第20話「緊迫の救出作戦」
――レティシアたちが襲撃を受けた、その日。
帝国と辺境が一週間をかけて準備を進めてきた救出作戦が、ついに始まった。
まだ夜の闇が残る明け方に。
包囲を終えた帝国軍と辺境軍は、一斉に過激派組織の根城へ攻撃を開始した。
エレオノール率いる第一騎士団が、レティシアがいるとされている薬師の家に向かった。
「馬はここで待機。ここから先は徒歩で追う」
庭先へ踏み入れた瞬間、一瞬でエレオノールの心臓が跳ねる。
「いったい何が起きた?」
庭先に、庭先に、大柄な男が倒れていた。
エレオノールは慎重に歩み寄る。
しかし息はすでにもうない。
胸には矢が刺さったままだった。
胸騒ぎがする。
「ごめんください!」
ドアを叩き、耳を澄ませる。
しかし、中から物音ひとつ返ってこない。
入り口のドアは開かない。
部下を伴って慎重に裏口へ回る。
裏口のドアの鍵はかかっていない。
そこからゆっくりドアを開け、中へ入った。
しかし、家の中は静まり返っている。誰もいない。
「どういうことだ」
密偵からの報告によると、この家には薬師の母娘が住んでいるはずだが。
エレオノールは呆然とした。
「どの部屋にも、誰もいません」
部下が全ての部屋を調べたが、誰も見つからなかった。
だが……。
テーブルの上のスープはまだ温かい。
ベッドの上に衣服が脱ぎ捨てられている。
しかし、裏口以外は窓という窓まで内側から施錠されていた。
そしてテーブルの上に残された文字が目に入った。
『廃坑道を東へ向かって。公国へ出られる』
震えたような字でそれは記されていた。
慌てて出て行ったような気配が残る。
行先は―――
「廃坑道か」
裏の門戸へ回ると、山に向かって足跡がいくつか残されていた。
「すぐにガレス隊長へ報告しろ。我々は足跡を追って廃坑道へ向かう、と伝えろ」
そう部下に命じて、エレオノールたち第一騎士団は山へと向かった。
辺境伯とガレス、それにアレクシスは、集落が見渡せる丘の上で陣を取っていた。
予定通りに砲撃が行われている。組織の動きが全くない。
「妙だな……」
辺境伯がつぶやいた。
「そうですね、なんだか反応がないような」
アレクシスも、何か胸騒ぎがしていた。
ただ、からっぽの廃墟の街を攻撃しているかのように人の動きがない。
攻撃を受けた人たちの声が、聞こえないのだ。
ガレスも砲撃を指示しながら、無言で考え込んでいるようだ。
(夜が明けないと、何も見えてこない…か)
アレクシスたちは夜明けを待つことにした。
(しかし、こんな風景を見るのは…嫌なものだ)
この時間が早く終わって欲しいと願うアレクシスだった。
やがて朝日が昇るころ、エレオノールからの報告が届いた。
「何?薬師の家には誰もいなかっただと?」
辺境伯が声を荒げた。
「庭に、男の死体だと?」
アレクシスは、眉をひそめる。
胸のざわめきが大きくなる。
(何が起きている?)
「レティシア嬢は、廃坑道へ向かったと思われます。隊長が騎士団とともに後を追って行かれました」
「ここへ来るまでに、誰かに会ったか?」
ガレスが報告を持ってきたエレオノールの部下に聞いた。
「いえ、誰にも」
辺境伯とアレクシスは顔を見合わせる。
「やはり妙だ」
「はい。どうしますか……」
「伯爵はここに座るのが仕事だ。俺がこの目で見に行く」
そう言って、ガレスが丘を下って行った。
集落のはずれに建つ古びた教会で、
もうひとつの惨劇が始まろうとしていることを、
まだ誰も知らなかった。




