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姫の護衛は楽じゃない  作者: しけもく
第二部 二章

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152/185

第152話

 凪の婚活パーティー(仮)から明けて翌日。

 パーティーの規模自体は大きかったものの、さりとて公的なイベントというわけでもない。

 所詮は内々で行われた、金持ちだらけの打ち上げでしかないのだ。世間一般からすれば、どこぞの顔も知らないような金持ち達が集まって、なにやら豪勢に交流していたというだけの話。そんな事は市井の知ったことではないし、知ったところで彼らの生活には何の関係もない。

 

 故に昨夜の一見が大々的なニュースになるようなことはなく、小さなネットニュースとして取り上げられる程度に収まっていた。

 あの場で起きたことを知っている者は、昨夜にゲストとして参加していた者達のみ。パニックにならず、状況を冷静に理解出来ていたものとなれば更に数は減る。

 範囲は最小限でありながら、しかし疑惑の楔は確かに打ち込まれた。つまり織羽(おりは)達の仕掛けた『最強スパダリ作戦』は、狙い通りの成果を上げたというわけだ。


「あとは風音様の好感度をどれだけ稼げたか、ですね」


「そればかりは私も予想出来ないわね。あの曲者のお母様が、素直に()を選ぶかと言われると――――難しいところだわ」


 織羽(おりは)が淹れたお茶に口を付けながら、凪はどこか不安げな声音でそう零した。

 さもありなん、それ如何で凪の将来が決まりかねないのだから。


 主のそんな様子を横目に、亜音(あのん)お手製のザッハトルテを切り分ける織羽(おりは)

 気休めの言葉をかけるのは容易いが、それでどうなるというわけでもない。そもそもそんな気配りなどこのメイドには存在しないのだが。

 

 しかし作戦実行前とは異なり、今の織羽(おりは)には自信があった。

 あの時、あの場で出来るベストを尽くしたという自信が。

 振る舞いや言葉遣いにミスはなかった。戦闘に於いても同様に、力の片鱗を見せることは出来た。標的である風音はそこらの素人ではないのだ。水樹の実力はあの一撃で十二分に伝わった筈である。


「これで全然効果ナシだったら笑えますね。わはは」


「全く笑えないわよ。これでもしお母様が、どこの馬の骨とも知れないドラ息子の名前でも挙げようものなら…………」


「いえ、それは流石にないかと。最悪でも飛竜お兄様あたりだと思いますよ」

 

「ならやっぱり、どこの馬の骨とも知れないドラ息子じゃない」


 肩を竦め、大きくため息を溢す凪。

 近頃はため息ばかり吐いているような気がすると、自身でも分かってはいるのだが。


「またそんな言い方を…………ワイ(にぃ)は凄いんですよ?」


「ワイ…………なんですって? 貴女いつの間に、そこまで飛竜に肩入れするようになったのかしら」


「肩入れという程でもありませんが…………手加減していたとはいえ、ウチの職員(せんりさん)のシゴキに耐えたという点は称賛に値します」


「まぁ、探索者としての腕は確かみたいね。私にはどうでもいいことだけれど」


 もちろん国宝院飛竜は、凪の言うようなドラ息子では断じてない。

 家良し、顔良し、実力良し。現時点で途方もない金持ちだし、将来性も抜群だ。

 凪が個人的に苦手としているだけで、世間一般からすれば最高クラスの優良物件である。


 しかし何度も言うように、凪は結婚――――というより婚約自体に消極的である。

 少なくとも現時点では、相手が誰であろうと婚約するつもりはさらさらないのだ。

 つまりこれは相手がどうとかいう問題ではなく、単純に凪自身の問題である。


「ところで、結果は風音様が直接伝えにいらっしゃるのですか?」


「まさか。お母様はもう次の仕事に向かったわ」


「忙しい方ですね。とてもそうは見えませんが…………それでは?」


「また手紙じゃないかしら。きっと今頃飛行機の中で、私の嫌がる文面でも考えているのでしょう」


 風音は世界中を飛び回り、九奈白の外交官的役割を担っている。

 もちろん彼女だけで全ての渉外を担っているわけではないが、案件の重要度が上がれば上がるほど、彼女が出張ることになる。忙しないことではあるが、あまり一処に長居出来るような立場ではないのだ。そうした背景があるからこそ、先日風音が言っていた『たまの休み』という言葉は、嘘偽りのない彼女の本心だった。娘とじゃれ合ったこの一週間あまりは、確かに風音の心に癒やしを齎した。いっそリフレッシュだけが目的であったのなら、凪とてもう少しまともに応対していただろうに。


 ある程度の緊張はしつつも、務めて平静を装う凪。

 風音の赤紙が届いてからこれまで、凪は人事を尽くした。預かり知らぬところでは、嵐士や織羽(おりは)も動いてくれていた。事此処に至り、後は天命(かざね)を待つのみである。例えるならオーディションの当落通知を待つアイドル候補生、といったところだろうか。

 

 そうしてようやく過ぎ去った、凪にとっての一大イベントを二人で振り返ることしばらく。

 一通の手紙を携えた花緒里(かおり)が、凪の元へとやってきた。


「お嬢様、風音さまよりお手紙が届いていますよ」


「ほら、ね?」

 

 自身の予想が的中したことを、得意気に誇る凪。

 やはり母娘ということか、なんだかんだで互いのことは分かっている様子であった。


 (やっぱ仲いいじゃんね。いや、言うとぷうぷう膨らみそうだから黙ってるけどさ)

 

 内心でそんな事を考えている織羽(おりは)には気づかずに、凪がゆっくりと便箋を開封してゆく。

 もちろん手でびりびりと破くようなことはせず、高級そうなレターオープナーを使用して。

 そうして綺麗に開封すると同時、前回と同様に花の香りがほんのりと溢れ出す。

 

 綺麗に折りたたまれた手紙には、達筆な字で『凪ちゃんへ』と書かれていた。

 凪を両脇から挟む形で、花緒里(かおり)織羽(おりは)もずいと身を乗り出し手紙に注目する。


「…………開くわよ」


 恐る恐るといった様子で、凪が手にした手紙をゆっくりと開く。

 そこにはやはり達筆な筆字でたった一言だけ、こう書かれていた。


 凪ちゃんへ。

 ママは織羽(おりは)ちゃんを婚約者として推薦します。

 ママより。

 

 風音からの手紙は形式などもきっちりとしているため、基本的には長文になりがちである。故に本題部分を探すのが非常にめんどうだったりする。今回も恐らくはそうであろうと考えていた凪達は、手紙を開くと同時呆気にとられることとなった。いわずもがな、手紙の本文が僅か三行しかなかったからである。


「…………は!?」


「…………え!?」


 その文面を目にした瞬間、凪と花緒里(かおり)は凄まじい勢いで織羽(おりは)を見つめた。

 確かに風音は冗談や悪戯を好むが、しかし今回に限って言えば相応に真面目だった筈なのだ。そう思っていたところにコレなのだから、二人が混乱するのも無理はない。

 

 無論織羽(おりは)にしてみれば、見つめられたところで何がなにやら。文面も、そこに隠された真意も、風音の考えていることなど何ひとつとして分からない。

 目端の利く風音のことだ、昨夜のほんの僅かな時間のうちに、織羽(じぶん)の正体に気付かれたのだろうか。ボロは出していない筈だが、あり得ないとも言い切れない。そんな考えがぐるぐると、織羽(おりは)の頭を一気に駆け巡る。

 

 しかし、だ。

 こうもあからさまに『どういう事なのか』といった目線を向けられれば、どうにもふざけたくなるのが織羽(おりは)の悪癖だった。

 というわけで疑問はひとまず棚上げし、自分自身でもどういう状況なのか分かりはしないが、しかしまぁとりあえず。


「おや…………成程。では不束者ですが、よろしくおねがい――――」


「しないわよッ!」


「そんなー」


そんなー(´・ω・`)

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