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姫の護衛は楽じゃない  作者: しけもく
第二部 二章

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第139話

「ではお嬢様、私は外でお待ちしておりますので」


 凪とシエラ、そして飛竜の三人が受付を終える。

 会場内には入れない織羽(おりは)とはここでお別れだ。


「ええ。出来るだけ早く抜けてくるわ」


「可能なので?」


「…………努力目標よ」


 この祝賀会は立食パーティー形式である為、開催時間は二時間程度となる。

 その間、基本的に参加者の出入りは自由だ。故に目的を済ませた後は、早めに帰る者も当然居ることだろう。


 しかし凪はそうもいかない。

 確かに主催は風音だが、九奈白家という枠組みで言えば凪もホスト側なのだ。

 加えて裏の目的まで考えれば、途中で場を辞すことなど出来るはずもない。


「なに、気楽に待っていてくれ。心配性で健気な織麻呂嬢に代わって、私が彼女のナイトを務めよう」


「結構よ」


 織羽(おりは)の好感度を稼ぎたいのか、妙に張り切って見せる国宝院飛竜。

 頼んだわけでもないのに、どうやら『ワイバーンお兄様作戦』に近い動きをしてくれるらしい。もちろん凪は余計なお世話だと突っぱねるが、その一方で、飛竜を横に置くことについては一定の効果を認めていた。何しろ天下の九奈白家令嬢と、そして国宝院家の跡取りだ。風音の目を欺くことは叶わずとも、そこらの有象無象では気軽に声をかけられない組み合わせである。


 つまりこの不愉快極まりない催しの中で、会話の機会をぐっと減らすことが出来るというわけだ。

 隣に居るのがそもそも不愉快な相手という、本末転倒気味な話を除けばだが。


 なおキザったらしい台詞を恥ずかしげもなく言い放った国宝院飛竜だが、恋愛経験は皆無である。

 国宝院家という超上流階級の跡取りであり、まさかあちこちで女性に言い寄るなどと、そんな軽率な行動が許されるはずもない。加えて現役の探索者としても活躍している彼だ、恋愛などに現を抜かしている暇はない。台詞から感じるほど浮ついた性格ではなく、実はただのファッションチャラ男だったりするのだ。閑話休題。


 いずれにせよ会場内に入れない織羽(おりは)からすれば、国宝院の二人はありがたい存在であった。

 自分の代わりに、などと不遜なことを言うつもりはないが、コミュ障令嬢を一人野に放つよりはいくらかマシというもの。


「ほら凪、さっさと行きますわよ! いつまでも受付でだらだらと、恥ずかしいったらありませんわ」


「どうして私が『引率されている』みたいな感じになっているのかしらね…………騒いでいるのは貴女のところの亜竜なのだけれど」


「はっはっは、私は亜竜ではなく飛竜だよ」


 やいのやいのと、国を代表する二家の者とはとても思えないやかましさであった。

 そんな彼女らを、織羽(おりは)はただ深々と礼をして見送った。

 

(なんだかんだ言って、結構仲良いよねぇ)


 内心ではそんな風に考えながら。


 

 

       * * *




 流石というべきか。

 会場となる大ホール内は、それはもう豪華絢爛な仕上がりであった。


 内装は言うに及ばず、料理ひとつとっても一体どれほど金がかかっているのやら。

 高級ホテルの宴会場も斯くや――――否、それ以上といった様子である。


 凪などは『また無駄なことを』と呆れるばかりであるが、シエラと飛竜は感心するかのようにうんうんと頷いていた。

 凪の婚約者探しという目的があったとしても、それはあくまでもついでの話。表向きは正式な祝賀会なのだ。九奈白の名を使って開催する以上は、当然ながらみすぼらしい会場にするわけにはいかない。招待客の顔ぶれを考えればさもありなん、一見無駄遣いに見えるこの会場も間違いなく必要なことである。そもそもの話、この程度で九奈白家の財政状況が変わることなどあり得ないのだが。 


「流石は九奈白家と言わせていただきますわ。悔しいですけれど」


「なによ急に。貴女の家が主催でも変わらないでしょ」


「いいえ。こういう事に限って言えば、やはりウチは一歩及びませんわ。悔しいですけれど」


 そんな錚々たるゲスト達を遠巻きに、シエラが口を尖らせる。  

 何かと比べられることの多い九奈白・国宝院両家だが、その得意分野ははっきりと分かれている。こうした外交寄りの催しは九奈白の得意分野だ。つまりは畑違いであり、国宝院が劣っているというわけではないのだが――――二度も『悔しい』と口にするあたり、素直に受け入れたくはないのだろう。シエラの負けん気の強さがよくわかる一言であった。


「おや、あそこに探索者協会の会長がいるね」


「なら、挨拶にでも行けば? 貴方達国宝院にとっては一番のビジネスパートナーでしょう?」


「なに、織麻呂嬢と約束したからね。今夜の私はキミのナイトだ、そう簡単には離れないよ」


「私は頼んでないわよ」


「それに普段からよく顔を合わせている相手だ。慌てて挨拶する必要もあるまいよ」


 実のところ、凪達三人は会場入りした瞬間からかなりの注目を浴びている。

 会場内の誰もが、三人のうちの誰かとは話がしたい。最悪、顔と名前を覚えてもらえるだけで十分だ、と。界隈を代表する二家の跡取り達なのだから、当然と言えば当然だ。予想通りと言ってもいい。それでも未だ声をかけられずに済んでいるのは、偏に『三人一組』で突っ立っているからである。


 三人のうち誰かに話しかけるということは、自動的に他の二人とも会話をすることになる。

 凪に話しかけておいて、シエラや飛竜を無視することなど出来るはずもないのだから。


 となれば、会話のハードルは一気に跳ね上がる。

 好みの会話はそれぞれ異なるであろうし、話しかける順番にすらも気を払わなければならない。

 例えばこれが嵐士と凪の二人であったなら、当主の嵐士から先に声をかければ済む話だ。しかし九奈白凪と国宝院飛竜&シエラとなると、後に回された方の心象を悪くしかねない。凪やシエラの性格が難しいことは知られているし、唯一話しかけやすい筈の飛竜は立場上、跡取りという点で凪と対になっている。あちらを立てればこちらが立たず、の典型と言えるだろう。そうした複雑な状況が、現在のバリア状態を作り出していると言っていい。


 そうした状況を理解しているからこそ、凪もまた積極的には飛竜を引き離せない。

 飛竜もまた織羽(おりは)から虫除け役を託された為、凪から離れるわけにはいかない。


 声をかけたいゲスト達と、離れられない三人。

 互いの事情が複雑に絡み合った結果、なんとも言えない膠着状態に陥っていた。


 そんな凪達を遠くから眺める者が二人。

 言うまでもなく、会場最奥でお歴々からの挨拶を捌いていた嵐士と風音であった。

 

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― 新着の感想 ―
織麻呂嬢って凄くシュールですねw
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