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姫の護衛は楽じゃない  作者: しけもく
第二部 三章

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第156話

 文化祭、あるいは学園祭。

 それは一年の中で、学生達にとって一際特別なイベントである。

 

 如何に格式高い淑女達の通う白凪学園でも、そうした側面は変わらない。

 日頃の厳粛な淑女教育の反動もあってか、むしろ他の一般的な学校と比べても遜色のない――――否、それどころではない盛り上がりを見せる。

 『秋麗祭(しゅうれいさい)』と呼ばれるそれは、市内でも有名なイベントのひとつである。


 一般にお祭りとしての側面が強い学園祭より、性質としては文化祭の方が近いと言えるだろう。つまりは日頃の生徒の学業、活動の成果を見せる場ということだ。少なくとも、表向きは。

 

 秋麗祭の開催当日は、当然ながら誰でも校内に入れるというわけではない。

 在学生の家族であれば無条件で参加が出来るが、それ以外は完全に招待制だ。生徒達は各々が招待権を持ち、三人までであれば外部からも友人や親戚を招待できる、といった具合だ。当然、入場時には警備による厳しいチェックがあるが、一応男性でも参加可能となっている。令嬢だらけの秘密の花園に男性が足を踏み入れる事の出来る、唯一のイベントでもあるというわけだ。とはいえそのシステム上、参加する男の九割九分は生徒の親類縁者となり、残りは警備か学園関係者となるのだが。

 

 そんな『秋麗祭』の準備期間に入った学園を眺め、織羽(おりは)はひっそりと呟いた。

 

「…………思ってたのと違う」


 織羽(おりは)が持つ文化祭のイメージは、一般的な学園での()()だ。

 各クラスで出し物について話し合い、やいのやいのと揉めながら、結局無難なものに落ち着く。それが展示であろうと、あるいは演劇や演奏のようなステージであろうと、極論なんだっていいのだ。その準備や練習に時間を割き、クラスメイト達と下らない話をし、ちょっとしたトラブルなどもありつつどうにか当日に漕ぎ着ける。

 

 手作りの装飾や小道具は不格好で、当然ながらプロの仕事とは比べ物にもならない、そんな稚拙な出来で。しかし最終的にはそれで良かったのだと、皆で笑って最後を迎える。そうした一連の流れこそがまさに文化祭の主体であると、織羽(おりは)は漫画や小説などからそういったイメージを持っていた。


 とはいえ、これは織羽(おりは)の勝手な妄想というわけではない。漫画で描写されていることから分かるように、ごくごくありきたりな一般論だ。いつぞや出た話から察するに、亜音(あのん)椿姫(つばき)もそうした経験をしている筈である。


 しかし、だ。


「…………めちゃめちゃ業者まみれですやん」


 そう。

 『秋麗祭』の準備風景はまさしく『プロの仕事現場』であった。

 別に出身地でもなんでもないというのに、思わず関西弁で突っ込んでしまう程度には。


 小綺麗な作業服に身を包んだ各業者達が、テキパキと敷地内を動き回る。

 外装業者が工事用ドローンや最新機材を使用し、凄まじい早さで足場を組み立て。

 内装業者は素早く静かに、次々と資材や機械を運び込んでゆく。

 

 そこには織羽(おりは)の想像していた『手作り感』などは微塵もなく、ただの外注工事風景だけがあった。


「だから言ったでしょう、ウチは()()だと」

 

 胸の前で腕を組み、当然のことだとばかりにそう告げる凪。

 今年入学したばかりの凪ではあるが、彼女は『秋麗祭』に参加した経験が一度だけだがあった。ふたつ上の学年、つまり現在の三年生に親戚が居るからだ。その親戚に招待され、凪は一年前の『秋麗祭』を見ている。そしてその当時もまた学生たち――――それも箸より重いものを持ったことがないような、筋金入りお嬢様方が作ったとはとても思えない、そんな外装の出来であった。つまりこれは毎度お馴染みの、ほとんど風物詩と化している光景なのだ。


 そう、風物詩である。

 毎年大量の業者を雇入れ、大掛かりな改装工事を行う白凪学園の秋麗祭。市内の人間であれば知らない者など居ないほど、ひどく有名なイベントだ。

 いわずもがなこの学園に通うのは、見栄を張るためならば金に糸目をつけない金持ちの娘達。そんな娘たちの学園生活に於ける一大イベントとなれば、親達はこぞって金を投入する。『あの家の娘が在籍しているクラスには負けられない』だの、『うちの娘のクラスが一番見事だ』だのと言って。


 元より潤沢な資金を持つ学園だというのに、そんな具合でぽんぽんと資金が放り込まれればどうなるか。

 その結果がこれである。秋麗祭などという雅な名称とは裏腹に、実体は娘を立てた代理戦争――――否、ただの札束ビンタ合戦である。つまりこの『秋麗祭』は、業者側からしてもまたとないビジネスチャンスなのだ。普段は誰も発注しないような高級オプションも、秋麗祭に限っては次から次へと発注がかかる。高額なダンジョン素材も惜しみなく使われ、通常の文化祭であればイミテーションで済ませるようなものまで全てが本物。


 業者からすればボーナスタイムだ。

 この日のために超高額なサービスプランを用意している業者もいる程である。

 それがほんの二日間の為だけに使われるというのだから、いっそ清々しいとすら言えよう。


 とはいえ、どんな業者でも選んでもらえるわけではない。

 当然ながら、市内でも超一流と呼ばれる業者しか選ばれない。故に各業者達はこの日のために業績と評判を伸ばし、選んでもらえるよう奮起する。場合によっては生徒の親が経営する会社が、そのまま仕事を受けることもある。しかし逆もまた然りで、『あそこの家の系列業者には発注しない』だとか、そういった謎の争いまで発生する始末である。


 ひどくバカバカしい話ではあるが、しかし実際にそうした競争意識が、秋麗祭という白凪学園のいちイベントのためだけに起こる。設備から衣料まで関連する業種は多岐にわたり、また業界の最大手が我こそはと参入するために、地域に齎す経済効果は学園のいちイベントとは思えないレベルにまで達する。そんな頭のおかしいイベントこそが、この『秋麗祭』であった。

 

 もちろん、一応の理由付けはある。

 今更言うまでもない事だが、この学園に通う生徒の大半は支配層である。つまりこれは、将来のための()()()()というわけだ。

 そういう意味では成程確かに、『日頃の成果を発表する場』という文化祭としての体面は、これである程度は担保されているのかもしれない。

 

 が、青春を夢見ていた織羽(おりは)に言わせれば邪道も邪道。

 実際に作業を行うのは全て業者で、生徒達が行うのはほとんど計画と指示出しのみである。果たしてこれのどこに青春があるというのか。


「むぅ…………ぶぅぶぅ」

 

「鳴かない。仕方ないでしょう? 世間知らずのお嬢様にイベントの準備だなんて、出来るわけないんだから」


「出来ないなりに頑張るのがいいんじゃないですか…………お嬢様は出来ますよね?」


「恥ずかしい話だけれど、全て手作業となると私も自信がないわね」


 一般的なお嬢様とはスケールでも実力でも一線を画す凪だが、そんなスーパーお嬢様でも流石に自信はないらしい。

 とはいえ護身術の心得もあり、かつ簡単な料理くらいであれば問題なくこなす彼女のことだ。或いはただの謙遜なのかもしれないが。


「お嬢様のヘッタクソな飾り付けが見たかったんですけどねぇ…………」


「…………貴女にしては珍しく、妙に興味を持っているとは思っていたけれど」


「凪パ――――旦那さまに言って、いまからでも手作業に変えてもらいましょうか」


「曲者同士で組むのはやめて頂戴。だから貴女とお父様を繋げたくなかったのよ…………いいからほら、さっさと生徒会室に行くわよ」


「はーい。ぶぅぶぅ」


 そうしていつまでも鳴き止まない豚を引き連れ、凪は呼び出しのあった生徒会室へと向かうのであった。


 

ここから第三章です

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