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ラスボスに転生したら取引を持ち掛けられました!    ~転生後に推しが出来てもいいじゃないか!~  作者: 夕月


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ST ”アンシュル” 3

“アンシュル”が消えた後、星の様に散りばめられた光が声を上げるように輝きだした。

その輝きは目を焼くようなものではなく、旅立ちを祝うように優しい。

この場所の意味を知らない俺だからそう見えるのかもしれないが、少なくとも最後の最後で大切なことに“アンシュル”が気づけたことを否定している様には見えなかった。

(さて、これからどうなるのか。“アンシュル”が残していった情報からすれば俺がアンシュルとして転生するってことになるんだろうけど…よく見かける異世界転生モノってこういう場合、神様とかが出てくるもんじゃないのか?)

眼前にはどこまでも夜空を写した空間が続いていて、出口らしきものは見当たらないので体力が続く限り歩き続けたとしても状況が変わるとは思えない。

かといってずっとここに留まっていても同じこと、ならば動いてみるかと歩き出そうとすれば頭上から感情が見えない、やけに事務的な声が響いた。

《奇跡の終息を確認。代償として一定期間の封印を執行する。》

(は?え、あ、ちょっ!?)

《封印完了ののち、再始動を開始する。》

何のことだと首をかしげる暇もなく、夜空の様だった空間が一瞬にして白く染め上げられナニカが纏わりついてくる。

引きはがそうとするが、ナニカは俺に触れられるのに俺はナニカに触れることができずあっという間に包み込まれてしまう。

何もかもが白に塗りつぶされ、俺が俺としての意識を取り戻す頃には相棒となったメリンダが五年の眠りについた当日だった。



「ここで隠し要素かよ…」

“アンシュル”との邂逅を思い出した俺は重い頭を抱えたまま、ベッドへと倒れこんだ。

幸いなことに封印されたのは“アンシュル”との邂逅の記憶だけだったお陰で、“アンシュル”が一番回避したかった未来から遠ざかっている。

だが、それもメリンダの状況次第で覆る可能性があった。

何故なら、メリンダの安否次第で真のラスボスであるクレセントの動向が決まるからだ。

小説の最終章で全ての謎が明かされ、クレセントが登場し殺戮の限りを尽くす。

その被害は尋常ではなくポロス国は勿論、メンシス国も崩壊の一歩手前まで追い込まれた挙句、地上に悪魔が溢れ大人も子供も関係なく殺されていく。

正しく地獄絵図という言葉が相応しい、いや、それ以外の言葉が見つからないほどの惨状を引き起こした動機は“アンシュル”の記憶で見た通りメリンダの死亡だった。

小説では“アンシュル”とルナが力を合わせてクレセントを討ち取り、二人に討たれたクレセントはあちら側でメリンダと再会することができた所で終わっている。

物語としては悪を滅ぼしてめでたしめでたしでいいとは思うが、それが現実となれば話は別だ。

悪を滅ぼしたとしても崩壊した国や傷ついた街は再生しないし、死んだ者だって蘇ることはない。

災を乗り越えた先にあるのは喜びだけではない、むしろ割合としては悲しみの方が大きいだろう。

加えて小説の“アンシュル”とルナはポロス国の王と王妃だ、ただでさえ“闇夜”の影響が色濃い国の再建だけでも苦労するというのに近隣諸国との関係にも意識を割かねばならない。

そんなのはまっぴらごめんだ。

(少し前の俺はその未来が来ないようにクレセントを懐刀として傍に置きながらそれとなくメリンダを守らせていた。それはある意味“アンシュル”が望んだ未来にも繋がるからいいけど、まさかこんなことになるなんてな…)

小説でネクロマンサーが登場するきっかけはクレセントであり、クレセントがそんな事をした理由はメリンダの死。

だからメリンダが生きていて尚且つ闇ギルドとも繋がりがないこの状況ならネクロマンサーは現れないと高を括っていたし、仮に現れたとしてもクレセントがこちらに居れば対処可能だと考えていた。

しかし、その考え自体がこの状況を生み出す隙になるとは思いもしなかった。

(“アンシュル”的に言うなら考えが浅い愚か者って所か…まぁ間違っちゃいないが。)

はぁー…と溜息を吐きながら勢いよくベッドから飛び起きる。

起きてしまったものは仕方ない、幸いにもメリンダは現状眠りについているだけで命に別状はない。

ならば、今すべきことは後悔に俯くことではなく現状を打破するために動く事。

「ポール、執務室に数日分の仕事と前倒しできる全ての仕事を持ってきてくれ。」

「かしこまりました。」

まずは、動きやすくするために周辺の雑務を片づけることから始めよう。



「はぁ~…」

「大分お疲れの様ですね。」

馬車に揺られながら鈍く痛む頭を抱え、深く息を吐けば向かい側に座るコモンが苦笑いを浮かべる。

数週間自由に動けるように手を付けられる仕事を片っ端から片づけた代償は軽くはなかったが、お陰で自由な時間を想定よりも多く得た。

その時間を使って王宮魔導士団団長であるコモンに連絡を取り、メリンダの診察を取り付けた。

正式な婚約者が決まっていない時期に一人の令嬢の為にそこまでするだなんてとあらぬ疑いがかかりそうだったので表向きは俺の魔法指南という事にしている。

「しかし、殿下がそれほどまでに想われるご令嬢とは一体どのような方なのでしょうか?」

「……ダフィール団長、私はそのことについて誤解だと再三訂正したと記憶しているのだが貴殿の方がよほどお疲れの様だ。今回、私の依頼に応じてくれた報酬として貴殿の研究室に王族用のベッドを運び込もう。かなり大きなものだが、貴殿の研究道具を全て廃棄すれば何とか入るだろう。」

「出過ぎたことを申しました。」

「何を言う、労働に従事した者に対価を支払うのは正当な行為だ。何安心しろ、君の研究道具も資料も蔵書も私が責任をもって処分してあげよう。近隣に迷惑が掛からないように最大の火力を叩き込めば塵も残るまい。」

「伏してお詫び申し上げます。どうか、どうかご容赦を…」

土下座をする勢いで頭を下げるコモン。

魔法や魂学は勿論だがその他に関してもとても有能なこの男は、変な所で察しが悪い。

周りがこうなるのが目に見えていたから隠したという俺の地雷を的確にかつ綺麗に踏み抜くこの男は、他にも似たように地雷を踏み抜き何度か折檻されている。

本人に悪気がないから余計に質が悪いが、今の所本人の有能さに助けられる形で最悪の処罰は免れている。

だが、このままいけば遅かれ早かれ彼はとんでもないやらかしをするかもしれない。

(王族の事情に口を出すだけでも十分だしな、ここいらで一度キツい灸を据えたほうが本人のためだろう。)

「そうか、ならば研究室の閉鎖で手を打とう。そうすれば貴殿も体を労わるだろうからな。」

「で、殿下…」

まさか、王族の厚意をこれ以上無下にはしないよな?という言葉を顔に書きながら笑顔を浮かべれば、コモンは頷くしかない。

捨てられた子犬の様な表情をしているが、自業自得だと反省してもらうしかない。

というか、実際に自業自得だ。

だから、疲労でイラついて八つ当たりとかでは断じてないのだ。



「本日は、我が娘の為にご足労頂き誠に感謝いたします。」

「顔を上げてくれ、公爵。メリンダ嬢はその身をもって禁忌の者から多くを守った英雄だ。そんな彼女をこのままにしておいては王家の名折れだ。」

「過分なお言葉、痛み入ります。」

オートクチュール公爵家に到着すると、さっそくコモンにメリンダを診察させる。

既に国中の医者に診せた後というこのもあるが、夢で呼びかけても反応がなかったことから早々に原因は魂だと判断していた。

何故なら、魂以外の原因で眠り続けているのなら、夢を通じてメリンダに声を届けることは可能だからだ。

「ダフィール、どうだ?」

「…殿下のご推察通り、メリンダ嬢が目覚めない原因は魂にあります。」

「そんなっ…!」

「ですが、ご安心ください。メリンダ嬢の魂は傷ついているのではなく疲弊しきっている状態です。これならば魔法薬で治療可能です。」

「ほ、本当ですがダフィール魔導士団長!?」

「はい。ですが、年単位の時間を要するでしょう。そこだけは、どうかお覚悟ください。」

「ああ、勿論だとも。メリンダが目覚めるのならばいくらでも待とう!」

涙ぐむ公爵と夫人にエリック、そしてルナ。

原因が分からない中で眠り続けるメリンダを見守る日々はきっと想像以上に辛いものだったのだろう。

この表情が見られただけでも、あの山の様な仕事を片づけた甲斐があるというものだ。

「その治療はすぐにでも始められそうか?」

「いくつか材料を調達しなければなりませんので、今日の所は応急処置が精一杯かと思います。」

「わかった。では後程、必要な物資を一覧にしておいてくれ。私の方で手配しよう。」

「そんな!殿下にこれ以上のご迷惑はおかけできません!娘の治療薬の材料は私どもが…」

「先ほども言ったように、ここで手を引いては王家の威信にかかわる。」

「しかし…」

公爵にしてみれば婚約者でもない王子にこれ以上、面倒を見てもらうわけにはいかない事だろう。

中立派だとしても、王家が直々に手を貸したとなれば国王派も貴族派も黙ってはいないだろう。

それに例え秘密裏に事を運んでも、尤もらしい建前をつくったとしても、至る所に目や耳がある貴族社会ではいずれバレてしまうし、バレた後の対処が非常に厄介だ。

(それでもここで引き下がるわけにはいかない。夢で状況が分からない以上、メリンダにもしもの事があればすぐにクレセントが闇落ちしてしまう…一応鍛えてはいるけど、剣でも魔法でもクレセントには敵わないからなぁ…)

全ての記憶を取り戻しより一層庶民感覚が色濃くなってはいるが、この国の王族として生まれた意識もまた俺の中に強く残っている。

だからこそ、国を背負う者として国を戦場にはしたくない。

何より、この世界で初めてできた友人と敵対関係になりたくなかった。

「でしたら、私に考えがあります。」

互いに引き下がれない問答に、先程までメリンダの傍に居たルナが介入してきた。

その表情は先程とは打って変わって真剣そのものであり、何となく策を巡らせている時のメリンダを彷彿とさせる。

「考えとはなんだ?」

「殿下は数年後にガルツ国へと赴かれるとお姉様から聞きました。殿下がガルツ国へ赴かれるための事前調査という名目でお姉様をガルツ国に向かったように偽装するんです。」

「なるほど。そうすればメリンダ嬢に不当な噂が付くこともなく私もここへ赴く大義名分ができる。」

「確かにいい考えではあるが…」

ルナの発案はメリンダの名誉を守るためには最善と言えるが、王家の力を借りるという結果は変わらないことに公爵は難色を示す。

恐らくメリンダの名誉も勿論守りたいだろうが、俺との婚約話が出ただけで自殺未遂を起こした事が公爵を迷わせているのだろう。

ならば、こちらも奥の手を使わせてもらおう。

「公爵。」

「はっ。」

「あまり大きな声では言えないが、メリンダ嬢の治療に手を貸したいのは王家の威信のためだけではないのだ。」

「と、言いますと?」

「実は、とある御仁がメリンダ嬢に恋慕しているのだ。」

「な、なんですと!?」

素っ頓狂な声を上げる公爵にメリンダの傍に居た夫人やエリック、コモンまでもがこちらを向く。

何か不都合なことが起こったのかと心配そうな面々に、何でもないと微笑みながら話を続ける。

「私はその手助けがしたいと思っている。御仁だけの感情ならば静観したが、私の見立てではメリンダ嬢も多少なりとも心を向けているようだったからな。」

「そ、そんな…」

「この事を話せばその御仁は喜んで薬の材料を用意するだろう。」

というより、噛ませないとこちらがどんな報復をされるか分からない。

まだメリンダが眠りについたことは伝えてはいないが、クレセントの事だからとっくに知っているだろう。

爆発する前にガス抜きをさせるには材料集めはうってつけだ。

「その御仁とは、どのような方なのでしょう…?」

「すまん、名は告げられないのだ。だが、身分は私と同じだ。」

「さようですか…」

「お義父様。」

「ルナ…」

「ごめんなさい、私もそのお方の事は存じておりました。」

「お前まで!?」

「殿下のおっしゃる通り、お二人の仲はとても良好に見えましたし何より、とても幸せそうでした。」

「!!」

「お義父様、私からもお願いいたします。どうか、お姉様の為に殿下のご提案をお受けください。」

ずぅーんという効果音がつきそうなほど俯く公爵に、そういえば公爵は子煩悩だと言われていたことを思い出す。

奥の手を使ったつもりだったが愚策だったか?と冷や汗を流しかけた所に、ルナがナイスフォローを入れてくれたお陰でようやく公爵も頷いた。

それからはトントン拍子に話が進み、気が付けばメリンダが眠りについてから二年もの歳月が経過していた。



「態々ご足労いただきありがとうございます、殿下。」

「気にしないでくれ、私が好きでやっていることだ。」

もう何度目かも忘れたオートクチュール公爵家を訪れ、いつものように薬を手渡す。

この日は生憎、公爵も夫人もエリックでさえも出払っていたが王妃教育が板についてきたルナとよく教育された使用人達に手厚くもてなされている。

流石は公爵家だと芳醇な香りを放つ紅茶を一口飲むと、ルナが静かに口を開いた。

「殿下。」

「なんだい?」

「…殿下は、もう一人の自分と邂逅する夢を見たことはありませんか?」

「もう一人の、自分?」

意図が分からず首を傾げれば、ルナはそのまま続けた。

「お姉様が眠りについた日からずっと見るんです。私ではない私が学園で殿下と出会い、恋に落る…その果てに私は実の兄に殺され、世界が滅ぶ夢を…」

「!?」

それは、まごう事無く“アンシュル”の記憶そのものだ。

一体どうしてルナがそのことを知っているのか、いや、どうしてルナがそんな夢を見るのかが分からない。

ルナは俺とは違って転生者ではない。

助けたあの日から、それとなく確認をしてきたから間違いはない。

だとしたら、“アンシュル”がルナにも干渉したのだろうか?

(いや、それは考えづらい。俺と話していた時点で既に限界っぽかったし、何よりあれだけ自分を卑下していた“アンシュル”がルナに接触なんてできないだろうし…何より、ルナはもう一人の自分と言っていた。だとすれば、ルナに干渉したのは“アンシュル”のルナ…小説のルナフィールの事か?)

「その夢で、もう一人の私が言うんです。お兄様はメリンダ様を探して旅に出られた、でもメリンダ様の魂は既に転生してしまっているからこちらに帰ってくるのが遅くなる。お兄様はきっと無理をするだろうから、二人が帰ってきたら今度こそ二人を守って…と…」

「…」

小説のルナフィールの言葉が本当だとしたら、今ここにいるメリンダは小説のメリンダが日本に転生し、そして再びこの世界に転生したという事になる。

確かに時系列的には分からなくもない、メリンダは主要人物の中で最初に退場しているからクレセントが世界を滅ぼすまでに転生していたとなれば辻褄も合う。

とはいえ、転生のスパンが具体的にどのぐらいなのか分からない以上仮説の域を出ないがもしその通りだとしたらメリンダは壮大な魂の旅をしてきたことになる。

しかも、本人の与り知らぬ所で。

「なんとも、数奇なものだ…」

「殿下…ただの夢だと言われればそれまでですが、私はそうとは思えないのです。」

「俺も、そう思うよ。」

「!もしかして、殿下も?」

「ああ。」

それからは夢という前提でもう一人の自分との邂逅を共有した。

不可思議で、非現実的だが、万難を排しても実現させないといけないと心が叫ぶ。

何よりも、大切な二人があんな風に引き裂かれる光景を見たくなかった。

そんな光景を防げるならば、命すら賭けられる。

「それではルナ、いいかな?」

「はい!喜んで尽力させていただきます!」

互いに笑顔を浮かべながら手を取る。

今ここに、クレセントとメリンダの未来を掴み取る協定が結ばれた。

きっと、メリンダがこの事を知れば顔を赤くさせながら大いに狼狽えることだろう。

もしかしたら、そんなことをしなくてもいいだなんて固辞されてしまうかもしれない。

でも、諦めてもらうしかない。

だってメリンダが命を懸けてアンシュルとルナの未来を望むのと同じぐらい、アンシュルとルナもクレセントとメリンダの幸福な未来が見たいのだから。


読んでいただきありがとうございました!

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