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ラスボスに転生したら取引を持ち掛けられました!    ~転生後に推しが出来てもいいじゃないか!~  作者: 夕月


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ST ”アンシュル” 1

「上手くいったようですね。」

「ああ。」

華やかな会場から少し離れたテラスにアンシュルとルナはいた。

時折吹く夜風からさりげなくルナを庇いつつ、視線は中庭へと向いている。

正確には庭師が丹精込めて整えた見事な庭園の中にいる二人に、だが。

2人がいる場所は植垣に隠れて見えない場所で、唯一見ることが出来る場所があるとすれば今アンシュルとルナがいるこのテラスだけ。

つまり、特等席なのだ。

「一時はどうなることかと思ったがな。」

「我が兄ながら無茶をしたものだと私も思います。しかし、あの笑顔を再び見られたと小言を飲み込んでしまう私も大概なのかもしれません。」

「それは俺も同意見だ。」

お互いに優しく微笑みあいながら、やっと想いが同じ方向に向いた二人を見守る。

メリンダがアンシュルとルナの未来を心から、それこそ命を懸けてでも願ったように“アンシュル”と“ルナフィール”もまた、クレセントとメリンダの未来を願っていたのだ。

それこそ、命を懸けて。

「あの時も、こんな夜だったな。」



「どうして…」

廃墟と化した城を背に何かを抱え込みながら項垂れるアンシュル。

彼の周りには国だったものの残骸で満ち溢れていた。

恐らく家だったであろう石辺、おそらく詰め所だったであろう残骸、おそらく広場だったであろう荒野。

何もかもが崩壊したその場所は、数時間前までポロスと呼ばれる国だった。

“闇夜”を鎮め、何とか民との溝を埋めようと奔走していた矢先、ポロス国はメンシス国の襲撃を受けた。

正確に言えばメンシス国の兵だと偽装した軍隊によって。

何故偽装だと分かるのか、その理由は彼が抱え込んでいるもの。

「ルナフィール…」

それは、最愛の人であるルナフィールの亡骸だった。

どうしようもなく未熟で、愚かで、矮小な自分が国に及ぼした不利益は計り知れない。

その事実から逃げたくなったが隣でルナフィールが支えてくれるから、そんな彼女に恥じない人間になりたい、いや、なると誓った。

それがこれまで不幸にしてきた人達へのせめてもの償いだと信じて。

けれど、それはアンシュルの独り善がりに過ぎなかった。



アンシュルが撒いた不幸の種は、もう刈り取ることすらできないほどに成長し、ポロス国を滅ぼす刺客となった。

音もなく現れた軍勢は民を皆殺しにした挙句、城に集まっていた王族を含む貴族を次々に惨殺していった。

すぐに殺すのではなく逃げ場を奪い、右腕、左腕、右足、左足と?いでは放置する。

肢体を奪われた痛みに悶え苦しませる。

そして、苦痛の末に失血死を迎えるのだ。

魔力の少ない平民ならすぐに死を迎えるが、魔力量が多い貴族はそうはいかない。

苦闘の声が夜会を彩る音楽の様に四方八方から響き、一瞬にしてポロス国は地獄と化した。

侵略を食い止めようとすぐに王国騎士団が派遣されたが“闇夜”で疲弊しきった騎士団はすぐに崩壊し、貴族の私兵も次々に殺された。

迫りくる死に恐怖し、逃げようとするがそれを見越していた結界に阻まれ逃げようとした貴族から殺されていく。

状況を打破するために動くアンシュルを嘲笑うかのように侵略者は殺戮を尽くし、ついには生きている者はアンシュルとルナフィールの二人だけとなった。

「何故、どうしてこの国を襲った!?侵略するのなら王侯貴族だけを狙えば済む話だろう!!」

「侵略?笑わせる。やはり、脳内お花畑のおめでたい野郎は考えることが違うな。」

「なにっ…!?」

「これは侵略じゃない、俺から至宝を奪った連中への報復さ。」

「至宝?」

「身に覚えがねぇって顔だな、やっぱお目出度い野郎だ。」

口では愉快そうに語る目の前の男。

だが口調とは真逆にその表情には感情が一切見られない。

返り血に染まった赤い髪と憎悪に染まった黄金の瞳に背筋が冷たくなる。

一体誰がこの男から至宝を奪ったというのか、やりそうな連中を脳内ではじき出してみても既に彼らは死んでいるので真相を知ることはできない。

いや、そもそもそれが違っているとしたら?

今目の前の男は身に覚えがないと言った、つまりこの男の至宝を奪った件について自分が関わっているという事になる。

「俺は何も奪ってなどいない!!」

「ああ、そうかい。」

「っ!!」

こちらの弁解など聞く気はないと言わんばかりに剣を振り下ろされる。

国を離れていた期間で身に着けた剣技でどうにか応戦するが、防ぐのが精一杯だった。

まさに大人と子供という表現がピタリと当て嵌まる攻防はルナフィールの声で一時的に収まる。

「もうおやめ下さい!お兄様!!」

「え?」

「…」

物陰から出てきたルナフィールが叫べば、男はゆっくりと視線をルナフィールに向ける。

返り血に染まりすぎて分からなかったが、よくよく見れば目の前の男はどこかルナフィールに似ていた。

けれど、ルナフィールの兄は数年前に暗殺されたはずだ。

疑問が動揺を呼び、狼狽えるアンシュルとは違ってルナフィールはまっすぐ男を見つめている。

「節穴になったかと思っていたが、まだ見るぐらいはできる様だな。」

「見間違うはずがありません、たった一人の兄なのですから。」

「ほぉ、そのたった一人の兄が後生大事にしていた宝を奪うことに加担した娘が一端の口を聞くのだな。反吐が出る。」

「っ…」

「ルナフィール?あの男が言っているとは一体…?」

「…彼は、私の兄…メンシス国第一王位継承者、クレセント・セレス・メンシスです…」

「メンシス国第一王位継承者!?」

という事はルナフィールも王族という事になる。

一体何が何だか分からず狼狽するアンシュル。

本当に二人が王族なのだとしたらルナフィールはどうしてポロス国で平民などと身分を偽っていたのか、いや今の論点はそこではない。

王族であるクレセントの至宝を奪ったとなればそれはすなわちメンシス国への宣戦布告と同義であり、ポロス国の滅亡を意味している。

先程脳内で思い浮かべた連中を含めそれが分からない馬鹿はポロス国にはいない。

だが実際、クレセントは至宝を奪われた報復に来ている。

自分が知らない場所で何かが起こったのかと考えるアンシュルの思考を読んだようにクレセントが吐き捨てるように告げる。

「大事に大事に守られてきた脳内花畑野郎はお目出度いな。大方、自分が知らない所で何かやった馬鹿がいるとでも考えてるんだろう。」

「っ!」

「図星か、なら教えてやるよ。俺から至宝を奪ったのは、テメェだ。アンシュル・メタト=ポロス。」

「なっ!?」

身に覚えがなさ過ぎて驚愕に声を上げるアンシュルに、クレセントは畳みかけるように続ける。

「俺の至宝、その名はメリンダ・オートクチュール。いくら空っぽ頭のテメェでもその名ぐらいは覚えてるよな?」

「彼女が…?」

「…」

告げられた名は自分のかつての婚約者。

逃げ出したアンシュルだけでなく、ルナフィールの命を狙った彼女をアンシュルは自分の手で殺した。

最愛の人を執拗に狙い、傷つけ、殺そうとした彼女が許せなくて、憎らしくて、ポロス国との繋がりを絶つ如く可能な限り惨たらしく殺した。

あの時は、それが正義だと信じていた。

紆余曲折あり、国に戻ることとなったアンシュルはあの時の自分がどれだけ愚か者だったのかと痛感することとなった。

恋だの愛だのではなく、国という大きな組織の未来をメリンダは見据えていた。

自分の世界に閉じこもり、孤独に酔っていた自分にメリンダは根気よく声をかけ続けてくれた。

恋もいらない、愛もいらない、だからせめて共に国を守る者として隣に立たせてほしいと。

それを、あの時の自分は全て建前だと相手にしなかった。

綺麗ごとを並べたとしてもどうせ相手が欲しているのは地位や権力だけだと斜に構え、誠意を見せることで自分を取り繕っていた。

そんなもの、メリンダは欲していなかったというのに。

「アイツはずっと国の事を考えていた。自分の感情に蓋をして、上に立つ者の責務を果たそうとした。それを他でもねぇ、テメェが踏みにじったんだ。恋だの愛だのに現を抜かすだけに飽き足らず王族としての責務を放棄し、自分勝手に振舞った。王族と平民の恋物語?そんなものは夢と現実の区別が出来ねぇガキが妄想するものだ。そんな幼稚なテメェの尻拭いをするためにアイツがどれだけ踏ん張ったか知ろうともしねぇ。そればかりか人を人とも思っていないような殺し方でアイツを殺した…お前、何がしたかったんだ?」

「っお、おれは…」

「幸せになりたかった?愛する人と一緒になりたかった?ハッ!滑稽すぎて笑いすら出ねぇよ、ガキでももう少しマシな立ち回りをするぞ?ああ、すまん、それすら考えられねぇ脳内花畑だったな。言うだけ無駄とはこの事か。」

「…っ」

「俺の妹だった奴はもうちっと頭があったと思ったんだがな。感染でもしたか?ならさっさと駆除しねぇとな。」

「!?」

「ルナ…っ!!」

感情が全くない冷たい罵倒に身を固くしていたせいで、クレセントの攻撃への反応が一瞬遅れた。

その一瞬でクレセントはアンシュルの隣にいたルナフィールの心臓を剣で正確に貫く。

深く突き刺さった剣を思い切り抜き取れば、ルナフィールの胸から鮮血があふれ出す。

目の前の光景がゆっくりに見えながら懸命に伸ばした手はルナフィールの体に届くことなく、ルナフィールは地に沈んだ。

「ルナフィ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ル!!!」

「即死させてやっただけありがたく思え。」

「貴様っ…!!」

「おーおー、被害者ヅラか?脳内花畑は本当にお目出度いな。」

「ルナフィールはお前の妹なのだろう!?肉親を手にかけるなど正気の沙汰とは思えん!!彼女の事で恨みがあるのなら俺を狙えばいいだろう!!?」

「つくづくお目出度いな。いや、いっそ狂ってるのかもしれねぇな。」

「なに?!」

「どうして俺が、お前を死んで楽にさせてやる必要がある?」

感情がない、というよりも表情がごっそり抜け落ちた様な顔に本能的な恐怖が押し寄せる。

その恐怖は死を目の前にした時に似ていて、知らない内に呼吸が早くなる。

「苦しんで苦しんで死を渇望するほど苦しみぬいて、初めて罪人として認められる。今のテメェは罪人にすらなれねぇ人間以下の獣だ。いや、それじゃあ獣に失礼ってもんか。」

「…っ」

あっははは!と笑うクレセントにアンシュルは何も言えずに唇をかむ。

クレセントはアンシュルを限界まで苦しめるつもりなのだ。

祖国を滅ぼし、最愛の人を目の前で殺し、これから先アンシュルが関わるであろう数多の人間を殺すことで。

クレセントとメリンダがどのような関係だったかは分からないが、クレセントにとってメリンダは自分にとってのルナフィールの様な存在だったのだろう。

今の目の前にいるクレセントはあの時、メリンダを惨たらしく殺した自分なのだ。

「喜べよ、テメェが罪人になれた暁にはアイツと同じように惨たらしく殺してやる。」

「…」

「よかったな、俺が優しくてよ。」

そう言い残すとクレセントはアンシュルの目の前から消えた。

残ったのは国だったものの成れの果てと、温度が消えた最愛の人。

全て自分で蒔いた種だと理解した瞬間、アンシュルは血を吐くほどに泣き叫んだ。




どれほどの時間がたったのか、気を失っていたアンシュルが目を開けると抱えていたルナフィールの体からは蛆が湧き、所々白骨化していた。

美しかった髪も艶を失い、時折吹く風に乗ってどこかへと飛んでいく。

このままここで朽ちてしまえたらどれほど幸福だろう、全てから目を反らし蹲りながらいずれ大地へと帰る時を待ち続ける時間はきっと優しい。

けれど、そんな日は永遠に来ない。

膨大な魔力を持つこの身はそう安々と死ねないし、何よりクレセントがそんなことを許すはずがない。

きっと今もどこかで自分の事を監視し、命が尽きようすれば魔力による延命をするのだろう。

死ぬことも、壊れることも許さないその憎悪はやはりどこか懐かしくて、自分の愚かしさを何度も何度も痛感させる。

(俺は、どうすればいい…)

どれぐらい苦しめば殺すに値するのだろうか、どれぐらい壊れれば死ぬに値するのだろうか。

疲弊した精神はそればかりを考える。

来る日も来る日も考え続け、考える理由すら思い出せなくなってもアンシュルは考え続けた。

そしてルナフィールの体が完全な白骨と成り果てた頃、世界は滅亡した。



(ここは…)

白しかない空間でアンシュルは意識を浮上させるが、瞼を開ける感覚がない。

瞼だけではない、両手も両足も呼吸する感覚さえもなかった。

ついに死ぬことを許されたのかと他人事のように考えるアンシュルの横で、誰かが泣いていた。

(ごめん、なさい…)

『どうして、貴方が謝るの…?』

(すべて、俺のせいだから…愚かな、俺の…)

泣いている誰かに向かって謝罪すれば、困惑した声が返ってくるがアンシュルは気づかない。

自分が愚かなせいで誰かが泣いている、自分がいるせいで誰かが苦しんでいる。

だが今のアンシュルには、謝罪するしかできない。

ここがどこで、どうしてここにいるのかは分からないけれど、自分の愚かしさだけは覚えているから、アンシュルは再度謝罪の言葉を口にする。

『違うわ、貴方は何もしていない。』

(でも、俺は…)

『私が守りきれなかったの、あの人の心を、そして民の心を。』

(心…?)

ようやく視線を向けることが出来た誰かは漆黒の髪に海をそのまま映したかのような透き通る青の瞳を持つ女性だった。

海の水面を思わせる瞳には大粒の涙が溢れ、白の空間へと溶けていく。

『私は我が身可愛さに故郷を捨て、別の場所で眠っていた。逃げたの、全てから…』

(逃げられたのか…)

『ええ、あの人が逃がしてくれたの。とても愛していた、あの場所の礎となれるなら死ぬことだって厭わなかった。あの場所は、私にとって家族も同然だったから。でも、だからこそあの場所にいる事が辛くて仕方なかった。私がいるせいで家族が苦しみ、民から笑顔が消え、かつてあった活気すら失われていく。あの人は私のせいじゃないと言ってくれたけど全ての発端は私…私さえしっかりしていれば、こんなことにはならなかった…』

嘆く女性にアンシュルは自分と似ていると感じた。

アンシュルにとってポロスは大切な故郷であり、尊敬する両親が治める国だ。

いつの日か自分が統治する者となった暁にはより良い国にしようと幼い頃のアンシュルは無邪気に希望を宿らせていた。

だが蓋を開ければ自分はポロス国をより良い国とは真逆の場所へと変えてしまった。

メリンダと邂逅した時もっと言葉を交わしておけば、王族としての責務をもっと理解しておけば、ルナフィールと出会った時もっと慎重に行動していれば…そんなタラレバが次から次へと湧いてくる。

(俺と、同じだ…)

『貴方も?』

(あの時、俺がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかった。俺がもっと、周りの言葉に耳を傾けていればルナフィールもメリンダもクレセントも、あんなことにはならなかった…いや、そもそも俺が俺でなければこんな終わり方には、ならなかった…)

そうだ、どんなにもしもを考えても自分が自分である限り何度でも間違った方向に進んでしまう。

自分の愚かしさは生涯、癒えることのない不治の病なのだ。

(もし、俺ではない俺が俺の人生を歩めたならきっと…きっと、今よりも幸福な未来を掴めたんだろうな…)

それこそ、自分が逆立ちしたって手に入らないような幸福な未来を。

卑屈でも嘲笑でもなく、素直な気持ちでそう告げれば女性は暫し口を閉ざし、徐に開いた。

『…もし、もし本当にそんなことが可能だとしても…そう言える?』

(ああ、言える。)

『貴方が貴方ではなくなってしまうのに?』

(ああ、何度だって言えるね。)

キッパリ言い切ったアンシュルに、女性は手を伸ばす。

すると、それまで全く感覚のなかった体が途端に鮮明になっていく。

ボロボロだった服は元の綺麗な状態に戻り、傷だらけだった肉体は癒え、伸び放題でボサボサだった髪は慣れ親しんだ長さへと戻った。

一体何が起きたのかと体を見回せば、女性が前方を指さす。

そこには、白の空間にポツンと浮かぶ不可思議な色の球体があった。

(これは?)

『別の魂。異なる世界でその生涯を閉じた、貴方と似た波動を持つ魂。』

(もしかして、本当にできるのか?俺じゃない俺を…)

『ええ。でもその代わりに貴方は消滅するわ、輪廻の輪に還る事も出来ない本当の終わりを迎えるの。』

(構わない。)

迷いはなかった。

自分ではない自分ならばきっと、ポロスを、ルナフィールを、メリンダを、クレセントを、救ってくれる。

不幸にすることしかできなかった自分と違って。

『…貴方達は、似ているのね。』

(似ている?誰と?)

『彼女よ。』

(アンシュル!!)

(ルナフィール!!)

女性が身をよけると、ルナフィールが飛び出してきた。

感極まった表情で飛び込んでくるルナフィールをアンシュルが抱き留めれば、もう二度と離さないと言わんばかりに抱きしめられる。

その力が、体温が、匂いが、愛しいという感情を荒々しく引きずり出す。

人は、これほどまでに他者を愛することが出来るとルナフィールに出会ってから知った。

それだけが、自分が自分として生きた人生の中で唯一誇れること。

(ルナフィール、すまない。俺のせいで…)

(いいえ、アンシュル。これは貴方だけの罪ではないわ。私ね、知っていたの。お兄様がメリンダ様の事を大切にしていたことを…私を庇って囮となったお兄様をメリンダ様が助けて下さったの。闇ギルドに関われば自分もタダでは済まないと知っていて尚、メリンダ様はお兄様を見捨てなかった…)

(そうだったのか…)

公爵令嬢とはいえ一介の令嬢がどうやって闇ギルトと繋がりを持ったのか気になっていたが、そういう事だったのかと今更ながら納得する。

(私とアンシュルがポロスを離れている間も、お兄様はメリンダ様を守り続けた。アンシュルが居なくなったことで王侯貴族からの風当たりが強くなったって…)

(…っ)

(疲弊していくメリンダ様を見ていられなくなって闇ギルドを動かした。その事がバレたお兄様はギルトマスターに追われることになって、メリンダ様の傍を一旦離れたの…その時に、お兄様は全てを私に告げたわ。国に戻り、成すべきことを成せと…)

(その時に、俺が彼女を…彼にしてみれば酷い裏切りだな…)

己の愚かさに失笑が漏れるが、それももうじき終わる。

さっきまで何の憂いもなく消えるつもりだったのというのに、目の前にルナフィールが現れた途端に心が悲鳴を上げる。

この苦しみを抱えたまま消えることがせめてもの罪滅ぼしかと、悲鳴を上げる心をそのままにルナフィールに向き直る。

(ルナフィール、俺は自分の罪を贖う。これで許されるとは思っていないが、してしまったことへのせめてもの贖罪がしたいんだ。)

(ええ、アンシュル。私も同じ気持ちよ。あの時、私がもっと声を上げていれば貴方は間違った方向に進まなかった…王侯貴族がどういうものかを知っている私がそれを成さなかったのはまごう事ない私の罪。)

(ルナフィール…)

(だからね、アンシュル。私も一緒に逝くわ。)

そういって笑うルナフィールの笑顔は、どこか晴れやかでとても愛らしい。

愚かさと罪に濡れた自分が最後に見る光景がこの笑顔だなんて贅沢が過ぎると熱くなる目頭を押さえながら、ゆっくりと頷いた。

(ああ、共に逝こう。ルナフィール。)

『話はまとまったようね。』

(はい、女神様。)

後ろで待っていた女性が徐に声を上げる。

覚悟が決まった二人を前に、女性はその瞳に再び涙を湛えるが今度は嗚咽を漏らすことなくまっすぐに二人を見つめる。

『では、始めましょう。』

そして、さざ波を起こすが如く手を叩いた。


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