第19話 引き際が大事
ドスッ!!
リアギーが最後の一体を剣で突き刺す。
「これで終わりのようだな、フリート隊は大丈夫か?」
「ああ、なんとかな…」
「隊長~、リフレッシュ!」
物陰で待っていたリリーが駆け付け、スタミナを回復してくれた。
外と違い、ダンジョン内という限られた空間だと、リリーのようなヒーラーは戦闘に参加しにくい。
「Cランクになったばかりの割には、しっかり戦えてるじゃねぇか!」
「そうか?」
俺達が倒した敵は、せいぜい5体。
一方ガロン隊は20…いや、30近く。
リアギー隊もかなり倒していたように見えた。
そしてガロンの提案により、小休憩を取り、再び奥へと進む事になった。
一体どこまで続くのだろうか?
そんな事を考えていると、ガロン達は足を止める。
どうやら次の広間のようだ。
「ありゃ~、サキュバスとインキュバスだな」
「ああ、インプもかなりいて厄介だな」
エロいで有名なサキュバスか。
どれどれ、アナライズっと。
エロい格好をしたサキュバスはLv41、ナルシストっぽい感じのインキュバスはLv37。
しかも多数いる。
「やはり、魅了とかやってくるのか?」
「ああ、それだけでなく、幻覚やドレインも使ってきて厄介だ。ここらが潮時だな」
「そうだな。引き返そう」
え?
そんな簡単に帰るのか?
こっちは3隊、まあ俺達は戦力外だとしても、ガロン隊とリアギー隊はレベル的にもいけそうな感じもするが、これがベテランの引き際ってやつか?
「おい、ゲートを出せ、帰るぞ」
「はっ!ゲート!」
ガロンが隊の人に声をかけると、ゲートが開いた。
意外とゲート持ちって多いんだろうか?
ゲートを通ると、ギルド近くに出た。
次々とゲートから仲間たちが出てきて、やはり最後に術者が出て、ゲートは消滅した。
俺がそのヒーラーらしき人物を見てると、
「どうよ、ゲートって魔法、便利だろ?」
「ああ、そうだな。俺たちもよくリリーのゲートを利用している」
「…なにぃ!?Bランクの魔法だぜっ!!いつの間に、そんな小さな子が!?」
驚いた様子でリリーを見るも、何か納得したように頷いて、ギルドの中へを入っていった。
依頼は達成していないと思うが、この場合どうなるんだ?
一応、ガロンの後を付いて行くと、
「俺達の調査は終わった、一応俺たちの調査したところはこんな感じだ」
それだけ言うと、何かの紙を提出。
それを受け取った受付嬢は目を通し、お疲れ様とだけ言い、そこで話は終わった。
「え?依頼終わりなのか?」
「ああ、俺達の分はな」
更に、さっきの紙は一体何かを聞くと、ダンジョンの構造やどんな敵が出たかを、待機していたヒーラーが紙に細かく書いていたという。
「別に、全部を明らかにする必要は無ぇ、どうせダンジョンの構造なんぞ変わっちまうからな」
確かにっ!!
つまり、大体の構造とどのぐらいの強さの敵がいるかが分かれば十分。できれば最深部まで行ければもっと良いが、それはルグルス隊次第との事だった。
なら最初から、ルグルス隊だけで良いじゃないかと聞くと、
「未知のダンジョンは何が起こるか分からないからな。今回のように別れ道があった場合、彼の隊だけでは手間がかかる」
ガロンの代わりにリアギーが、丁寧に教えてくれた。
それに今回分かった事は、Cランクだけでは最深部に到達できないということだ。
それだけでも十分な調査になるとも付け加えてきた。
「まあ、上でルグルス達を待とう」
まるでルグルス隊がいつ戻って来る知ってるかのように彼らは2Fへと上がっていった。
俺たちも続いて上がって行き、適当な席へ着く。
待っている間、ガロンとリアギーが、今までどういう依頼を受けてきて、どういう敵と戦ってきたかを話し始めるが、正直興味が無かった。
それから1時間もしないうちに、ルグルス隊がギルドへ戻ってきた。
遠くから観察していると、報酬を受け取っている。
それを手に、俺達のいるところへやってきて、
「みんなお疲れ、報酬は各隊5万Gずつでいいな」
「――えっ!?」
「どうした?」
「いや、俺達ほとんど役に立ってないというか…」
誰がどう考えても、一番活躍したのはルグルス隊であり、一番役に立っていないのは俺達だ。
とても同額貰うのは気が引けた。
しかし俺の気持ちを汲み取ってか、
「依頼を受け、内容によって活躍できる時とそうでない時がある。お前はその度にか”役に立ってないから”と言って仲間に対して報酬額を変えるのか?」
「いや、それはない!確かに活躍度合いが違っても、仲間がいたから達成できる依頼も多かった」
「そうだろ。だからお前は俺達と同じ額の報酬を受け取る権利がある」
――っ!!
言われてから気づいた。
俺は勝手に劣等感に駆られていたが、ルグルス達は俺たちを『仲間』だと思ってくれていた。
これは彼がBランクだからとかではない、俺たちを対等な仲間と思ってくれてるということだ。
俺は5万Gという報酬を受け取りつつ、いつか彼のような心構えが出来る冒険者になりたいと思った。
俄然やる気が出てきて、受付嬢の元へと行き、
「何か調査依頼とかって無いか?」
さっきのダンジョン調査は、あまりにも不完全燃焼過ぎたため、そう問いかけた。
俺の問いに、受付嬢は調査依頼を探し始め、1枚の依頼書を俺の前に提示してくれた。
「これなんてどうでしょう?」
「どれどれ?”旧神殿に魔物が住み着いた。どんな魔物か調べてきて欲しい。報酬1万G"か」
確か旧神殿は、西のダンジョンより少し奥にあったはずだ。
ここからなら1時間ちょっと、馬車ならその半分の時間で行けるだろう。
今はまだ昼だし、今日中に終わらせることもできるだろう。
馬車に乗り、旧神殿近くへとたどり着いた。
遠目からでも、少し大きめの建物のため、道に迷うことは無かった。
更に近づくと、少し崩れた部分もあるが、神殿としてまだ使えそうに見えた。
「さて、今回はこの中にいる敵を見るだけだ。調査だけで1万Gだから、俺たちの手に負えない敵がいる可能性が高い」
と、持論を述べ、クィナとリリーには待機してもらい、俺とトゥルニーだけで行く事にした。
もしどうしようもなく強い敵がいた場合、俺が声を掛けたら、直ぐにゲートを出し、いつでも逃げれるように指示も出しておいた。
「トゥルニー、間違っても戦おうとするなよ」
「分かってますって」
その神殿は、外からでも広間が見える程、開放的な空間になっていた。
隠れる場所はほとんどないため、側面に回り込み中を見る。
しかし、敵らしい姿は見えない。
「いないな」
「少し入ってみますか?」
彼女の案には少し不安も覚えたが、他に手段が無いため、中へと入っていった。
その刹那、
「オオオオォォォォォーーーッ!!」
怒号が俺の体を貫いた!
この声だけで分かる…俺達の敵う相手じゃないっ!!
「逃げるぞっ!!」
「は、はいっ!」
広間を駆け抜け、神殿を抜けようとするも、後ろから大きな影が迫ってくる!!
まるで巨大な悪魔だ!
アナライズで強さを見ると、Lv63と出ていた!!
「マジかよっ!!」
まともに戦って勝てる相手でもなく、このままでは追いつかれる!!
「ファイアボール!!」
物陰から身を出したクィナが、追っ手に向かって魔法を放った!
しかしその魔法は、巨大な手で簡単に弾かれた。
「リリー!!」
「はいですぅ~!ゲート!」
「トゥルニーは先に行けっ!!疾風剣っ!!」
少しでも足止めをするつもりで放つも、何事も無かったかのように俺に近づき、鋭い爪で攻撃を仕掛けてきたっ!
咄嗟に後ろへ飛ぶも間に合わず、
「ぐあっ!!」
幸い、その攻撃はプレートに当たったため、致命傷にはならなかったものの、大きく後ろへ飛ばされた。
お陰で、ゲートは目の前だっ!!
「みんな、ゲートに入れっ!!」
俺の命令とともに次々とゲートに入り、俺はリリーを拾い上げ、そのままゲートへ飛び込んだ。
直ぐにゲートは閉じ、安堵のため息を吐く。
「…何だあの敵は?」
俺が愚痴るように吐くと、
「恐らくグレーターデーモンです」
と、クィナが答えた。
正真正銘、上位の悪魔だ。
リリーを下ろし、胸元を見る。
買ったばかりのブレストプレートに大きな爪痕が残っていた。
もしこれが無ければ今頃、死んでいたかも知れない。
運が良かっただけだろうか?
改めて引き際の大事さを痛感した。




