第158話
白凪学園生徒会。
それはこのエリート令嬢ひしめく学園の中でも、特に優秀な者のみで構成される組織。とはいえ、優秀であれば誰でもというわけではない。能力だけではなく、人格や人望なども重視される。
生徒会役員の選定は会長によって行われ、また会長の選出は前生徒会長の指名によって行われる。しかし、故に白凪学園生徒会は不可侵。外部の圧力――――例えば有力者の娘であるからといって親のゴリ押しがまかり通るだとか、そういったことが一切ない。
生徒の中にはやたらと選民意識の強い者や、或いは他者を見下し悦に入るような者が少ないながらも存在する。だが、そういった者達が生徒会役員に選ばれることはほぼ無いと言っていい。仮にそういった不適格者が役員となってしまった場合でも、強制解任の為の手段がいくつか用意されている――実際に解任された前例は無いが――からだ。
要するに白凪学園生徒会は、外部の権力争いなどからは独立した厳正な組織だということだ。そんな白凪学園生徒会だが、生徒達からの評判は非常に良い。特に今期――――現生徒会の評判は歴代でもトップクラスである。
「と、いったところで認識は合っていますか?」
「概ね問題ないわ。ま、評判といってもほとんどは生徒会メンバーの人気によるものよ。そもそも生徒会の具体的な活動内容を知っている一般生徒なんて、白凪学園に限らずほとんど居ないもの」
「そういうものですか」
「そういうものよ」
凪の専属メイドである織羽は、学園の基本情報も一応は頭の中に入れてある。しかし所詮知識は知識、情報は情報。往々にして、見て聞いた実態とは異なるものだ。おまけに織羽はまともに学園へ通ったことがなく、『生徒会』というものを実体験として知らない。
故に認識に齟齬がないか、念の為凪の確認を取ったというわけだ。
「生徒会長さんって、お嬢様のご親戚なんでしたっけ」
「ええ。お母様の弟の娘――――私にとっては従姉にあたるわ。あまり会ったことはないけれど」
「そうなんですか? 親戚というくらいですし、お正月に集まったりはしないんですか?」
「しないわよ。昔はともかく今は…………強いて言うなら観桜会くらいかしら?」
正月や盆といえば、親戚同士で集まる家庭も多いことだろう。
しかしそれはあくまでも一般家庭での話であり、かつ近年は時流なのか、そういった慣習的なイベントも減りつつある。
そんな世間の例に漏れず、というわけでもないが、ちょっとした休みに親戚と集まるなどというイベントは九奈白家でも滅多にない。何しろ風音の実家は国内有数の名家であり、そう気軽に遊びに行けるような家ではないのだから。いざ集まるとなればそれこそ、観桜会などという大変大仰で金持ちらしい、実にスケールの大きなイベントとなってしまう。
「というわけで、私も会うのは久しぶりなのよ。学年も違うし、接点もないもの」
「そんな接点の薄い親戚がお嬢様を呼び出した、と…………事件の匂いがしますね」
「しないわよ。十中八九、『秋麗祭』についての話でしょ。あまり過剰にクラス予算を追加するなとか、そういう類の話じゃないかしら」
凪の成績は当然ながら優秀で、素行にも一切問題はない。
ほとんど接点のない親戚に呼び出される理由など、時期を考えれば秋麗祭関連の話くらいしかないだろう。
或いは――――。
「あとは貴女が裏でこそこそと何かをしていて、それがバレた――――とかかしら?」
「……ななな、何もしてませんけど!?」
「…………ホントかしらね」
「何もしてませんけど!」
そんな会話をしながら広々とした廊下を歩くことしばらく、二人はいよいよ生徒会室の前に到着する。
巨大な両開きの扉は黒塗りで、如何にも『規律を重んじてますよ』といった雰囲気を醸し出していた。
「…………どこぞの自営業団体の事務所でしょうか?」
「言わんとしていることは分かるけれど。ほら、馬鹿なこと言ってないで入るわよ」
胡乱げな目を扉へ向ける織羽を差し置き、凪が手早くノックする。
するとほんの一秒ほどで、扉の向こうから誰何の声がかかった。
「はい、どちら様で?」
「九奈白よ」
生徒会室というのはある種、近づきがたいイメージを持つ部屋のひとつである。
例えば職員室や生徒指導室に入る時など、たとえ自分にやましい部分がなくとも、緊張したり萎縮してしまう生徒は多いだろう。ここ生徒会室も、大枠の上ではそれらと同種の部屋であると言える。今回のように呼び出しを受けてのことであれば尚更だ。
しかし凪はまるで意に介する様子もなかった。
そればかりか『どちらも何も、そっちが呼んだんでしょう』とでもいった堂々たる態度である。
(やだ、うちのお嬢様カッコいい…………いやまぁ、有名ブランドの社長なんだし当然か)
凪に弱点があるとすれば、それは対人スキルのみ。
それすらも、社長の仮面を被り仕事と割り切れば問題にはならない。織羽と出会った当初がそうであったように。
ぼんやりと、そんなとりとめのない事を考えていた織羽に対し、凪が怪訝そうに声をかけた。
「…………また何か失礼なことを考えていそうな顔ね」
「いいえ。そんなことはありません」
「どうだか。ほら、入るわよ。さっさと終わらせて帰りましょう」
「かしこまりました」
そうして織羽が凪に代わり、生徒会室の重厚な扉を開く。
そこで待っていたのは凪を呼び出した張本人――――生徒会長の九条礼衣であった。
「生徒会へようこそ。と言っても今は私一人だが…………久しぶりだね、凪さん」
入室するなり部屋の正面、執務机に座る少女がそう声をかける。
恐らく肩下まであるだろう髪を頭の後ろで結い上げた、にこりと友好的に微笑む少女。確かな存在感も纏っており、成程確かに、生徒会長だと言われれば誰もが納得するであろう。凪の親族らしいというべきか、美しく切れ長の瞳が特徴的な美少女であった。一部、凪とは似ても似つかない部分もあったが。




