三席
子供が輪になって踊ります! 時に手をつなぎ、時に腰をつかみ!
フォーク姉はシャンシャンパンパン、タンバリンを奏でながら弾けるように踊りました。
ハーモ兄の動きは……まるでメトロノーム! リズムは完璧に合っています。ですが、直立不動のまま左右への振れ幅が大きく、どこか非人間的でした。
デオン夫妻は目を細めて子供たちの踊るさまを見ながら、阿吽の呼吸で二重奏を奏でます。
そしてポメロは……。
「くっ……」
悔しげに顔を歪めながらギターを奏でていました。曲は『ムカつくあいつの歌』。そのCパートを。
Cパートのみを!
「ふふん」
エピタフが取ったのは、勝利宣言を奥ゆかしく発する伝統派しぐさ! その手に握るのはウッドブロック! 適当に合わせて叩くだけの簡単なお仕事です。
子供が楽しく踊れりゃそれでいいよね、と言わんばかりの、ゆるーい合奏でした。
「でもでもだって。Cパートだけなんて……」
なんと、エピタフは【ムカつく】という感情が剥き出しのABパートをばっさりとカット! 残された【羞恥心】のもじもじ具合を夕方の空の雰囲気にかぶせて、見事なフォークアレンジに成功させたのです。発想の勝利でした!
「お前が作曲の際にやっていることなのだぞ? テーマを絞り、贅肉を切り捨てる。つまりこれは、お前がヒントをくれたということだな、ポメロ。ご配慮痛み入るよ」
雅言葉! 翻訳すれば「墓穴掘ってやんの、アーホ!」ですね。
「くうぅ……」
転んだ上に石を投げ込まれた格好のポメロが、小さく唸って投了宣言! それも致し方ありません。
男女交互に手を握った子供たちが、曲のもじもじした空気に当てられながら、嬉し恥ずかしダンシング。あるいは何人かのマセたお子様は、このもじもじから何かに目覚めてしまったかもしれませぬ。
フォークダンス企画は大成功!
「くうぅ……」
「ふふん!」
───── ♬ ─────
伝統派、音楽家養成所、第一ピアノ実習室。
モトロードの個人レッスンです。エピタフのピアノの澄み渡る音を聞き、モトロードはエピタフがスランプを抜けたのだと実感しました。
「我が弟子エピタフ。ほどよい気分転換ができたようですね」
とても澄んだ目で、解放感を感じる物腰で、師匠モトロードはエピタフに問いました。
「はい我が師匠モトロード。公園で子供たちを相手に、カントリー・ダンスなどを」
「成程、それは興味深い。音楽の発祥には諸説ありますが、最有力の説は土着の民謡踊りですからね。伝統派の思想からは漏れてはいますが、それはそれとして大先輩です。敬意を払って接したいものですね」
余裕を感じる笑み! 先般のトチ狂った暴走とは大違いです。貫禄!
「その、いえ。その。創作ダンスです」
「そうさく……」
モトロードの声に、ふと、固いものが混じりました。
「我が弟子エピタフよ。私は以前、インストラクションを与えましたね。学ぶべきにも順序はあると。君はまずピアノの演奏を極め、しかる後に創造の深淵を覗いてもらうと」
「教えを破り、申し訳ございません」
「あの『熱情』の演奏しかり、君はどうやら先走ってしまう性質のようですね。若さゆえ仕方ない部分もありますが、ここは師匠を信じて教えに従ってくれませんか?」
エピタフはこれまでこの尊敬する師匠の教えに逆らったことなどありませんでした。しかしまた、師匠の教えの下で、いや、伝統派の指導の中で。ただの一度も、楽しさを感じたことなどありませんでした。
彼は最近までそれが当たり前だと思っていました。正しい音楽こそが良い音楽。そう信じていました。ですがポメロと出会い、反発と共感を覚え、友情を育み、影響を受ける内に、本来音楽が持っていた楽しさに気づいてしまったのです。覚えてしまったのです。
故にエピタフは、初めて沈黙というしぐさで以て、師匠の教えに逆らいました。
モトロードは震えながらも従わぬ愛弟子を見て、さらに言葉を重ねます。熱く、慈愛と責任感に満ちた言葉を。伝統派の模範解答を。正しいあり方を。
「私は必ず我が弟子を伝統の高みへと連れて行きます。いずれ正しい作曲技法も伝授しましょう。今の君にはもどかしいかもしれませんが、その為のロードマップは私の中に……いえ、伝統派という名のシステムに組み込まれているのですから。長年の実績と信頼を伴って」
優しい笑みでした。
「はい、師匠」
そこまで言われては、そこまで買われては、エピタフにこの師匠を裏切ることは出来ません。恩。信頼。愛情。沢山の想いをモトロードに抱いています。
だから、口にできません。
「音楽を楽しみました」と。
だから、聞けません。
「編曲作法を教えてください」と。
「君なら出来ます。いつか私を超えて、音楽のさらなる高みに。継承と進化。それが派閥の意義であり、音楽神への貢献なのです」
机の下の膝の上で、凝縮された森の如き季節外れの野菜を撫でながら、モトロードは結論を結びます。
「ほどよく。気分転換はその程度で十分なのですよ」




