表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボスに転生したら取引を持ち掛けられました!    ~転生後に推しが出来てもいいじゃないか!~  作者: 夕月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/58

第二十八話

「それは、一体…」

「ある人物と話をつけるんだ。ただ、それが誰でどんな話をするのかを君に伝えることが出来ない。」

アンシュルの口調からそれが陛下でも王妃でもない事はなんとなくわかった。

そもそも、相手がその二人のどちらかもしくはどちらもであった場合、私に濁す必要がない。

となれば、話を付ける相手は自国の者ではない可能性が高い。

「何故、と聞いてもよろしいでしょうか?」

「そういう約束、としか答えられない。」

王族と言えどアンシュルはまだ七歳、自国ならまだしも他国で対等に扱ってくれる大人が居るとは考えにくい。

それでもアンシュルは七歳児の皮を被った大人だ、交渉の席に付けさえすれば何とかすることはできるだろう。

しかし、それまでの過程が危険だ。

「危険はないのですか?殿下が誰とどのようなお話をされるにしても、殿下は王族です。交渉などと言って寝首を搔く可能性も捨てきれません。」

「ああ、大丈夫、命の危険、というか外傷が発生しそうな危険はない。そこは保証する。」

「そ、そうなのですか?」

「ただまぁ、俺には危険がないだろうけど他に危険がないとは言い切れない。かな?」

「えぇ…?」

一体誰とどんな話をする気だ。

これで万が一にでもアンシュルに危険があるのならどうにか説得して私の計画を承認してもらうのだが、命の危険を含めた怪我をする可能性はないとキッパリ言い切られてしまっている。

もし本当にそういった危険がなく、少しだけ難しい交渉をするだけなのだとしたら私が立案したものより最善だ。

「メリンダ、俺を信じてくれないか?これでも俺、君が魔力欠損に陥ったの結構気にしてるんだ。

「え?」

「君の事だから、俺が古代の迷宮を踏破した事にして交渉を有利に進めようとか考えていたんだろ?つまり俺の為。」

「あー…」

違う?と少し凄みが感じられる笑顔で問い詰められ、反射的に顔を背けてしまう。

確かにその通りなのだが、改めて言われると居た堪れない。

と言うか半分は自分自身の好奇心に由来するものなので全てが全てアンシュルの為とも言い切れない。

「まぁ、だいたいそう言えるんじゃないですかね?」

「俺の為に君が死にかける事態になった、君の中の俺ってそれを聞いて平然と未来を思い浮かべられるほど非情な奴?」

「!」

王族は自身の感情を表に出さないように、幼い頃から訓練を受ける。

それを知っていたのに、いつもと変わらないアンシュルに疑問を持たなかった。

私がアンシュルの立場なら落ち込むか、憤りを感じた事だろう。

これは、反論できない。

「すみません…」

「謝って欲しいわけじゃない。君の真意も、アイツからの報告でわざと危険を犯したわけじゃないというのも分かっている。だからこそ、今度は俺を信じて欲しい。」

「そんなことを言われたら、顔く以外ないじゃないですか。」

「それでいいんだよ。」

私の言葉に満足したのか、アンシュルは凄みのある笑みを引っ込め彼らしい笑顔を浮かべる。

アンシュルがここまで言うのなら、今度は私が信じて待とう。

彼の無事を祈りながら。


*


そう決めてから数週間が経過した。

暇だ、正確に言えば手持ち無沙汰ともいえる。

これまでいかにアンシュルに功績を立てさせ、交渉を有利に進ませるかに集中していたのでそれがない現状で何をしたらいいのかわからなくなってしまったのだ。

しかも、迷宮の一件で屋敷から出ることを禁じられているので淑女修行としてお茶会に行くこともできない。

今は家庭教師の授業を受けつつ読書で無聊を宥めているが、書庫の本も殆ど読みつくしてしまったのでそれもいつまで持つか自分でもわからない。

「ねぇ、レイ」

「ダメです。」

「まだ何も言ってないわよ!?」

「どうせ、暗器の訓練を再開したいというのでしょう? 魔力欠損から回復したとはいえ先日、魔力を使用しての調合をしたばかりではありませんか。」

「もう大丈夫よ!!」

「では、シアさんに判断してもらいましょう。」

「シア…!」

「お嬢様……どうかご辛抱を。」

一種の望みをかけて振り返ってみたものの、今回のシアはレイ陣営らしく首を振られてしまう。

娯楽らしい娯楽もなくやる事もない単調な日々、そんな中を足掻く様に少ない趣味の一つであるお菓子作りに興じるか、はたまたこれをある意味新鮮な体験と諦めて受け入れるべきかと考えた所に、レイの言葉が蘇った。


『どうせ、暗器の訓練を再開したいというのでしょう?魔力欠損から回復したとはいえ先日、魔力を使用しての調合をしたばかりではありませんか。』


そうだ!!調合があるじゃないか!!

モノづくり好きだったこともあってか、私は小説の内容以上に小説内で登場する魔道具やらなんやらのレシピをよく覚えていた。

流石に高難易度と言われている物は作り方もそうだが素材を集めること自体が難しいので、まだ簡単で尚且つ手元に材料があるものを調合してみることにした。

(暇つぶしって理由が大半だけど、もしかしたら状況にピッタリハマる神アイテムに化けるかもしれないからね!)

「お嬢様?」

「大丈夫よ!屋敷からは出ないし、鍛錬もしないから!」

「とても良い笑顔なのに不安を感じるのは何故なんでしょうね…」


*


「で、思いっきり調合に明け暮れていたと。」

「はい…」

軽い気持ちで始めた調合は予想以上に楽しかった。

前世では空想の産物でしかなかった物が今は現実で再現可能なのだ、モノづくり好きとしては好奇心が刺激されて仕方ない。

しかも好きなものに熱中する際に一番枯渇する時間が潤沢にあるのだ、のめり込むなと言う方が無茶な話だ。

「確かに後々役に立ちそうな物があったように思うが君、魔力欠損でそうなったの忘れたわけじゃないよな?」

「勿論でございます…」

「その様子だと、既にこってり絞られた後と言う感じかな?」

「おっしゃる通りです…」

調合にのめり込み過ぎて魔力を使いすぎた瞬間、レイのチョップが脳天に直撃したのだ。

その威力は凄まじく、夢の中のはずなのに若干ヒリヒリする。

ついでとばかりに家族にもチクられてそれはもう、こってりしっかり絞られたのだ。

「おかげで、調合も取り上げられてしまいました…」

「当然だろうな、俺でもそうする。」

「うぅ…」

「はぁ…仕方ない。本当はもう少し楽しみたかったが、それで君に倒れられたら元も子もない。」

「はい?」

やれやれと肩をすくめるアンシュルだが、その文脈から何を意図しているのかは分からない。

察するに、アンシュルにとっての楽しみを代償にすれば私に対して何かが起こるのだろう。

「メリンダ、明日はよく昼寝をしておいてくれ。」

「ひ、昼寝ですか?」

「ああ。夜、起きていられるようにね。」

だから、明日の会議は休みだと続けたアンシュルの顔は愉悦に染まっていて私に対して起こる何かに対して一抹の不安を抱かせた。



「お嬢様、そろそろ夕食のお時間でございます。」

「ん~…ありがと、しあ…」

翌日、アンシュルの言葉通り私はかなり長めの昼寝をした。

周りには昨日の調合で影響を受けたのだろうと心配そうにされたが、大人しく寝ていれば特に干渉を受けることはなかった。

確かに五歳児が死にかけたと聞けば過保護気味になるのも分かるが、私としてはもう影響は微塵も感じていないのでもう少しほっといて欲しいと言うのが本音なのだがそれを言えば最後、お兄様が暴走する未来しか見えない。

「よく寝れたかい?メリンダ。」

「はい。もうぐっすりです。」

「それはいいことだ、魔力の回復には十分な休養が一番だからね。メリンダが好奇心旺盛なのは分かるけれど、だからと言って何でもかんでも手を出していたらメリンダの方が参ってしまう。それをよく考えないといけないよ。」

「はい、お兄様。」

良い子のお返事をすれば満足そうに頷くお兄様。

ここで少しでも反論すればさらに小言が多くなることは既に体験済みなのだ。

そして、それでも反論すれば自分がいかに妹を大切に想っているのかを延々と聞かされる羽目になる。

妹語りに少しでも皮肉や嫌味があればまだマシなのかもしれないと思う程、お兄様の妹語りは純度100%の好意から成り立っていて聞いている方が羞恥で悶えるのだ。

極めつけは両親もそれに乗っかる。

やめて、私のライフはもう0よ。

「エリック、それぐらいにしておきなさい。」

「魔力の回復にはきちんと栄養を取る事も大切よ。」

「そうですね。」

「はい。」

助け舟のつもりなのか、はたまた言葉通りの意味か、お父様とお母様の言葉と共に夕食が始まる。

料理長が作ってくれる料理は前世の物とはやはり違うがとても美味しい。

美味しいからこそ少しだけ残念に思う。

(屋敷に軟禁されて殆ど運動をしないからお腹があまり空かないのよね…でもここで残したり少なくしてと言おうものなら…)

脳裏に過る家族の姿に少しだけ背筋を泡立たせながら、何とか夕食を腹に収めた。



「お休みなさいませ、お嬢様。」

「ええ、お休みシア。」

夕食後、重いお腹を抱えながら就寝準備を整えるとベッドに潜り込み退室するシアを見送る。

アンシュルは夜という漠然とした時間しか指定しなかったので、一体何が起きるのか全く予想がつかない。

それでも、愉悦に染まった顔をしたアンシュルが並大抵のことで済ませるとも思えない。

(魔法で何か送ってくるつもりなのかしら…もしかして娯楽とは言っていないから仕事を手伝わせるための書類とかだったらどうしよう…まぁ、この際それでもいいぐらい暇を持て余してはいるけれど…)

どうせなら娯楽がいいと天井を見ながらぼーっとしていると、コツンという音が聞こえた。

それはあの夜、レイが訪ねてきた時によく似ていてまさかと言う思いのままテラスの窓を開けた。

だがそこに居たのは、レイではなかった。

「!?」

「しぃー……俺だよ、メリンダ嬢。」

「オルセン副騎士団長…いえ、貴方、クーね?」

「くくっ、やっぱすぐわかるか。」

全身黒尽くめの人物に警戒と緊張で咄嗟に臨戦態勢を取るが、私にだけ見えるように取られたフードの下にはオルセン副騎士団長の顔があった。

普通ならオルセン副騎士団長が人目を盗んで現れたと思うだろうが、すぐに違うと分かった。

この人は、共に迷宮を潜り抜けた凄腕さんことクーであると。

「殿下の差し金ね。」

「ああ。メリンダ嬢があまりにも退屈で自殺未遂をしているから止めてくれってな。」

「そんなことしていません!!」

「魔力欠損起こしたくせに魔力調合やった奴が言えたセリフかよ。」

「確かにそれで死にかけたのは理解しているけれど、もう魔力は回復したわ!皆が過保護すぎるのよ!」

「過保護ねぇ…」

「なによ。」

「五歳児が死にかけたってだけでも衝撃だが、あんた分かってるか?王子様と会ってから淑女修行に打ち込むだけでなく、各方面への人脈と地盤作り、そして新たな魔道具の開発と護身術の習得、何かあると思うのが普通だと思うぜ?」

「?」

クーが羅列したのはここ二年の内に私が行ってきたことだが、魔道具の開発って何のことだろうか。

だが論点はそこではない、それを聞いたうえで何かあると思うとはどういう事だろうか。

オートクチュール公爵家が国王派か貴族派だったのなら、何か企んでいるのではとも考えられるが中立派ではその可能性も低い。

本当に分からず首を傾げると、大げさなほど大きなため息を吐かれた。

「あのな、普通の子供はここまでしねぇんだよ。淑女修行ぐらいはするかもしれないが人脈や地盤作りは本来デビュタントを終えてからやるもんだし、魔道具の開発や護身術に至っては身の危険を感じない限り発想すらしない。」

「そう、なの?」

「そうだ。そこへ実際に死にかける事態に発展したんだ、本当にただの事故だと知っている連中以外にとっちゃあんたが何かに狙われてるか、命の危機を感じていると勘繰られてもおかしくねぇよ。」

「そこまで?!」

「自分の年齢と今の情勢を考えれば、な。」

予想外過ぎる言葉に開いた口が塞がらない。

ちょっと頑張り過ぎたね程度のものだとばかり考えていたが、事態は私が考えるよりかなり大きくなってしまっているらしい。

それだけ踏破者と言うのは影響力が強いのか、それともそれだけメンシス国との関係は悪化しているのか。

「少しは自覚できたか?」

予想より大事になっている事は分かったけれど、正直実感がないわ。確かに普通の五歳児令嬢の枠組みから外れているかもしれないけれど命の危険だとかそんな物騒な背景に結び付けられないもの。」

「まぁ、命の危険とかは魔力欠損になったことが一番の原因だろうがな。それがなくとも、 未来は変わらなかったと思うぜ?」

「!」

“未来は変わらない”

何気ないクーの言葉がに耳に着いた。

分かっている、クーにそんなつもりはない事は。

だけど、一番言われたくない言葉だ。

私はアンシュルとは違う、アンシュルの目的は最終的に小説を同じことだけど私は結末そのものを変えようとしている。

本当に変えられるかなんてわからない、だけど死にたくないから動くしかない。

あんな、あんな無残な死に方なんて、したくない。

「…ぉ…ぃ……おい!」

「!…ぁ…」

「大丈夫か?……悪い、俺が何か言っちまったか?」

「だ、大丈夫…よ…」

急に黙った私を心配したのか、クーが肩を掴んで顔を覗き込んでくる。

収き込んだ私の顔が予想よりも酷いものだったのだろう、眉を下げどこか申し訳なさそうにするクーを安心させたいのにうまく取りえなかった。

「あんたと王子様が何に怯えているのかは知らねぇし、言いたくねぇなら聞かねぇ。だがな、少なくとも死ぬことはない。」

「クー…」

「それだけは、確かだ。」

ハッキリ言い切るクーに何故か心の底から安堵する自分がいる。

恐らくアンシュルはクーに何も言っていない、それなのにクーは私とアンシュルの根底にある怯えを見抜いていた。

結末を変えられず、無残に死ぬかもしれないという恐怖。

説得にに失敗し、 “闇夜”を発生させてしまうかもしれない恐怖。

事情を知らないくせにどうして察してしまうのかと、少しだけ悔しいような気持ちもするがそれ以上にこんな言葉一つで安堵する自分が腹立たしい。

「頼りにしているわ。」

「おう。」

「必ず、殿下をお守りしてね。」

「あんたもだ。」

「ふふっ。クーは殿下の懐刀でしょう?」

「開係ないね。」

ニヤリと自信満々に笑うクーに思わず笑みが零れる。

それは、ここ数日でようやく出せた笑顔のような気がした。

「さて、王子様の言いつけを守れずメリンダ嬢を落ち込ませた埋め合わせをしねぇとな。」

「あら、何をしてくれるの?」

「とっておきだ」

「きゃぁ!?」

お道化た様な口調に戻ったクーに乗っかるように言葉を告げた瞬間、抱えあげられた。

それは国境から戻る際と同じ格好で、思わず頬が熱くなる。

いや、それだけではない。

あの一瞬で、クーが身に着けていた黒い布を一枚脱いで旅人がするようなローブの様に私へ巻き付けたのだ。

なんという早業、というかこのためにそんな布塗れだったのか。

「ちょっ、クー!?」

「しっかり掴まってろよ!」

何をするんだという言葉を言う前に、あろうことかクーはテラスから飛び降りた。

それなりの高さがあるテラスから飛び降りるという凶行に声なき恋鳴を上げながらクーにしがみつく。

だが、予想した衝撃は一向に来ることはなく代わりに頬を風が撫でる。

「目、開けてみな。」

「! わぁあ!!」

恐怖から閉じていた目を恐る恐る開ければ、そこには満点の星空があった。

どんな魔法を使ったのか、クーは空中を走っていたのだ。

いつもならばその方法に好奇心が刺激され、質問を繰り出す私だが今は目の前の星々に目を奪われそれどころではない。

前世とは違う赤や緑に輝く星は少し不思議に感じられる、だがその美しさは変わらない。

特に、漆黒の夜空を星を携えて輝く月の輝きは格別で思わず手を伸ばせば、クーが吐息で微笑んだ。

「気に入ったか?」

「ええ!とっても!」

「そりゃあ何よりだ。だが、まだ夜は長い。満足するには早いぜ。」

「それは楽しみだわ!!」

ニヤリと笑うターに胸がときめく。

退屈に凝り固まった私を、どう砕いてくれるのだろうかと頬を染めながら楽し気に笑った。

読んでいただきありがとうございました!

もし良ければブクマや評価をつけていただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ