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皇太子の婚約者候補から外されたので、完璧令嬢は本性隠すのやめました~捨てられた者たちがもう一度、意味を見つける物語~   作者: 春月もこ
第3部「自分が決めた道」

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第20話「緊迫の救出作戦」

 ――レティシアたちが襲撃を受けた、その日。


 帝国と辺境が一週間をかけて準備を進めてきた救出作戦が、ついに始まった。

 まだ夜の闇が残る明け方に。

 包囲を終えた帝国軍と辺境軍は、一斉に過激派組織の根城へ攻撃を開始した。


 エレオノール率いる第一騎士団が、レティシアがいるとされている薬師の家に向かった。


「馬はここで待機。ここから先は徒歩で追う」


 庭先へ踏み入れた瞬間、一瞬でエレオノールの心臓が跳ねる。

「いったい何が起きた?」


 庭先に、庭先に、大柄な男が倒れていた。

 エレオノールは慎重に歩み寄る。

 しかし息はすでにもうない。

 胸には矢が刺さったままだった。


 胸騒ぎがする。

「ごめんください!」

 ドアを叩き、耳を澄ませる。

 しかし、中から物音ひとつ返ってこない。

 入り口のドアは開かない。

 部下を伴って慎重に裏口へ回る。


 裏口のドアの鍵はかかっていない。

 そこからゆっくりドアを開け、中へ入った。


 しかし、家の中は静まり返っている。誰もいない。

「どういうことだ」

 密偵からの報告によると、この家には薬師の母娘が住んでいるはずだが。


 エレオノールは呆然とした。

「どの部屋にも、誰もいません」

 部下が全ての部屋を調べたが、誰も見つからなかった。


 だが……。

 テーブルの上のスープはまだ温かい。

 ベッドの上に衣服が脱ぎ捨てられている。

 しかし、裏口以外は窓という窓まで内側から施錠されていた。


 そしてテーブルの上に残された文字が目に入った。

『廃坑道を東へ向かって。公国へ出られる』

 震えたような字でそれは記されていた。


 慌てて出て行ったような気配が残る。

 行先は―――

「廃坑道か」


 裏の門戸へ回ると、山に向かって足跡がいくつか残されていた。


「すぐにガレス隊長へ報告しろ。我々は足跡を追って廃坑道へ向かう、と伝えろ」

 そう部下に命じて、エレオノールたち第一騎士団は山へと向かった。





 辺境伯とガレス、それにアレクシスは、集落が見渡せる丘の上で陣を取っていた。

 予定通りに砲撃が行われている。組織の動きが全くない。

「妙だな……」

 辺境伯がつぶやいた。

「そうですね、なんだか反応がないような」

 アレクシスも、何か胸騒ぎがしていた。


 ただ、からっぽの廃墟の街を攻撃しているかのように人の動きがない。

 攻撃を受けた人たちの声が、聞こえないのだ。

 ガレスも砲撃を指示しながら、無言で考え込んでいるようだ。


(夜が明けないと、何も見えてこない…か)

 アレクシスたちは夜明けを待つことにした。

(しかし、こんな風景を見るのは…嫌なものだ)

 この時間が早く終わって欲しいと願うアレクシスだった。


 やがて朝日が昇るころ、エレオノールからの報告が届いた。


「何?薬師の家には誰もいなかっただと?」

 辺境伯が声を荒げた。


「庭に、男の死体だと?」

 アレクシスは、眉をひそめる。

 胸のざわめきが大きくなる。

(何が起きている?)


「レティシア嬢は、廃坑道へ向かったと思われます。隊長が騎士団とともに後を追って行かれました」


「ここへ来るまでに、誰かに会ったか?」

 ガレスが報告を持ってきたエレオノールの部下に聞いた。

「いえ、誰にも」


 辺境伯とアレクシスは顔を見合わせる。

「やはり妙だ」

「はい。どうしますか……」


「伯爵はここに座るのが仕事だ。俺がこの目で見に行く」

 そう言って、ガレスが丘を下って行った。


 集落のはずれに建つ古びた教会で、

 もうひとつの惨劇が始まろうとしていることを、

 まだ誰も知らなかった。



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