第36話 力尽きる時
モンスターの群れが声を上げながら向かって来る。
既に敵の主力は尽きたのか、ブラッドタイガーやブラッドベア、そして数体だけヘルハウンドが混じっている。
Lv30前後の敵であれば、Lv47のカインラスの敵ではない。
「轟雷!」
一振りで何体ものモンスターを倒し、圧倒的な強さで敵の数を減らして行く。
しかし、いくら強くとも四方八方から襲い掛かって来る敵全てに対応できる訳もなく、少しずつだが攻撃を受けているっ!!
それでもリリーの張ったシールドは、未だ破られていないようで、ダメージは食らっていないようだ。
既に30体は倒しているだろうか?
やや息が上がってきているように見える。
敵もそれを察知したのか、攻撃が激しさを増す!
そしてついに、パリンとシールドが割れる音が響いた!
「リリー!」
「し、シールド!…使えないですぅ~」
まさか…MPが尽きたのか?
青ポーションはどうしたのかを聞くと、他の魔法使いに渡してしまったとの事だったっ!!
周りの冒険者に青ポーションを持っている者がいないか聞くも、誰も返事をしない!!
その間も、カインラスの命が少しずつ削られて行くっ!!
「ぬぅぅ~~!爆風霧散」
地に剣を突き立てた瞬間、爆風が合ったかのように、彼を取り囲んでいた敵が一瞬にして吹き飛んで行った!
その一撃だけで30近くの敵が一気に減った!
だが、それが最後の技だったのか、カインラスはその場で崩れるように地に手を付いた。
モンスターの数も終わりが見えて来ているが、それでもまだ50近くはいるだろうか?
俺はカインラスを庇うように立ち、剣を構える。
他の冒険者も同じ気持ちだったのか、残っているBランク、そしてCランクの冒険者だけでなく、正規兵もDランク冒険者も前に出てきた。
既に数だけなら、俺達の方が勝っている!
「突撃~~!!」
正規兵の指揮官と思われる者が号令を出す。
約100名程の兵がモンスターの群れへ攻撃を仕掛けた。
モンスターの雄叫びと、兵の叫び声が入り混じり、どっちが勝っている状況なのかも分からない。
それでも少しずつだがモンスターの数へ減りつつある。
あと少し!
頑張ってくれ!!
声には出さなかったものの、心の中で強く願う。
やがてモンスターも残り数体となったところで、奥もはっきり見えて来た。
そこには3体のモンスターが、未だ動かず様子を見ている。
霧も晴れているため、兵が戦っている敵と、奥にいる3体以外、もう敵の姿はなかった。
「でやぁーー!!」
「グオオオッ!!」
やがて、乱戦の中、最後の一体にとどめを刺す。
これで残りは、奥で様子を伺っている3体のみだっ!!
正直、そのまま逃げ帰ってくれと心の中で思っていたが、そう上手い話はなく、ゆっくりとこちらへ近づいて来た。
その影が何なのかがはっきり見えた。
「レッサーデーモンか…」
なるほどな。
ギリギリまでこっちの戦力を削り、様子を見てたのか。
その敵はゆっくり近づいて来る。
まるで、俺達にもう余力が無いのを知っているかのように、足並みを揃えて近づいてくる。
「ファイアボール!!」
「アイスアロー!!」
Dランク冒険者の魔法使いが前に出て、魔法を飛ばす。
今までクィナの魔法を見ていたから分かる。
小さな火の玉と小さな氷の矢、更に速度も遅い。
案の定、デーモンたちはそれらを手で軽く振り払い、
「グガガガガッ!」
嘲笑っているように聞こえた。
多分、勝利を確信してのものだろう。
「なめるなぁ~~!でやぁぁ!!」
ヒュロスが勢い良く走り出し、敵に斬りかかる!!
最後の力を振り絞った一撃だっただろうが、その剣はデーモンが指で挟み、そのまま剣を握りしめ、
バキッ!!
力任せに剣を折った…。
剣が折られ、心も折れたのか、ヒュロスはその場で力なく膝から崩れ落ちるも、
「ピアシングアロー!!」
「ダブルショット!!」
今度は、Dランクのアーチャー達が矢で応戦する。
他の冒険者も、形振り構わず、飛び道具で攻撃をするが、
「カアアアアアッ!!」
デーモンが大きく叫んだだけで、飛んで来た矢や魔法を消し去った。
心の折れたヒュロスを素通りし、ついに、剣を構えている俺達の目の前までやってきた。
指でクイクイと、攻撃を仕掛けてこいと、余裕を見せてくる。
このまま何もしなくてもやられるっ!!
それなら――!!
そう思い立った刹那、
「フラッシュショット!!」
俺の前の前にいたデーモンが、一歩二歩と後退し、そのまま後ろに、音を立てて倒れた。
よく見ると、頭に矢が刺さっていたっ!!
まさかDランクの攻撃が決まったのか!?
そう思って振り返ると、
「後は任せろ!行くぞっ!!」
2つ先の街の防衛戦に行っていたはずのルグルス隊が、デーモンとの距離を一気に詰め、交戦を始めた!!
「リフレッシュ」
俺がその戦いを見ていると、ルグルス隊のヒーラーが回復をかけてくれるが、疲労が少し和らいだ程度で、スキルが使える程の回復には至らなかった。
再び戦いに目を向ける。
ルグルスとラルバがそれぞれデーモンとタイマンを張り、その後ろからアーチャーが弓矢でけん制している。
なぜ、スキルを使わないのだろうか?
そんな疑問を口にすると、
「防衛戦で力を使い切ってしまい――」
言われれば当たり前の事だった。
依頼である防衛戦に全力を使うのは当たり前。
ゲートで戻って来て、街の外で未だ戦っているのを知り、駆け付けたのだろう。
俺達よりは、まだスタミナが残っているとは言え、決め手がない。
――そうだっ!!
「この人をっ!!」
俺の後ろで地に手を付いているカインラスの回復をお願いした。
ヒーラーは無言で頷き、彼に回復魔法をかけると、
「ふぅ…助かったぞ」
彼はそう言って立ち上がると、周りを見渡す。
状況を把握したのか、
「一閃!!」
瞬く間にデーモンを1体倒し、続けて、
「轟雷っ!!」
残りの1体もあっさり仕留めた。
…もう、敵の気配はなく、姿もない。
本当に長く苦しい戦いが、やっと終わり、緊張から解き放たれたのか、俺はその場で意識を失った。
――2日後。
俺は目を覚ますと、見覚えのある天井があった。
ぼんやりと意識が戻ってきて、ここが宿屋であることを認識する。
「フリート様、大丈夫ですか?」
不安そうな顔でクィナが俺の顔を覗き込んで来る。
だがその顔を見て俺は、彼女が無事だったんだなと安心した。
そんな彼女に、他の者はどうなったかを聞くと、トゥルニーもリリーも無事だと答えてくれた。
その答えに安心し、再び深い眠りに就いた。
……次に目が覚めたのは翌朝だった。
寝っぱなしだったからか、それとも戦いのダメージが残っていたのか、体のあちこちが痛い。
そんな俺に気付いたのか、リリーがヒールをかけてくれたお陰で、すっかり痛みは消えた。
俺は一体どのぐらい寝ていたのかを尋ねると、あの防衛戦から3日過ぎたと聞かされた。
我ながら良く寝たものだ。
ギルドに足を運ぶと、いつもの活気はなく、中はガラガラだった。
ギルド嬢に話かけ、俺が意識を失ってから今まで、何かあったか、他の冒険者や被害はどのぐらいあったかを聞くと、かなりの死傷者が出ていた事を告げられた。
まず死亡が確認されたのは、正規兵が7名、冒険者は2名。
冒険者はCランクが1名、Dランクが1名との事だった。
次に負傷者は、正規兵が74名、冒険者は47名。
その内、重症者は、正規兵が31名、冒険者は14名だった。
「かなりの被害だな。ちなみに俺はどういう扱いなんだ?」
「フリートさんは、負傷扱いとなっています」
この世界での負傷は、回復まで1日以上要する場合や、目に見える傷が残った場合。
重症は教会で治療を受けなければならない程の怪我を負った場合のようだ。
しかし、よりにもよってルグルス隊が他の街の防衛に行ってる時に、敵が来るとはと愚痴ると、
「それが…今回のモンスターによる侵攻は、各地で同時に起きていまして――」
つまり、ルグルス隊の防衛任務と今回の街の防衛が重なたのは、偶然ではない。
誰かが意図的に攻撃を仕掛けている!
そういうことか!?
更に話を聞くと、今回のモンスター侵攻によって、壊滅した街が6か所あったと言う。
それを聞いて、背筋が凍るような感覚に陥った。




