第37話 小さな目標
どの街が襲撃を受け、どの街がやられたのか。
当然気になり、受付嬢に聞くと、1枚の紙を出してきた。
そこには襲撃された街と、被害の度合いが記されていた。
襲撃された街は27か所、当然このレギュンの街の名前もあったが、街の被害については無しとなっていた。
次に、壊滅した街を見てみる。
聞いたことの無い街の名前が続く中、6つ目の街に『ディザー』と書かれていた。
…この街以外で最初に行った街であり、初めて新しい装備を買い、そして防衛戦でも必死に守った街が――っ!!
「この…ディザーという街の人は…どうなったんだ?」
ノキュル、ディトロ、冒険者の人たち、ギルドの人たち、武器屋のおっちゃん。
脳裏に浮かぶのは、その街で出会った人たちの顔だった。
「多くの方は、襲撃されていない街へと逃げたと聞いていますが、冒険者の中には命を落とした者もいたと聞いています」
――ッ!!
誰なら死んでもいいって訳じゃないが、やはり知っている人には生きてて欲しいと願わずにはいられなかったっ!!
ギルドを後にし、宿屋に戻る。
まだ、疲れが残っていたからだ。
この疲れは、精神的なものだろう。
なぜこんな異世界に転生してまで、俺はこんなに苦労をしているんだ?
…あのクソ女神っ!こんな場所に転生させやがってっ!!
俺はただ、平和に楽しく、のんびり過ごしたかっただけなのにっ!!
「あの、フリート様?勲章おめでとうございますっ!ゴールド星バッチでしたねっ!」
俺が落ち込んでいると見えたのか、無理に励まそうとしているのが逆に辛い。
今回も個別に偉い人がギルドを通じて、勲章が渡されたのだが、全く嬉しくない。
「そうそう、今回ゴールドが与えられたのって、私たちの隊と、ヒュロス隊、オンカイム隊だけでしたからねっ!!ヒュロス隊やオンカイム隊と同じっすよっ!!」
……そういえば、オンカイムは大丈夫なんだろうか?
ヒュロスもあの後どうなったんだろう?
考えれば考える程、気は重くなるが、腹は空いていた。
酒場へ行くと、頭や腕に包帯を巻いている人も多く見られた。
意外にも活気はあり、少し元気を取り戻した気がした。
俺が黙々と飯を食っていると、
「よお、フリート。冴えない顔してどうしたんだ?」
いつも通りの様子でガロンが話しかけて来た。
今は騒ぐ気分じゃなかったため、軽く相槌を打って話を終わらせようとしたが、
「わかるぜ、そりゃ~冒険者に良くある無気力症ってやつだな!俺も何度かなったことあるから分かるぜ!」
無気力症?
確かに、無気力感はある。
少し気になり、どうやったら治るのかを聞いてみると、
「まずは小さい目標を見つけるんだ。いきなり、でけぇ目標だとどうでもよくなっちまうからな!ちなみに俺様の目標は、Bランクになる事だっ!ガッハッハッ!」
小さな目標か。
マイホームは、でかい目標になるのか?
やる気スイッチが入らないせいか、小さな目標すら思いつかない。
だから、仲間たちに何か目標は無いか聞いてみた。
真っ先に答えたのは、クィナ。
「元気になったフリート様と、また依頼を一緒にこなしたいです」
彼女らしいと言えば彼女らしい、確かに小さな目標だ。
次に答えたのは、リリーだった。
「隊長と一緒に、ママに会いに行くですぅ~」
そういえば、母親に会うために冒険者になったと言ってた気がする。
この子は17歳で見た目がとても幼いが、母親はどうなんだろう?
やはり、同じように幼い感じに見えるのだろうか?
ここはかなり気になった。
そしてリリーはと言うと、未だ唸りながら考えている。
やがて何か思いついたのか、
「世界で一番強い冒険者になりたいですっ!!」
…それはとてつもなくスケールの大きい目標だな。
そう口に出しても良かったのだが、面倒な事になりそうなので聞き流しておいた。
すると今度は、
「良い仲間を持ったな。それでフリート、お前はどうなんだ?」
俺の目標か…。
みんなの話を聞いていたら、大小関係なく、各々がどうなりたいかという夢を言ってるだけに思え、俺も思った事をそのまま口にすることにした。
「マイホーム、そう、マイホームが欲しい。できればメイドも何人か欲しいな」
「いいじゃねぇか!自分の城ってのは男のロマンだからなっ!!ガッハッハッ!」
その後、ガロンとどんなマイホームにしたいか、意味もなく具体的に詰めていった。
いつしか俺は元気を取り戻し、前向きになっていた。
ようやく思考力も戻って来たところで、今後何をするかを話し合った。
まずは俺が思いついた事を、軽く伝える。
今まで通り依頼をする、ディザーで出会ったノキュル隊を探す、壊滅したと言われる街を回る。
「ノキュルさん達がどこにいるか分からないから、難しそうっす」
「私は、壊滅した街は見たくないので、今まで通り依頼をこなすのが良いかと」
「ゴーレムを作りたいですぅ~」
……リリー?話し聞いてた??
だが、ゴーレム作りは少し気になるな。
もしリリーがゴーレムを作り、そして操れるなら、リリーを守る戦力にもなる。
ギルドへ行けば、そこらへんの事分かるだろうか?
早速ギルドに向かい、ゴーレムの情報を聞く。
当たり前だが、受付嬢が知っているはずもなかったが、
「奥の方に、モンスターに関する情報の載ってる本がいくつかあるので、そこで調べれば何か分かるかも知れませんね」
そして、本のある部屋へと案内された。
小規模な図書館と言った感じで、部屋の中には冒険者が2名いた。
何を読んでるかは分からないが、かなり真剣な表情だ。
本の数は、どのぐらいだろう?1000以上は確実だろう。
「フリート様、この本を見てくださいっ!」
クィナが興奮気味に一冊の本を持ってきた。
タイトルを見ると"世界の可愛いアニマル図鑑"というものだった。
ゴーレムと無関係過ぎるぅぅぅぅ~~~!!!
「隊長、これなんてどうでしょう?」
次はトゥルニーが本を持ってきた。
俺の直感が99%の確率でゴーレムと無関係な本だと。
それでも俺は優しいからタイトルを見てやった。
"ギャンブルの必勝法"
……こいつの父親はギャンブルで借金まみれになってたはずなのに、これは血筋か?
「隊長~、これ見てぇ~」
最後にリリーが本を持ってきた。
流石にゴーレムの話をした張本人だ、期待していいんだよな??
"楽しい日曜大工"
惜しいっ!!ゴーレムも日曜大工と言えなくも、無くも無いかも知れないっ!!
取り合えず褒めてあげた。
その後も色々探したが、ゴーレム関連の本はあったものの、ゴーレムを作り方に関する本は見つからなかった。
まあ、よくよく考えれば当然だろう。
そんな本や作り方が分かるなら、街の防衛用に誰かが作っているだろうからな。
結局何の収穫も得られないまま、ギルドを後にし、宿屋へと戻って行った。
いざ眠ろうとしたが、またいつ鐘が鳴るかと思うと、中々寝付けなかった。
クィナに膝枕をしてもらい、リリーと手をつなぎ、それでようやく安心して睡魔がやってきて、寝ることが出来た。
…目が覚める。
窓から日の光が入っている事から、昨夜はぐっすり眠れたようだ。
珍しく、膝枕は続いていた。
もしかして、一晩中ずっと起きていたのだろうか?
そう思って体を起こすと、
「あ、起きました?おはようございまーす!」
「………ああ、おはよう」
一体どうやったのかは分からないが、膝枕役がトゥルニーになっていた。
着替えて、ギルドに向かう前に、なぜ膝枕役を変わったかをクィナに問い詰めると、
「だって、不安そうにしているフリート様の頼みは断れなかったんですっ!でもトイレにも行きたかったから、トゥルニーに代わってもらったんですっ!んもぉーーーーっ!!」
そこまで聞くつもりは無かったが、勝手に全部暴露してくれた。
ギルドに着き、依頼の話をすると、
「では、こちらをお願いします」
直ぐに依頼書を受け取り、内容を確認すると、
"ディザーに残っている敵を出来る限り排除して欲しい"という内容だった。
意図せず、ディザーに赴く形となったが、複雑な気持ちになった。
街を滅ぼしたモンスターへの怒り、そして街がどうなってしまったのかという不安。
思い入れのある街だからこその感情だろう。




