から定期的にやって来る。

 こいつの命令は絶対だ。


 今朝、こいつに、この集落の奴らを全員ここへ集めろ...と言われた。


「集めた」と言っても、それほどは多くない。

 汚い仕事を請け負う奴ら、その連れ合い、家族、行き場のない奴らがこの集落にいるだけだ。

 ……ベルンやエミ母娘は別だ。あいつらだけは違う。俺の家族みたいなもんだ。


「それにしても、こんな朝早くから攻撃に来るなんて。年寄りどもは早起きだぜ。あんたらもよく今日がその日だって知ってたもんだな」


 正直...本当に、何でもわかってやがる。


 使者を名乗る男は前髪を目の下まで垂らし、いつも猫背で陰湿な雰囲気のある男だ。


 気味の悪さは、ここにいる組織の奴らと何ら変わりない。


「今朝はやけにおしゃべりだな」

 うす気味悪く、にやりと笑う。

「そんなことねえよ。……それで?これからどうすんだ」


「その前に、まだ来てないヤツらがいるだろう」

 ぎくりとする。目ざとい奴だ。


「んなことねぇよ、これで全員じゃねぇか」


「ベルン、エミ、その母親、……そして、レティシア・ヴァレンティーヌ。こいつらがいねぇな」


「はぁ?誰だって?」

 エミたちの名前が出て驚く。

 あと、……なんだって?


「レティシア公爵令嬢だ」

 何を言っているんだ、こいつやっぱり意味分かんねぇ。

 公爵令嬢がこんなとこに、いるはずがない。

「適当なこと言ってるんじゃねえだろうな」


「口の利き方に気をつけろ、ガキ。俺は嘘はつかねぇ」


 ...どうだっていいだろ、そんなこと。

 ああ面倒くさい。

「……すんません」


「いいぜ。褒美にいいこと教えてやろう」

 また、にやりと気味悪く笑う。


「……?」

「エミをここへ呼びに行かせたベルンが裏切ったぜ」

「何⁉」

 唐突に何を言い出すんだ。そんな訳ない。


「今朝の話だ。ベルンがエミの家に行ったら...残念ながらエミはすでに山に行った後だった」

 ああ、あいつは時々薬草を採りに...朝早くから山へ行くことがある。

 いや、なんでそんなことまで使者が知っている?

 知る必要のないことまで知ってやがる。


「だからエミはここにいないんたろうよ。で、ベルンがなんだって?」


「ベルンはレティシアに”支援者”のことを聞かれたんだ」

 俺の耳元で、薄気味悪く使者が囁く。

 身体中の毛という毛が逆立つほど気持ち悪い。


「は?」

 心臓がどくん、と鳴る。


 なんでレティシアが”支援者”について聞く?


 ベルンは言ったのか?

 ……いや、言うはずがない。

 あいつは約束は守る奴だ。


「残念ながら、ベルンは言いかけたんだ。言ってはならない人の名を」

「まさか……まさかお前ら!」

 使者の胸ぐらをつかむ。


 ベルンが裏切るだと?

 そんなはずはない!そんなはずはないんだ!


 次の瞬間、右の頬に衝撃を受け体が吹き飛ぶ。

「俺に手を出すな、つってんだろ」


 吹き飛んだ先で、さらにみぞおちに激痛―――胃が口から出るほどの衝撃が襲う。


 目の前が一瞬だけ真っ暗になる。

 くそ……こいつが強いのは知ってたのに。


「仕方ないだろう、何度も言い聞かせてあったよな、あの方の名前を言ったら―――」

「そんな、お前、ら…」


 ゴホゴホ、とみぞおちから酸っぱいものが咳き上げる。


 うまく声が出ない。酸っぱいからなのか、鼻水が絡むのか、目と鼻から何かが滴り落ちる。


「―――始末するぞ、と言ってあっただろう」


「ベルン!うそだ……ベルン‼」

 あいつはそんなヘマはしない。


「残念だったな。仕方なかったんだ。命令だからな。苦しまないようにはしてやったぞ」


 嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ!


 俺は信じない。

 あいつは物心つく前からの親友で。

 家族で―――。


 言葉が出ない俺に、使者がたたみかける。


「誰のせいだ?ベルンが亡き者になったのは。え?」


 誰のせい……。

 そんなのお前らのせいに決まってる。

 だが、そんなことは言えない。


「レティシアが聞いたからじゃないか?だからベルンは…」

「……」

「さぁお前は今から、レティシアを始末しに行くんだ」

「……」

「親友の仇である、レティシア公爵令嬢を」


 エミの顔が浮かぶ。レティシアを始末する?

 そんなのできるわけない。

 エミが傷つくし、俺のことも軽蔑するに決まってる。


「教会にいるやつらは、お前が無事に仕事を終えたら、生きてこの集落から逃がしてやるよ。全員、な」

「なんだって?」

「断ったら、そうだな。辺境軍に、全員がここにに隠れていると密告してやろう」


 レティシアの命なんて、俺にはどうでもいい。

 俺にとって大切なのは―――。


「そうだ、エミもここに来るだろう。もう間もなく。ほら」


 そこへエミが駆けて来た。

 レティシアもその後ろを走っている。

「レオニス‼」

 息を切らせたエミが目の前に立つ。


「良かったなレオニス。好きな女の前で仇をとれるぞ」

 そう言って使者は姿を消した。

 どっかで見てやがるんだ。悪趣味な奴。


 今の俺の顔は、どんな顔をしているのだろう。


 エミが生きていてよかったと安心した顔か、それとも。


 これから人の命を奪う自分をエミに見せなければならない、苦痛にゆがんだ顔か―――。


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