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ラスボスに転生したら取引を持ち掛けられました!    ~転生後に推しが出来てもいいじゃないか!~  作者: 夕月


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第六十八話

「「無事のご帰還、心よりお喜び申し上げます。殿下。」」

「ああ、何とか無事に戻ったよ。」

オートクチュール公爵家のエントランスでは、メイドや執事達も集まって盛大にアンシュルを出迎えている。


事の発端はアンシュルが帰国したという知らせをオルセン副騎士団長が持ってきたこと。

一瞬、クーが先走りに来たのかと思ったが来訪したのは本物のオルセン副騎士団だと分かると何故か少しだけ残念に思ってしまった。

「そう気を落とさないでくれ、メリンダ嬢。諸々の都合で殿下だけ一足早く帰国することにはなったが、エリックもすぐに帰ってくるからな。」

「は、はい…」

残念がっていたことは見抜かれていたが、どうやら兄が未だ帰らないことに対する事だと勘違いされたようで見当外れな気遣いを受ける。

まぁ、オルセン副騎士団にしてみれば謂れのない誹謗中傷を受ける令嬢が頼りになる兄を恋しがるというのは自然な推察だろう。

私だって相手がオルセン副騎士団でなければそう思っていたかもしれない。

(そもそも、クーは動けないってアンシュルも言ってたじゃない。それを何で残念がる必要が…というか、クーはアンシュルの懐刀なんだから私の所に来る義理はないのよ!!)

自分の中に芽生えた不可解な感情に叩きつけるように正論を叫びながら、アンシュルを出迎えるために精を出す事にする。

「ルナ、今回もお菓子を用意しましょうか。この前、とてもお気に召していらしたし。」

「!はい!」

恐らく草臥れてくるであろうアンシュルを労う為に、ルナを誘導しながら厨房へと向かった。



そうして日々は瞬く間に流れ、今に至る。

エントランスでの盛大な出迎えを受けた後、あの日の様にガゼボへと移動する。

あの日と違うことがあるとすれば、それはアンシュルに追随するのがクーではなくコモンであるという事。

私が五年の眠りから目覚めたばかりの時に会って以来の再会に一抹の懐かしさを覚えつつ、和やかなお茶会が始まる。

当たり障りのない会話から始まり、ルナのお菓子に目を輝かせながら舌鼓を打つアンシュルの様子は、疲れは見えるものの健康そうで一安心する。

ポロス国だけでなくガルツ国でもいざこざがあってはたまったものではないと、紅茶を飲みながら独り言ちる。

「さて、このまま和やかに過ごしたいのは山々なんだがそろそろ本題に入らせてもらおう。」

「例の噂についてですね。」

「ああ。」

ルナのお菓子に下がりきっていた目尻を何とか引き上げたアンシュルが、重々しく口を開く。

デビュタントの時の便箋にも記されてあったが、例の噂をアンシュルはとても遺憾に感じている。

そして、件の上級使用人にも心当たりがあるようだった。

「コモン。」

「はい。」

話の続きをする前にコモンに声をかけると短い詠唱の後、ガゼボに結界が張られた。

魔法についてそこまで精通しているわけではないが、素人目で見てもあの一瞬で構築したのが信じられないほど高度な結界にコモンを連れてきた意味を悟る。

アンシュルはここで、対策会議を開くつもりなのだ。

「まず私の婚約者についてだが、全くの出鱈目だ。シェリンダという令嬢にも会ったことがない。」

「その時点で既に不敬罪と陰謀罪が適用されますね。」

「ああ。加えて、噂を流したと言う上級使用人だが…メリンダ嬢は覚えているかな、その…私に直談判をしようとした件について…」

「直談判?」

「あー…」

言葉を濁しながら口するアンシュルにルナが首を傾げる。

無理もない、何が楽しくて襲われそうになった事件を想い人の前でしなければならないのだろう。

直談判と言う比喩が精一杯の誤魔化しであることはキチンと理解しているが、理解しているからこそ哀れだった。

早い所、話を進めないと疑問を感じたルナが深堀しそうだと判断した私は、早々に頷く。

「ええ、覚えておりますわ。」

「おそらく、それを手引きした奴が犯人だろう。」

「確か、どこかの家の息がかかった者を潜り込ませたと言う話でしたわよね?でも、上級使用人にそんな手が通用するのですか?」

上級使用人とはその名の通り、多くいる使用人達の上に位置する存在でありまたの名を役職持ち。

侍女長や執事長、王宮筆頭などの肩書を持つ彼らは職場のみであるものの、時として公爵レベルの権限を持つ。

その為、選定はとても厳しい。

職務能力は勿論だが、王家に対する忠誠心や自制心、危機管理能力などその辺の騎士なんかよりも求められる能力は高く細かいのだ。

そんな彼らの中に自分の手の者を潜り込ませるのは至難の業、というよりほぼ不可能だ。

「確かに普通なら無理だ。だが、一つだけ方法がある。」

「方法?」

「…ネクロマンサーの力を使ったんだ。」

「「!?」」

予想していなかった存在の名に、ルナ共々驚愕に目を見開く。

けれど、言われてみればあり得ない話ではない。

ネクロマンサーはメンシス国からポロス国の貴族に派遣された存在だ、借り受けたポロス国の貴族がその力を使って上級使用人の中に間者を紛れ込ませることだって十分可能だ。

ただ、そうなるとネクロマンサーはかなり早い段階でポロス国に派遣されていたことになる。

「一体いつからそのような企てを……まさか、内部崩壊を狙っての布石ですか?」

「はっきりとしたことは先は更なる調査をしないと何とも言えないが、私もそうではないかと睨んでる。だが、現状疑わしいのは一人だけ。いくら上級使用人とはいえたった一人で出来ることなどそう多くはないだろう。」

メーバルはポロス国とガルツ国との戦争でポロス国の内部崩壊による勝利のシナリオを描いていた。

あの時私は内通者の貴族の手引きで内部崩壊に持ち込むのだと考えていたが、メーバルが抱き込んだ貴族の中に中枢へ食い込める程有能な者はいなかった。

他の有象無象がいくら声を上げ、持てる力でポロス国を乱そうとしてもそう簡単に崩壊するほどポロス国は弱くない。

だが、もしも中枢に食い込める人物が間者にされていたとしたら?

状況は一変する。

しかし、アンシュルの言う通り一人間者にできたとしても他の有能な者達に捕えられるのがオチだろう。

だとしたら狙いは一体…と考える私達にルナが静かに声を上げる。

「もしかしたら、転魂の秘術を使用したのかもしれません。」

「転魂?」

「メンシス国に伝わる相伝秘術の一つで、魂の一部を対象に植え付けることができます。ネクロマンサーの力がどのようなものかは分かりませんが、お話から推察して魂に干渉もしくは魂そのものを入れ替える力を持っているのであればあり得ない話ではありません。」

「流石はルナだな、私達の話から見抜くとは。」

「お義父様より詮索は禁物と言われているので肯定も否定もしなくて結構です。ただ、お許しいただけるのならば私の推察を述べさせてはいただけませんか。」

「勿論だ。」

「ええ、聞かせて頂戴。ルナ。」

「はい!」

ルナには伝えていないがネクロマンサーはメンシス国から派遣されたいわば、メンシス国の民だ。

ならば、同じメンシス国の民であるルナの見解に何かヒントがあるかもしれない。

「転魂の秘術は先ほどもご説明したとおり魂の一部を対象に植え付けることができるのですが、その魂は自分か近親者の魂でなくてはなりません。そして、その効力は植え付けた魂の量によって変わります。」

「ふむ…人一人の魂が十と仮定すると、相手を意のままに操るにはどの程度の量が必要なんだ?」

「最低でも五は必要になります。」

「となると、傀儡にできるのは最大一人、という事ね。」

「はい。なので、この秘術は専ら情報収集に使用されていたと聞いています。情報を得るだけならば一に満たない量の植え付けで事足りますから。」

なんてコスパがいい秘術だ。

一に満たない量の植え付けで事足りるというなら魂一つから二十人ほどの人間に魂の植え付けが可能になる計算になる。

この秘術を扱える人間が多ければ多いほど情報収集は容易となり、それは連動して戦場での有利を意味する。

高い武力を誇るが故の強さだと思っていたが、メンシス国の真の強さはこの情報収集能力かもしれないと認識を改めた。

「でも、ネクロマンサーの力が魂の偽造を可能にするのであれば傀儡の増産も可能になってしまいます。」

「!なるほど…」

魂の偽造とは上手い言い方だ。

つまり、自分か近親者の魂しか使えない転魂の秘術を使うために第三者の魂を自分か近親者の魂に作り替えてしまおうというのだ。

魂について見識の浅い私やルナではその考えは想像の域を出ないが、ここには魂について詳しい識者がいた。

「どう思う、コモン。」

「そうですね……理論上は可能かと思います。ただ、作り替えるというよりも同調と表現した方が適切かもしれません。」

「どういうことです?」

「魂を液体に例えると分かりやすいかもしれません。液体に何かを加えたとしても液体としての性質は残り続けます。しかし、液体としての性質を変化させるほどの手を加えてしまうと壊れてしまうのです。」

「つまり、魂にも耐久地が存在すると?」

「左様です。しかし、液体に何かを混ぜることは可能です。無色透明な水を黒く染めることが可能であるように、魂の中に別の魂を加えることで染め上げることができる。」

なんて厄介なことだろう、魂の干渉などネクロマンサーにとっては朝飯前だ、そうなれば転魂の秘術で植え付けた魂の欠片が正常な魂を歪める核となる。

そうなると、王宮内には少なくとも二十人が間者にさせられている可能性が出てきた。

「マズイな…ルナ、転魂の秘術を解除する方法はないのか?」

「術者が解除する他に月桂樹の葉を焚けば解除されるはずです。」

「早急に月桂樹の葉を手配しましょう。」

「頼む。これで一先ず王宮内は正常に戻るだろう。次は、こんな茶番を引き起こした連中にどうやって灸を据えるか、だな。」

(わぁーわっるい顔★)

一先ず対応策が判明したことに安堵したのも束の間、綺麗な笑みを真っ黒に染めたアンシュルが楽しそうにしゃべる。

腹に据えかねていることは分かっていたけれど、私の想像以上にご立腹だったようで嬉しくなる。

ルナの伴侶となるのなら、害虫駆除は盛大を行うだけの甲斐性がなくては。

「首謀者については概ね見当がついているが、まだ確証がない。だから、例の上級使用人を使って炙り出そうと思っている。」

「具体的にはどのようになさるのですか?」

「陛下と相談して私の婚約者の内定書を作成してもらうんだ。そして、その内定書の発送経路を上級使用人にそれとなく伝える。」

「なるほど。王宮から正式に通達された内定書を使えば嘘も真実になると考え、それを奪おうと現れる瞬間を狙うんですね。」

「ああ、ただ一つ懸念されるのは広まった噂についてだ。鎮火させるつもりではあるが、下手をすれば君達が秘術を使用した狼藉者にされてしまうかもしれない。」

この件の首謀者は間違いなく貴族派の貴族だ。

保身に走るあまり同胞を切り捨てる事なんて奴らは平気でする、むしろ、同胞を生贄に私を失脚させようとするかもしれないし、ルナの出自が連中にバレてしまえばこの一件すべての責任を擦り付けられてしまうかもしれない。

そうしない為には言い逃れできない明確な罪を詳らかにする必要がある。

(一網打尽にできれば簡単だけど、ここは欲張らないほうが確実ね。そうでなくとも、メーバルの一件で内通した貴族派の貴族派いずれ捕縛されるだろうから…そうなると、今回の首謀者だけに焦点を当てた方がいい…)

貴族派の貴族という大きな括りから、首謀者だけを吊るし上げる方法。

メンシス国の貴族との密談をつつけば良さそうにも思うが、それではメンシス国の貴族に送り付けられただけと言い逃れされてしまうかもしれない。

そもそもここまでの事を仕出かしている人物だ、早々証拠なんて残してはいないだろう。

となれば、残る方法はただ一つ。

「殿下。」

「何かな?」

「私に一つ、策がございます。」

ニヤリと笑みを浮かべた私に、アンシュルも楽し気に笑みを浮かべる。

場所こそ違うが、十一年前のあの日からずっと交わされていたやり取りに不思議な懐かしさを覚える。

ただ一つだけ違うのは、ここにルナもいるという事。

「お姉様、なんだか楽しそう。」

「ああ、私の相棒は頼りになるな。で、どんな策だ?」

黒い笑みのアンシュルと純粋な笑みのルナに脳内で構築した作戦を告げる。

もしここにクーがいたならば、間違いなく今の私を不穏と表現したことだろう。

「慎重に、丁寧に、そして確実に仕留めるために少々時間をかけますが確かな成果をお約束しましょう。」

思いついた悪戯を共有する子供の様に、面白そうに口を開いた。

読んでいただきありがとうございました!

もし良ければブクマや評価をつけていただけると、とても励みになります。

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