表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボスに転生したら取引を持ち掛けられました!    ~転生後に推しが出来てもいいじゃないか!~  作者: 夕月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/81

第七十四話

随分前の事だというのに、目を閉じれば昨日の事のように思い出す“アンシュル”との邂逅。

自らの愚かしさに絶望し続けた末にやっと大切なことに気づくことができた彼は、クレセントとメリンダの未来を願っていた。

いや“アンシュル”だけではない、“アンシュル”のルナフィールの願いでもあった。

それが今、目の前に広がっている。

(宣言通り、ちゃんとこの目で見たぞ。“アンシュル”。)

この光景が自分の目を通して“アンシュル”に届けばいいと願いながら、幸せそうな二人を見守る。

「挙式には是非とも招待いただきたいです。」

「そうだな。盛大に祝ってやらないとな。」

幸せそうな二人と同じぐらい幸せそうなルナに振り返り、噛み締めるように笑いあった。



「やぁ、メリンダ。」

「ごきげんよう、殿下。」

このやり取りもなんだか懐かしい。

私が魔法を禁じられてからは専ら魔法の便箋でのやり取りが主だった。

それは学園に入学しても変わらなかったので、卒業と同時にやっと解禁された夢の庵の美しさに目が緩む。

だが、和んでばかりはいられない。

「殿下。」

「なにかな?」

「クーがメンシス国の第一王位継承者だって知ってましたね?」

「勿論。」

しれっと答えるアンシュルに引っぱたきたい衝動を何とか抑える。

仮に、早い段階でクーの正体を教えられていたとしても私にできる事なんてない。

それどころか小説の展開を危惧してそれとなく距離を置いていたかもしれないのだから、アンシュルの判断はある意味正しいと言える。

だが、それでも事前に教えてほしかった。

別に情報を制限されたことに拗ねているわけではない、私自身の意思を確認したかったからだ。

「…」

「メリンダ。君も知っての通り、アイツは小説において真のラスボスだ。そして、その動機は君。」

「はい。」

「君は、アイツがメリンダを好きになったのは小説の強制力によるものではないかと疑っているんだろう?いや、アイツだけじゃない、自分自身でさえも。」

「おっしゃる通りです。」

これまで小説の強制力というものを感じたことはない。

だが、それはこの先も起こりえないという証明にはならないし、もしかしたら私が気づかないだけで本当は無理矢理捻じ曲げられた事柄があったかもしれない。

あるという証明も、ないという確証もなく、何を信じたらいいか分からなくなる。

この気持ちは、本当に私自身のものなのかと。

「ないよ。」

「え?」

「この世界に、小説の強制力なんてない。だって、この世界が小説よりも先にあったんだから。」

「どういう、ことでしょう…?」

やけにきっぱり言い切るアンシュルに困惑すると、アンシュルは長い昔話を聞かせてくれた。

小説の“アンシュル”と“ルナフィール”との邂逅、封印されていた記憶、そして願い。

どうして“アンシュル”と“ルナフィール”の軌跡が小説となり私達の世界で流通したのかまでは分からなかったが、私の中の疑念を払拭するには十分だった。

この世界は空想の産物じゃない、紛れもない現実。

私の気持ちも、クーの気持ちも、何もかもが第三者によって定められたものではないのだ。

「だから、信じていいんだ。君の想いも、アイツの想いもね。」

「はい…」

優しく微笑んでくれるアンシュルに、目頭が熱くなる。

信じていい、ただそれだけの事でここまで安堵するなんて思いもしなかった。

少し前までは信じること自体に恐怖していたというのに、人生何が起きるか分からないものだと小さく笑う。

「さて、憂いも去ったことだし次の議題に入ろうか!」

「次の議題、ですか?」

「そう。とても重要な議題さ。」

アンシュルの目的も私の目的も概ね達成されているというのに、他に何か議論すべきことがあったかと首をかしげる。

ガルツ国との貿易は滞りなく締結し、オートクチュール公爵家の重要な財源の一つとなっている。

メンシス国との関係も、ルナがアンシュルに嫁ぎ私がクレセントに嫁ぐことで盤石な体制になりつつある。

その他に憂慮すべきことがあるとすれば粛清によって貴族の数が激減したポロス国内についてだが、それはいかに公爵令嬢といえど口出しできる問題ではない。

というか、他国へ嫁ぐことが決まっているのだから余計に干渉できないしそれが分からないアンシュルではない。

ならばアンシュルの言う重要な議題とは一体何なのかと聊か緊張しながらアンシュルを見れば、満面の笑みを浮かべながら告げた。

「お互いの結婚式についてだ。」

「けっ…こん、しき…」

「緊張状態から脱却したというアピールもあるから盛大に執り行うことになるだろうから日程についてちゃんと擦り合わせないとお互いの結婚式に出席できなくなってしまうだろう?君達の結婚式にはルナが是非とも参加したいと言っているし、俺もそう思っているから密な話し合いが必要だろう?」

「そ、そうです…ね?」

「互いに王家との婚姻だからまずは婚約式、それから王妃教育と並行して結婚式の準備に入るから便箋よりもこちらの方がメリットも大きい。こうして話していても現実の肉体はちゃんと休息を取れるんだからな。」

「え、ええ…」

キラキラとして笑顔で未来を語るアンシュルにしどろもどろに返答を返す私。

いや分かってる、アンシュルの言い分は正しい。

気持ちが通じ合ってそれで終わりとなるのは物語だけで、現実にはその先がある。

しかも、クーは、クレセントは隣国の王族だ、自国の王族でもやることが山積みだというのに隣国へ嫁ぐとなればさらにやるべきことは増えるし、それはルナにも言える事。

その合間を縫って互いの結婚式に出席するとなれば、確かに密な情報共有は必須であり重要だ。

だから、今私がすべきことはアンシュルとの話し合いに真摯に打ち込むこと。

分かってる、分かっているのに…

「メリンダ?」

「……」

「…君、もしかして相当初心なのか?」

「……聞かないで、下さいまし…」

茹で上がった脳は思考を拒絶し、唯々顔を赤くさせながら俯くしかできなかった。



(ここにカメラがあればどんなによかったか…この表情をアイツが見たら、どんな無理難題でも快諾しそうだ。)



大々的な婚約発表から二年が経った。

嫁入り準備に、婚約式、王妃教育の仕上げに結婚式の準備と目まぐるしい日々を送ったからかあれから二年も経過した実感はあまりない。

それでも、姿見に映る自分の姿に夢でも幻でもないのだと改めて実感した。

「よくお似合いです、メリンダ様。」

「ありがとう、シア。」

隣国にまでついてきてくれたシアは今でも私の専属侍女としてその優秀さを遺憾なく発揮してくれている。

そんなシアが改心の出来だと言わんばかりに仕上げられた今の私が身に纏うのは純白のウェディングドレス。

メンシス国の伝統的なデザインを採用した特徴的なこのウェディングドレスは、前世の白無垢とウェディングドレスを掛け合わせた見た目で個人的にも大いに気に入っている。

これが普通の夜会とかならば無邪気でいられたが、これから私が挑まなくてはならないのは一世一代の大舞台。

隣国の貴族である私をメンシス国の民は温かく受け入れてくれた。

まぁ、多少のいざこざはあったけれど結果として結果として私という王妃の誕生を喜んでくれている。

その証拠と言わんばかりに、今日という日の準備に貴族だけでなく平民までもが大いに尽力してくれた。

その想いに応えるためにも、下手を打つわけにはいかない。

「…」

「メリンダ様…!」

シアが何か言おうとするが、遮るようにノック音が響く。

いつもなら私も意識を向けただろうけれど、式の順序をおさらいするのに必死過ぎるあまり反応が遅れた。

「緊張してるのか?お嬢。」

「!クー!」

「くくっ、久しぶりだな、その呼び名。」

「クーこそ、いつまで私をお嬢と呼ぶ気なの?」

「お嬢が俺をちゃんと呼んでくれるまで。」

「ちゃんと呼んでるじゃない、クレセント様。」

「ん~?」

背後から聞こえた声に振り返れば、私と同じメンシス国の伝統的なデザインを取り入れた特徴的なタキシードに身を包んだクレセントが立っていた。

タキシードに合わせてセットされた黒髪はクレセントにとても似合っていて、照れ隠しに思わず昔の呼び名で呼んでしまう。

それを知ってか知らずか、クレセントも乗っかるように言うものだからこれから夫婦になるというのに、昔の懐刀と令嬢へと一気に戻ったように感じる。

別にクレセントと夫婦になることが嫌なわけじゃない、むしろ私以外の人と夫婦になんてなって欲しくない。

だけど、そう思えば思うほど身体が熱を持ち、思うように動けなくなる。

我ながら情けないなという感情を隠しながら彼の名を呼べば、いかにも不満ですという表情を浮かべながら私の顔を自分に向けて固定する。

「え、ちょ…クレセント様…?」

「ん?なんだって?」

「いや、あの…なにを…」

「お嬢は人の名前も言えないのか~?」

だんだん近くなる距離に顔が熱くなるのが分かる。

ちゃんと名前を呼んでいるというのに、一体何が不満なのか。

恐らく呼び方が気に食わないと言いたいのだろうがクーという愛称ではなく、クレセント様という儀礼でもないのなら他にどう呼べというのか。

(あれか?前世の恥ずかしい恋人みたいにダーリン?とでも呼べというのか?なんだその拷問は!!結婚前に新婦を殺す気か!!)

混乱と羞恥でじわりと涙が浮かぶ私の顔を、不満げな表情を消したクレセントが食い入るように見つめる。

「やっべ…それは反則だろ…」

「?」

「今からでも中止しにして閉じ込めてぇ…」

「な、何か不穏なこと考えてませんか!?」

一瞬背中に走った悪寒に叫べば、全く気持ちがこもっていない否定の言葉を告げられる。

このままでは本当に式が中止にされかねないと、混乱で使い物にならなかった脳をどうにかフル回転させる。

愛称でも儀礼でもなく、私が羞恥に襲われないクレセントが望む呼び方。

「く…クレセント…」

「!」

「ぷ、プライベートな時だけですよ!!他に示しがつきませんから!!」

「ああ、勿論。」

どうやら正解だったらしく、ご満悦の笑みを浮かべるクレセントに力が抜ける。

きっとこの先も、こんな風に振り回される日々が続くのかもしれない。

でもこの人になら、いや、この人とならそんな日々も喜びに変わるのだろう。

(そう、クレセントと一緒なら……あ…)

「いい感じに緊張が解けたみてぇだな。」

「ええ、おかげさまで。」

先程までの息苦しさが消え、いつもの自分が返ってきたのを自覚する。

どこまでがクレセントの狙いだったのかは分からないが、まんまと踊らされた様で少しだけ悔しい。

でも、それすらも嬉しいと感じてしまうのだから仕方がない。

そう、仕方がないのだ。

「とてもよく似合っていますわ、クレセント。」

「メリンダもな。美しすぎるは罪とはこのことだ。」

「あら、それでは私はこんなにも男前な旦那様を置いて牢に入れられてしまうのかしら?」

「安心しろ、この国の王が愛しい妻をそんな場所に押し込めるわけないだろう?」

「それは頼もしいわ。」

クスクスと笑い合いながら式場へと向かう。

新たな国王と王妃の到来を今か今かと待ちわびる観衆達の声を耳にしながら進む足取りは、想像以上に軽い。

それはきっと、ううん、絶対に隣にこの人がいるから。

「行こうか、メリンダ。」

「ええ、クレセント。」

改めて差し出された腕に自分の手を絡め、私らしく胸を張って式場へと足を踏み入れる。

喜びに沸く歓声を一身に浴びながら目にした光景は、きっと私の生涯で最も輝く記憶として未来永劫刻まれることだろう。

だから─


「汝、クレセント・セレス・メンシス。おのが妻を神の園へ誘われるその時まで生涯をかけて愛し守り続けることを誓いますか?」

「ああ、誓おう。」

「汝、メリンダ・セレス・メンシス。おのが夫を神の園へ誘われるその時まで生涯をかけて愛し支え続けることを誓いますか?」

「はい、誓います。」

「では、誓いのキスを…」

いつまでもこの記憶が色褪せないように、懸命に生きよう。


─だって、私の始まりは生き残りたいという願いだったのだから。



祝福に満ち溢れ、新たな門出を迎える新婦の指にはメンシス国の王族のみが持つ月の雫でできた指輪が輝いている。

幸せそうな二人とそんな二人を祝うために集まった貴族や平民、そして新婦の祖国に誕生した新たな国王と王妃の表情は一様に晴れやかで、喜びに満ち溢れている。

そして、幸福を形にしたようなその光景を見守る影が二つ。

(よかった…)

(本当によかった…)

歓喜に触れる声で呟かれた言葉と共に流れた雫は空に溶け、二つの影は消え去った。


読んでいただきありがとうございました!

次回でついに、最終回を迎えます!

もし良ければブクマや評価をつけていただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ