第35話 総力戦
範囲魔法の効果はすっかり切れており、闇の奥から、凄まじい威圧感と殺気を放たれている。
ルーツェンの肩を借りながら、ヒュロスが戻って来るも、
「どうする?」
そんな俺の問いに、剣を構えながら、
「迎え撃つ!」
遠くに獣型の影が見えた。
かなり遠くてはっきりとは分からないが、明らかに今までとはレベルの違う強さだ。
影が大きく跳ねたと思うと、見る見るうちに近づき、
「ウォォォォォン!!!」
でかいっ!!
四本足で立っているにも関わらず、4メートルはあるぞっ!!
だが、手負いか?
本来頭が三つあったと思われる魔獣は、二つ斬り落とされたような断面があり、残った頭も、片目に斬撃を食らった後がある。
これなら倒せるかと思い、アナライズを使うもLv68と出ていた!!
そんな魔獣に対し、ルーツェンが小さく呟く。
「…ケルベロスッ!!」
ケルベロスだと!?
あの地獄の番犬と呼ばれている、俺でも聞いた事のある有名な魔獣だっ!!
だがしかし、なぜ頭が1つしか無いんだ?
そんな疑問を口にする前に、
「私が余計な真似をしなければ、あの時、オンカイム隊長がお前を倒していたのにっ!!」
――こいつが、例の魔物かっ!!
ということは、オンカイムが頭を二つ斬り落とし、あと一歩というところで、ルーツェンを庇い負傷したと言ったところか?
「みんな!奴の尻尾には気を付けてっ!片目を失い死角から攻撃したところ、あの尻尾で反撃を受けたわっ!!」
今、ケルベロスと対峙している者は、ルーツェンの言葉で全てを知っただろう。
だが、どうやって倒す?
敵も片目しか残ってないせいか、こちらを警戒しているようにも思える。
「囲んで倒すぞっ!!」
ヒュロスの案はシンプルだが、敵は一体。
どれだけ強くても、囲んでしまえば――っ!!
ズダンッ!!
「ぐあっ!!」
「がっ!!」
魔物の足が動いたと思った瞬間、オンカイム隊の魔法使いとヒーラーが吹き飛んだっ!!
いや、よく見ると地面もかなり削れている!!
「ヒール!!」
後方からリリーの声が聞こえた。
遠距離回復が使えるのは強みだが、流石にこれは勝てる気がしない…!!
「グランドタイドッ!!」
ヒュロスが叫ぶっ!!
…しかし、何も起きない!!
スタミナ切れかっ!
「くそっ!!気合砲っ!!」
ドンッ!!
最後の力を振り絞ったのか、一瞬ケルベロスの顔が上を向いたが、直ぐに向き直り、
ドガッ!!
「ぐっ!!!」
「ヒュロスッ!!」
「ヒール!!」
吹き飛んでいる彼に、リリーがヒールを使う。
しかし、無傷という訳には行かないだろう。
それだけ目の前の敵は圧倒的なのだっ!!
気付けば俺は、ガタガタと全身を震わせていた。
情けない話だが、恐怖で動けないっ!!
次は俺の番だと、魔獣の目が光ったように見えた。
――やられるっ!!
そう思い目を閉じた瞬間、
「ディバイン・アクセルソード!」
…ズドンッ!!
大きな音がし、目を開けると、ケルベロスの頭が地面に落ちていた。
「自分からとどめを刺されに来るとはな」
ケルベロスの頭の横には、本来いないはずの男が立っていた。
「お、オンカイム!?」
「隊長!?」
負傷していたはずじゃないのか?
いや、しかし、あの圧倒的な敵を、一撃で首を落としたのか?
勝ったと思っていたが、オンカイムはまだ剣を構えたままだった。
「グウウウウウ!!」
ケルベロスにばかり気を取られて、その奥にいる存在に今まで気づかなかった。
一体どれだけの敵がいるんだ!?
「グレーターデーモンッ!!」
ケルベロスと違い、手負いでも無い巨大な悪魔が近づいてくるっ!!
立っているのがやっとの状態の俺達では、あの悪魔を倒せないっ!
今あの敵を倒せるのはオンカイムしかいないっ!!
まさに願うように、オンカイムに賭けていると、
「シャイン・フレアソード!!」
オンカイムとデーモンとの間には、まだ十数メートルはあるが、敵の動きがピタリと止まる。
そして、止まった時間が動き出すように、デーモンの体は上下に分かれ、切り口からは炎が立ち上った。
流石、オンカイムだっ!!
ケルベロスもグレーターデーモンも、一撃で仕留めるなんてっ!!
だがまだ戦いは終わっていないっ!
デーモンの後ろに控えてたモンスターが次々に向かってくるっ!!
オンカイムの横に並んで、一緒に戦おうと近寄ると、彼はそのまま横に倒れた!!
「オンカイムッ!!」
抱き起こそうとした瞬間、手に生暖かいものを感じ、何かと思って目にすると、大量の血がべっとりと付いていた。
よく見ると、オンカイムの体から大量の血が流れていた!!
「リリー!来てくれーー!!」
「はいです~~」
直ぐにヒールをしてもらうも、血は止まらず危険な状態だっ!!
「私が運びます!」
「リリー、ゲートを!」
「はいです~~!ゲート!」
ルーツェンはオンカイムを抱えたまま、ゲートの中へと消えていった。
俺達の危機を知り、無理に駆け付けたのか、それともどこかで見てたのかは分からないが、頼む!!死なないでくれっ!!
「はぁ…はぁ…こ、こっちは倒したぜっ!!」
「残りの敵は…?」
ほとんどの者が満身創痍の中、闇を見つめる。
強さは分からないが、まだ100近くの敵がこっちに向かっている。
恐らく、範囲魔法で近寄れなかったモンスターが、今になって向かってきているのだろう。
こんな時こそ、範囲魔法があればいいのだが、そんなMPを残している魔法使いはいなかった。
Bランクで今戦えそうなのは、俺とトゥルニー、セルシャとヒュロス隊の魔法使いか…。
リリーはCランク冒険者の回復に回り、ヒュロス隊のヒーラーは、ケルベロスの攻撃を受けた者の治療に当たったままだ。
「ウォォォォォン!!!」
この咆哮、まさか…またケルベロスか!?
もし、ケルベロスなら…。
敵の群れを凝視していると、やはり大型の獣の影が出てきた!
それは駆けて来るが、ケルベロス程の威圧感は無い。
そして姿を現したのは、頭が二つのケルベロスにそっくりな魔獣だった。
「オルトロスだっ!」
オルトロス??
ケルベロスの親戚か?
アナライズを使うとLv46と表示されていた。
いつもなら倒せる敵だが、
「くっ!高速剣っ!!」
スカッ!!
スキルを発動させたはずなのに、ただの剣を大振りしただけで終わった…。
スタミナが尽きているっ!!
「隊長下がって!旋風戟っ!」
今度はトゥルニーが前に出て、槍を振るも、ただ槍を横に薙ぎ払っただけだった。
「アイスアロー!!」
ヒュロス隊の魔法使いが氷を飛ばす!
頭に直撃しダメージがあったのか、
「ガオォォォォォォン!!」
激しく暴れ出すっ!!
頭をひとつ潰したっ!!
もう一発食らわせればっ!!
「すまない、MPが尽きた!撤退させてもらうっ!」
ついにBランクの魔法使いが全員いなくなってしまった。
もはやスキルは使えず、武器を振る事しか出来ないが、オンカイムの想いを無駄にしないためにも、最後まで戦い抜いてみせるっ!!
「フリート、待たせたな」
声のする方を振り向くと、ふらふらな状態のヒュロスが俺のところまで来て、剣を構えた。
とても戦える状態でないのは、誰が見ても明らかだった。
仮に目の前のオルトロスを倒しても、まだ100近いモンスターがいる。
ガロン達で倒せるだろうか?
…いや、無理だな。
トロールとヘルハウンドを倒すために力を使い果たした感がある。
「せめて、この敵だけでも道連れにするかっ!」
ヒュロスは死を覚悟して、何かを仕掛けようとしているっ!!
そんな彼の気迫が敵にも届いたのか、魔獣は体を低くし、隙を伺っている様子だ。
「一閃!」
ふと、どこかで聞いた事のあるような声がしたと同時に、オルトロスの脇を何かが通った。
まるで、オンカイムが来た時と同じように、オルトロスは地に伏し、代わりに見覚えのある男が姿を現した。
「立ってるのがやっとのようだな」
「カインラス!!なぜお前が…?」
「気まぐれってやつだな」
俺がカインラスと話をしていると、ヒュロスが知り合いかという感じで聞いて来た。
その問いに、噂の剣豪だと話すと、直ぐに納得し、俺達は安心して地面に座り込んだ。
「あとは任せていいか?」
「ああ」
実に頼もしい返事だ。
だが、いくらカインラスが強くとも、敵はまだ100近くいる。
彼が戦っている間に、少しでも疲労を回復しておかなければっ!!




